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60 海旅行は波乱万丈!?④


 六十話  海旅行は波乱万丈!?④



 オレの買ってきたジュースを飲み休憩し終えた石井さんや愛ちゃんたちは、再び立ち上がるとまっすぐ海へと体を向ける。



「え、もう行くの?」


「うん、だって楽しいし……加藤くんは来ないの?」


「あー……そうだね、じゃあオレも行こっかな」



 オレが参加するとは思っていなかったのか、参加の意思を示した途端に愛ちゃんは大歓喜。

「やったー! じゃあ今度はお兄ちゃんも入れて、二人ペアでビーチボールしよー!」とオレの手を引っ張り立ち上がらせてボールを渡してきた。



 ーー……そうだな、こうして集団でいた方がヤンキー女子たちが近くにいたとしても見つかりづらいだろうし、愛ちゃんもこんなに喜んでくれているんだ。 こうなったら限界まで遊んでやるさ。



 こうしてオレは照りつける太陽の下、暑さと戦いながら愛ちゃんたちとボール遊びを開始。

 そしてそれは約三十分の間ノンストップで続けていたのだが……やはりそう人生上手くいかないものだよな。



「あ、いた加藤ー!!!」



 マジかよ。



 背後から聞こえてきたのは、今日と明日の二日間だけはもう聞きたくなかった声。

 振り向いてみると案の定それは陽キャ佐々木さんで、なぜか金髪クール進藤さんと退院した黒沢さんはいなかったのだが……佐々木さんはオレのもとへ来るなりいきなり腕を掴み、「ちょっと来て!」とオレを引っ張りだした。



「あ、加藤と海来てたの石井さんだっだんだね! ごめん、ちょっと加藤借りるわ!」


「え? う、うん……?」



 いや『うん』じゃねぇだろ!!!



 ◆◇



 佐々木さんに引っ張られながらオレは最悪の展開を想像する。

 もしかして佐々木さんたち、あまりにも暇すぎて海のど真ん中でオレの水着を引っぺがす気じゃないだろうなぁ!?



「ちょ、ちょっと佐々木さん、離してって!」



 想像通りの展開になると予想したオレは必死に足を踏ん張って抵抗。 

 絶対にこんななところで辱めを受けるわけにはいかない……そう思っていたのだが、佐々木さんの口から発せられた言葉は思いもよらないものとなっていた。



「ごめんって! ただ加藤は話を合わせてくれるだけでいいからさ……!」


「なんでオレ……一体何させる気なの!?」


「彼氏役! 加藤はアタシらの誰かの彼氏ってことにしてそこにいるだけでいいから!」


「か、彼氏役!?」


「そう!」


「ええええええ!?!?



 何がどうなってそうなってしまったのか、まったく展開が読めない。

 しかもなんで進藤さんたち三人の誰かの彼氏って設定なんだ!?



 頑張って頭を回転させてみても、自分で納得のいく答えは結局思い浮かばず。

 そうしているうちに目的の場所へと到着。 そこに広がっていたのはまさに惨劇と言えるほどの光景だった。



「ちょ、これは……」



 砂浜の上には同級生なのであろう見覚えのある顔のヤンキー男子たちが苦痛の表情を浮かべながら倒れていて、その奥では大学生らしき男グループに囲まれ詰め寄られている進藤さん黒沢さんの姿。



「ねぇ佐々木さん、これは一体……」


「約束通り、つ、連れてきたよ!! えっとその……ゆりかの彼氏!!」


「は?」



 オレが状況を尋ねようとしたところ、佐々木さんはオレの質問を完全にスルーして「この人! この人だから!」と大学生グループに叫び始める。

 するとどうだろう、先ほどまで進藤さんたちに迫っていた大学生たちはその視線をオレへと変更。「じゃあこの落とし前、お前の大好きな彼氏をボコることで許してやるよ」と指の骨を鳴らしながらオレへと近づいてきた。



