62 夜の海より性の海
六十二話 夜の海より性の海
さて、晩御飯前にマリアが『夜の海には近寄らない方がいい』と言っていたけど、今のオレはその発言が脳から吹き飛ばされるのではないかという事態に陥っていた。
「はーい、じゃあ次はマリアちゃんねー」
敷布団の上。 旅館で用意されていた部屋着を身に纏った石井さんが、前のめりになりながら手に持っているトランプをマリアに向ける。
「むぅ……、ゆづきの目、絶対にジョーカー持ってる」
「うーん? それはどうかなー」
そう、今四人で行っているのはトランプゲーム定番のババ抜き。
愛ちゃん、マリア、石井さんは遊びとはいえ真剣に向き合い楽しんでいて、オレも出来れば純粋に楽しみたいところなのだが……どうしても目の前の遊びに集中できない理由があった。
「はふ……っ。 こ、今度は愛の番」
「あ、マリアちゃん今ジョーカー引いたでしょー!」
「愛何言って……。 マリア、引いてない」
「愛ちゃんの言う通りだよマリアちゃん。 顔に出てるよー」
「むぅう……!」
旅館で用意されていた部屋着は簡単に言うと浴衣みたいなもの。
それが遊びに熱中している間に少しずつはだけていき、三人とも太ももあたりまで生脚を披露しているのだが、誰一人としてそのことに気づいていないのだ。
そしてそんな魅力的な脚もさることながら……
「はい、お兄ちゃんの番だよー」
愛ちゃんが満面の笑みでオレにトランプを向けてくる。
「え、あ、うん」
「どのカードとるー?」
オレは愛ちゃんの持つトランプに手を伸ばしながらも、その視線は大きくはだけている胸元。
愛ちゃんが体を少し左右に揺らすだけで、はだけている襟もそれに合わせて小さく動く。 しかしあと少しで見えそうな魅惑の果実が、ギリギリのところで顔を出さないため拝むことができない。
「ん? お兄ちゃん?」
「ああああ!! ご、ごめんボーッとしてた!!」
あまり凝視していてはバレるのも時間の問題だからな。
もう少し見ていたいが、それはまた愛ちゃんのターンになった時に見ればいいとして、ここはすぐにカードを抜いて石井さんにターンを回さなければ。
オレはあまり考えずに愛ちゃんの手札から一枚トランプを抜き取って体の向きを石井さんの方へ。
すると今度は愛ちゃんとは別のインパクトがオレの視界を……理性を襲ってきた。
「じゃあどのカード、とろうかなー」
なっ!!
パ……パパパ、パンツ!!
視線を下に向けた途端、オレの目に入ってきたのは部屋着がはだけて大きく露出している石井さんの脚と、その最奥に身を潜めていた神秘のベール。
なるほど石井さんがチョイスしてきた替えのパンツは水色なのか。 水色生地に薄く白い水玉模様の入った可愛らしいパンツがオレに『こんばんは』の挨拶をしてくる。
おおお……おおおおお!!!!!
「えっとねー……じゃあこれにしようかなー」
石井さんが脚を動かすと、その神秘のベール中央に縦のシワが出現。
もしかしてそこが……そこが桃源郷なのかああああああああ!?!?
やはりパンツは男の夢。
あまりの可愛さとセクシーさ、それとエロさにオレの脳は完全に理性を崩壊。
これが公共の場ならアウトだったな。 オレはこの女だらけの状況で非常に気まずい事態……男の本能が覚醒したことを静かに察知した。
「あ、YABE」
即座に反応したオレが前屈みになると、何も知らない石井さんが「どうしたの?」と顔を覗かせてくる。
「え、あ……えっと……って、おお……おおお!!!」
今のオレにはパンツだけでも極上のご褒美……なのだが、今夜はラッキースケベ祭りだぜ。
石井さんも前のめりになっているため、その豊満な夢の一部が若干緩んでいた襟元からポロリと溢れる。
「ああ……ああああああ」
「だ、大丈夫? 加藤くん、顔が赤くて……どこを見てるの?」
どこを見てるってそんなの決まってる……!!
そしてここまで禁断の聖域を見せられた日には、オレはもう……オレはもううううううう!!!!
完全☆覚醒
石井さんや愛ちゃんたちと同じ部屋着を着たのが失敗だったな。
普段なら隠してくれるはずのズボンがないことで、オレの一部はその力を遺憾なく発揮。 それに気づいた石井さんは顔を真っ赤にしながら持っていたトランプを落とし、石井さんの反則負けとして勝負は幕を下ろしたのだった。
マリア、夜の海が怖いみたいな発言をしてたけど、もっと怖いものをオレはついさっき知ったよ。
それは性欲の海。
夜の悪霊も、もちろん怖いし少しは手強いかもしれないけど……悪霊は倒せるがエロで生じた性欲は、人である限り抗うことはできない。
人間は、この性欲の前では素直にひれ伏すしかないんだ。
「ど、どうしたのゆづきちゃん」
「ゆづき?」
オレの一部に視線を向けてフリーズした石井さんを心配して、愛ちゃんやマリアが石井さんに声をかける。
「え、ううん。 なんでも、なんでもないよ」
しかし石井さんは一切視線を動かさずに会話を続けてしまっていたため、とうとうその視線の先を追った愛ちゃんたちにもバレることになってしまった。
「あ、お兄ちゃん、またなっちゃったの?」
「ほんとだ。 前にもあったけど、ほんとに不思議。 見てるとマリア、ドキドキする」
「えええ!? また!? 前にもあった!? ね、ねぇ加藤くん、それってどういう……!!」
ああああ、なんて勘違いを生むような発言をしてくれるんだ、愛ちゃんマリア。
それと石井さんも、愛ちゃんたちの目の前でそんな興奮しないでくれ……恥ずかしい状態だってことが、バレてしまうじゃないか。
ーー……あぁ、色々とオワタ。
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