57 海旅行は波乱万丈!?①
五十七話 海旅行は波乱万丈!?①
愛ちゃんがオレに不満を言わないことを、高槻さんに相談したオレ。
高槻さんが後日ベテランの先輩教師にそれとなく解決法を聞いてくれると言う話になり、その翌日、実際に聞いてくれたということで、高槻さんの話に耳を傾けた。
「基本的にそういう傾向のある子は、ほとんどが両親から虐待を受けていて……怒らせないためにワガママや不平を言わなくなるのが多いらしいの」
「虐待……ですか」
「うん。 でも良樹くんはそんなことしないって知ってるし、愛ちゃんも本当に幸せそうなのは見てて分かるから……ごめんね力になれなくて」
どうやら高槻さんの先輩曰く、良い子すぎて困っているという相談は、今まで一度もなかったらしい。
「そうですか。 ありがとうございました高槻さん」
「でも逆を言えば、愛ちゃん……良樹くんに文句を言うほどの嫌なことが無いんじゃないかなって思うの。 だからなんて言うか……そうだなぁ、良樹くんがそこまで思い詰めなくてもいいと思うな」
ーー……まぁそうなるわな。
別にそれで実害とかないわけだし、普通はそう落ち着くよな。
オレは改めて高槻さんにお礼を述べると、これはどういう意味なのだろうか……高槻さんが優しく微笑みながらオレの頭を撫でてきた。
「た、高槻さん!?」
「まぁ、あれよ。 私からしたら、良樹くんの方が心配かな。 色々と自分の時間を犠牲にして頑張ってるようだし」
「オレですか」
「そ。 ちょうど明後日から海旅行なんだよね? お留守番は私に任せて、目一杯羽を伸ばしておいで」
「ーー……あ、そうだった」
そうか、二日後にはもう石井さんとの海旅行……愛ちゃんのことや高槻さんのことで色々ありすぎて、完全に忘れていたぜ。
オレは部屋に戻るとすぐに用意を開始。
そこで思い出したかのように昨日、愛ちゃんとマリアがオレの代わりに選んで購入してくれた、オレ用水着の入っている袋に手を伸ばした。
「愛ちゃんたち、どんなものを選んでくれたのかなー……って、え」
ええええええええええええええ!!!!!
そこに入っていたのは確かに水着……なのだが、オレの予想していた系統とは真反対。
「これ……競泳用とかのピッチリ・ブーメラン水着じゃねえかああああああああ!!!!」
オレは慌てて明日の予定を確認する。
「明日は放課後高槻さんの家に寄って、簡単な引越しのお手伝い……あ、水着買い直す時間ないわオワタ」
◆◇
海旅行当日。 早朝に愛ちゃんマリアを連れて待ち合わせ場所でもある最寄駅へ向かうと、すでにそこには石井さんの姿。
白いワンピースを着た清楚な石井さんが笑顔でこちらに向けて手を振っていた。
「あー!! ゆづきちゃんおはよー!!!」
「ゆづき、おはよもーにん」
石井さんを見つけるなり愛ちゃんもマリアも満面の笑みで石井さんのもとへと駆けていく。
「あれ、ゆづきちゃん、弟くんは? お兄ちゃんがゆづきちゃんの弟くんも来るって言ってたけど」
「うん、私もそのつもりだったんだけど、楽しみすぎて夏風邪引いちゃったんだ。 愛ちゃんやマリアちゃんたちに伝染しちゃうのも申し訳ないから、私だけになったの」
「そーなんだ。 じゃあお土産買ってあげないとね!」
「うん、ありがと愛ちゃん」
「ゆづき、弟くんがいない代わりに、マリアが妹になる」
「ふふ、マリアちゃんもありがと」
ーー……おいおい、なんかオレだけ蚊帳の外なんですけど。
二人がオレよりも石井さんに懐いていることに若干のジェラシーを感じながら、いざドキドキワクワクな海旅行が幕を開けた。
「ゆづきちゃん、水着買った?」
「もちろん買ったよ」
「へー! どんなの?」
「それは着いてからのお楽しみかなー」
「楽しみー!」
ウヘヘ、確かに。
◆◇
石井さんの親戚が経営している旅館までは、電車から新幹線の乗り換えて、そこから海行きのバスに揺られて数十分。 早朝に出発したのにも関わらず到着したのは昼過ぎで、オレたちはひとまず旅館へ赴き石井さんの親戚に挨拶をする。
旅館は至って普通の和風って感じの木造建築。
入り口に入ると石井さんのおじさんらしき人が出迎えてくれて、それに気づいた石井さんがぺこりと頭を下げた。
「おじさん、久しぶり」
「おーゆづきちゃん、少し見ない間に綺麗になって……っていうかあれ? そこにいる男の子は……」
「あーうん。 お友達。 あ、でもおじさんこのことはお父さんやお母さんには……」
え、それどういうことだ?
少し心配になり聞いてみると、どうやら石井さんは女の子の友達と一緒に海に行くことを両親に伝えていたとのこと。
なので、そこに男が紛れてることがバレたら色々とマズいらしい。
「ええええ!? 大丈夫なのそれ!!」
「あはははは、うん、みんなが黙ってくれてたら大丈夫かなって。 それに私がこうして気を使わないで楽しめる相手って、加藤くん以外には愛ちゃん、マリアちゃんだけだし」
石井さんは頬を掻きながら「ていうことだから、おじさん、黙っててくれる?」と恥ずかしそう見上げる。
そしておじさんも美人のお願いを無下には出来ないんだろうな。「分かった分かった、内緒にしてあげるよ」と苦笑いで了承してくれたのだった。
「ありがとおじさん」
「あ、ありがとうございます」
ここはオレも感謝しておかなければという気がしたので、一応オレも頭を下げる。
するとどうだろう、次におじさんの口から発せられた言葉に、オレと石井さんは無言で顔を見つめあった。
「でも困ったな、おじさん完全に女の子だけだって思ってたから、大きめの部屋一つしか用意してないよ」
「「ーー……え」」
「どうしたのお兄ちゃん」
「ゆづき?」
「「ええええええええええええ!!!!」」
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