「ーー……説明してくれるかな佐々木さん」



 改めて声をかけると、佐々木さんは満面の笑みで親指を立てた。



「よし、加藤、返り討ち頼む!」


「え」


「アタシらが知らないとでも思った? 前に奈々の元カレと喧嘩してトラウマを植え付けたのって、加藤なんでしょ? あいつを倒せた加藤なら大丈夫! もちろんあのことも、今回のことも黙っててあげるから、遠慮なくボコっちゃってよ!」


「えええええええええ!?!??!?」



 あれ、オレの力じゃない……ていうかどこから漏れたんだその話ーー!!!!



 進藤さんたちに助けを求める視線を送ってみるも、あっちの二人も完全にオレが実は喧嘩が強いマンだと思っているのか、口パクで「よろしく」と伝えてきている。



 ああああ、もう、どうしてこうなっちまったんだ!!!

 楽しいはずの海旅行がこいつらのせいで台無しじゃねぇか!!!



 ここであの大学生たちの思うがままに殴られてしまっては、この後も待っている愛ちゃんたちとのドキドキな時間が全てなくなってしまう……それだけは避けなくてはならない。

 オレは大学生たちの良心を信じて言葉で解決できないか試してみることに。 完全に彼氏役を演じながら「うちの彼女がすみませんでした」と頭を下げてみたのだが、気づけばオレの体は宙を舞っており……その後少し遅れて顔面に強烈な痛みが走った。



「か、加藤!?」



 地面が砂でよかったぜ。

 背中を強く地面にぶつけたものの、砂浜のおかげでオレに転倒ダメージは無し。 この結果に驚いた佐々木さんが「え、なんで!? 喧嘩強いんじゃないの!?」と駆け寄ってくる。



「いや……気のせいだから」


「は!?」


「オレ、本当に何もしてない」


「はああああああああ!?!?!? じゃあ誰がアイツをやっつけたって言うの!?」



 オレのやられ具合がかなり滑稽……彼女にみっともない姿を晒したことで満足したのか、大学生たちは高笑いしながらその場を去っていく。

 だがな、オレを無駄に殴ったお前らがタダで済むとは思うなよ?



 消えろ。 周りに倒れてるヤンキー男子たちが何をしたのかは分からないけど、オレの楽しい時間を奪った罰だ。



 オレは遠のいて行く大学生たちの背中へ向けて手をかざすと、彼らを護っていた守護霊たちをまとめて強制除霊。 護衛のいない人間を察知した低級霊たちが群がっていくのを確認したところで、オレを心配して探してくれていた愛ちゃんたちの声が聞こえてきた。



「お兄ちゃーーん!!!」



 愛ちゃんの声が佐々木さんにも届き、佐々木さんが「あれ、あの子たちって前の交流会の時にいたよね?」とオレに尋ねてくる。



「あ、うん。 妹……です」


「妹!? 二人とも!?」


「うん」


「ぜんっぜん似てないけど!!! ていうか一人は明らかに日本人じゃないでしょ!!」


「いろいろ複雑な事情がありまして……」



 そう伝えると佐々木さんは流石に鼻血を出しているオレの姿を愛ちゃんたちに見せてはまずいと思ったのか、慌ててオレの体を起こして顔をその豊満な部分に押し当てる。



「んむむ!?」



 その後佐々木さんは駆け寄ってきてくれた愛ちゃんたちに、とんでもない話をし始めたのだった。

 


