55 恩返し
五十五話 恩返し
今週末の海旅行のために愛ちゃんたちとショッピングモールに水着を買いに来たオレだったのだが、そこでまさかの高槻さんと遭遇。
しかもそこで、高槻さんが「詐欺にあったんですー!」と発言したんだ。
「えええええ!?!? 」
これはもう水着を買いに行っている場合じゃない。
オレは詳しく話を聞くため、あまり『詐欺』という言葉にピンと来ていない愛ちゃんとマリアに、先に水着を買いに行くよう伝える。
「お兄ちゃんは?」
「オレはちょっと高槻先生とお話ししたくて」
「そうなんだ。 じゃあ私とマリアちゃんで、お兄ちゃんの水着も買ってこようか?」
「ほんと? だったらお願いできるかな」
「うん!!」
「任せて」
愛ちゃんとマリアは仲良く手を繋ぎながらショッピングモール内の水着売り場へ。
二人の姿が見えなくなったのを確認して、オレは早速話の続きを聞いてみることにした。
「あのー、ちなみに詐欺ってどんな?」
「笑わないでくれる?」
「もちろんですよ」
どうして詐欺に遭ってしまった人を笑わなければならないのだろうか。
オレは絶対に笑わないことを高槻さんに約束。 すると高槻さんは少し躊躇しながらも、ゆっくりと口を開けた。
「警察官を装った方にその……騙されて」
ーー……は?
高槻さんの話ではこうだ。
休日、高槻さんが部屋でのんびりしていると、警察官の服装を身にまとった男性が突然訪問。 一体何事かと尋ねてみたところ『あなたの銀行口座の情報が漏洩しているようです』と言われた。
『銀行口座……ええ!? そうなんですか!?』
『はい。 それで本当にご本人の物なのか確認を取りたいので、高槻さんのキャッシュカードをこの機械に通して確認してもいいですか?』
『は、はいはい! それはもう……お願いします!』
いきなりのことで焦ってしまった高槻さんは警察官風の男性の言われるがままキャッシュカードを提出。 そこでキャッシュカードを謎の機械に通され、その場で『確認が取れました。 では対処が出来次第、再び訪問させていただきます』とだけ伝えられたらしいのだが……
数日前、自動引き落とし設定にしていたはずの水道局やガス会社等から料金未納の通知が届いてそこで発覚。
少し前までは確かに残高はあったらしいのだが、この数日で全てが引き落とされ空っぽになっていた……とのことだった。
「え、ええええええ!?!? マジですかああああああ!!!!」
本来ならここで『それってお年寄りとかを騙すやつですやん!!』と突っ込みたかったところなのだが、必死に口を閉じる。
「ね、やっぱり笑ってくれてもいいよ」
「いやいや笑えませんって!! ていうか次の給料日は……親に頼ったりはしないんですか!?」
「給料日はまだ先ですし……それに私の実家は田舎の方で、あまり頼りたくはないんですよね」
おやおや、これは更に重い話になりそうな予感……話をそらした方が良さそうだな。
オレは話の路線を一気に変更。
ご飯はどうしてるのか尋ねてみると、高槻さんは苦笑いをしながら隣に置いてあったレジ袋を持ち上げた。
「これが今日の晩御飯です」
「ーー……な」
中を覗いたオレは絶句。
そこに入っていたのは缶ビール一本とそのおつまみ……のみ!!!
「これだけ……ですか?」
「はい、これだけ……です」
「えええええ!?!? 」
これはさすがにヤバすぎるだろおおおおお!!!!
ていうか、そこまでして酒を飲みたいのかあああああああ!!!!
ここでオレは先々週、高槻さんに色々と買ってもらったことやご飯を奢ってもらったことを思い出す。
お金を返そうとすると、高槻さんは「いや、それは私が奢りたくて奢ったんだから、返さないで」と断固拒否の構えをとった。
「えええ、でも」
「騙された私がバカだっただけのことだよ」
しかしそんなよくしてくれた高槻さんを、こんなところで見過ごすほどオレは冷酷ではない。
「高槻さん!」
オレは高槻さんの手首を掴んで立ち上がらせると、財布から取り出した一万円札を高槻さんの手に握らせる。
「え、ちょっと……加藤くん、これって」
「いきなりなんですけど、お金の工面が出来るまでウチで泊まってください。 この一万円はタクシー代です。 一旦家に帰って荷物持って、直接きてください」
「え、ええええ!?!?」
「詳しい住所は後でメールするんで。 それじゃ」
「か、加藤くんーー!?!?」
オレはそれだけ告げると駆け足でその場を後に。
これぞヤンキー女子・黒沢さんの【無茶振りしてからの、じゃあよろしく】戦法なり! 数日間、それで振り回されて大変だったけど役に立ったぜ!!
それから何度か高槻さんから着信があったのだがオレはそれを一切無視。
無事水着を購入した愛ちゃんたちと帰宅してしばらくすると、インターホンが短く鳴った。
お読みいただきましてありがとうございます!!
最近時間が取れず挿絵を描けない日々が続いてますが……水着だけは……必ず!!笑