「お兄ちゃん何して……って、ええええ!? なにしてるのお兄ちゃんー!!!」

「おお」



 顔は埋もれていて直接みることは叶わないが、後ろからは愛ちゃんたちの驚いた声が聞こえてくる。



「あははは、加藤の妹たちじゃないか! こんにちは! ちょっとお兄ちゃん借りてごめんねー!」


「何してたの!?」


「んーとね、ここに何人も男子が転がってるでしょ!? アタシら実はこいつらに襲われて……それをお兄ちゃんに助けてもらったから、お礼にギュってしてたんだよねー!!」


「ええええええ!?!? お兄ちゃんがあああああ!?!?」



 佐々木さんは愛ちゃんたちが信じ切っているのを確認すると、「んじゃ、ありがとね加藤」と魅惑のエリアからオレの顔をゆっくり離す。


 もう少し今の弾力を味わっていたかったが、あまり文句は言うまい。

 それに愛ちゃんに心配させるわけにはいかないからな。 オレも佐々木さんの話に合わせながら「いや、大変だったよ」と笑顔を作りながら愛ちゃんったちの方へと向けた。



「お、お兄ちゃん、鼻血!!」


「え」



 愛ちゃんに言われて一瞬で思い出す。

 そうだ、オレ……殴られて鼻血出してたんだった。 豊満な柔らかさで完全に記憶を塗り替えられてたぜ。



 数秒前の柔らかさを思い出していると、今度はマリアが「もしかして良樹、エチチなこと考えすぎた?」と佐々木さんの胸部を指差しながら尋ねてくる。



「は?」


「だってお姉さんの水着に、鼻血、ついてる」


「いや、あれはなんというか……」


「言い訳はカッコ悪い。 ゆづきも、そう思う?」


「加藤くん……もう」


「ええええええええ!?!?」



 慌てて佐々木さんに視線を向けるも、佐々木さんは視線をそらして小さく口笛を鳴らし始める。

  


 な、なるほど。 そう言うことかああああああ!!!!

 はかったな佐々木いいいいいい!!!!!!


 

 こうしてオレの鼻血事件は、ただただオレがエロい世界に興奮した……ということで一件落着。

 それからなぜか進藤さんの提案で、ヤンキー女子を含めた七人で近くの喫茶店で休憩しようという話になったのだった。



「ごめんね石井。 石井も休憩に付き合ってくれる? そっちのみんなの分は私らが出すから」


「え、う、うん……。 でもなんで?」


「加藤にはあいつら倒してくれたお礼で、石井たちには大事な時間を奪ったお詫び」


「あ、ありがとう。 進藤さん」


「それはこっちの台詞」



 進藤さんは相変わらずのクールな表情で石井さんの手を引き「あっちにあるから」と歩き始める。



「でもさ、あの男子たちはいいの?」


「いいの。 元はと言えばアイツらのせいだから」


「ーー……アイツらの?」


「なんでもない。 行くよ」


 

 ーー……何があって、あんな惨劇になったんだ?



 ヤンキー男子たちが少しだけかわいそうな気もするが、あのヤンキー女子たちの態度からして、本当にアイツらは面倒なことをしでかしたのだろう。

 オレは未だ若干残る顔面の痛みを感じながら皆の後に続いていたのだが、ここでオレは思わず発見をすることになった。



「ねぇねぇ、お姉ちゃんたちヤンキーなの?」



 愛ちゃんが目の前を歩いていた陽キャ佐々木さんに声をかける。



「おいおいなんだー? 今の小学生ってもうそんな言葉知ってんのー?」


「んー、漫画でちょっと見た! タバコとかも吸うの?」


「あのねチビちゃんズ、そういうのを偏見ってんだよー。 タバコ吸ってる高校生はただの見栄っ張り……一番ダサいことなんだから覚えときなー。 アタシはもちろん、隣にいる奈々も、目の前の金髪のおねーちゃんも、誰一人お酒もタバコもやってないかんねー」


「そーなの!?」


「もちろん!」

「だよー。 目の前の金髪は見た目からしてやってそうに見えるけどねー」


「ーー……聞こえてるから」


「あはははは!! ごめん!!」



 交流会の時はガチで子供が苦手な奴らだと思ってたけど……結構子供の扱い上手くないか?



お読みいただきましてありがとうございます!!

励みになりますので感想や評価・ブクマ・レビュー・いいね等、お待ちしておりますー!!!

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