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54 いざ準備……のはずが!?


 五十四話  いざ準備……のはずが!?



 先週末は濃密だったな。



 土曜日には愛ちゃんの霊力が龍神のおかげで開花し、更に龍神からもらった【陰陽】と【龍】の力は引き出せていないものの、オレの霊力を込めたお札なしで霊が視えるように。

 だけど愛ちゃんがまだオレたちに素の自分を見せてくれていないことを御白から聞かされて絶望し、それを少しでも出せる環境を作ろうと翌日の日曜日には子供らしい休日を……愛ちゃんやマリアと遊園地で遊び尽くしたんだよな。



『見て見てお兄ちゃん!! 風船もらった!!』

『むぅ、マリア、ジェットコースター乗りたかったのに、身長制限で乗れなかった。 残念』

『元気出してよマリアちゃん! 私も小さくて乗れなかったし……でも、あっちの小ちゃなテントウ虫のジェットコースターなら乗れそうだよ! 一緒に行こ!』

『おぉ、マリア、ショックで視界が狭くなってた。 行く、愛は風船を良樹に預けて』

『お兄ちゃん! 行ってくるから風船持っててー!!』



 目を閉じれば思い出す。

 あの時の無邪気にはしゃぐ愛ちゃんとマリアの姿を。



 朝の教室。

 結構早めに着いたオレが目を閉じて数日前のことを思い出して癒されていると、珍しくかなり早く登校してきた石井さんが「ねぇ加藤くん」と背中を叩いてくる。



「ん、どうしたの?」


「ううん、なんか思いふけってるように見えたからどうしたのかなって」


「あーうん。 先週愛ちゃんたちと遊園地に行ったんだけど、その時のこと思い出してたんだ」


「そうなんだ。 いいね、私も行きたいなー遊園地。 あ、そういえば今週の週末、空いてるって言ってくれてたよね」


「ーー……」



 石井さんの言葉で思い出す。



 そういえばそんな予定あったな。

 先週の夜に愛ちゃんたちに予定がないことが分かって、その日のうちにメールで『空いてるよ』って連絡したんだった忘れてた。



 オレが無言で思い返していると、石井さんが不安そうに「え、もしかして予定出来ちゃった?」と前のめりになるながら顔を近づけてくる。



「え、あ、ううん、ないよ予定」



 相変わらず女の子特有の甘い香りと香水の香りが合わさっていて、ずっと嗅いでいたいぜ。

 オレが音を立てずに鼻から吸引している目の前で、石井さんは「そ、そっか。 よかった」とホッと胸をなで下ろす。



「ていうかさ、確か土日の二日間空けといてって話だったけど……結局なにするの?」


「うん、実は親戚のおじさんが海の近くで旅館を経営してるんだけど、夏休みになるまで暇だから泊まりに来ないか?って言われたんだ。 それで昨日諸々の準備が出来たらしくて……」


「ん?」


「だから、行こ、海」


「ーー……」


「あ、交通費とかの心配はしなくていいからね! そこに関しては私のお母さんが……」



「おはよー」

「おお、ゆづき早いねー」



 石井さんが詳しく話をしてくれようとしていたのだが、ここで数名のクラスメイトが教室内へと到着。 これにより石井さんはそれ以上話すことが出来なくなり、詳しくはまたメールで教えてもらうことになった。



 あ、これもうオレ行くこと決定してるやつやん。

 別に嫌とかそういうわけではないけど……



 もしかして、見れるのか? その巨乳の水着姿。



【受信・石井さん】さっきは話途中でごめんね。 それで朝の続きなんだけど……



 石井さんとのメールのやり取りで分かったことは、今回の海での遊びは泊まり……宿泊になるのだが、宿泊費・食費等は石井さんの親戚のおじさんが夏休み前のウォーミングアップも兼ねてとのことで全て無料。 交通費に関しても、石井さんの両親が全額負担とのことで、オレたちが用意するのは着替えの衣類やお土産代、そして一番重要な水着を準備することのみだった。



【送信・石井さん】ええ、いいの? そんなにしてもらって。


【受信・石井さん】うん。 お父さんもお母さんも、久しぶりに私に友達がたくさん出来たことで盛り上がってるから。 そのくらい全部出すよって。


【送信・石井さん】そっか、じゃあお言葉に甘えて一緒に行かせてもらうよ。 ありがとう。


【受信・石井さん】うん! 週末楽しもうね! 愛ちゃんやマリアちゃんにもよろしく言っておいてほしいな!



 ◆◇



 放課後家に帰ったオレは、早速出迎えてくれた愛ちゃんとマリアにそのことを話した。



「はい! というわけで、週末は一泊二日の海旅行に行きますーー!!!」



「ええええ!! 先週遊園地に連れて行ってもらったのに、今度は海!? やったぁーー!!!」

「良樹、頭打った? 大サービスすぎる」



 やはりここには性格が出るな。

 愛ちゃんは海と聞いて大盛り上がり。 隣でオレを心配しすぎているマリアの手を握りながら、「楽しみだねマリアちゃん!!」と可愛く飛び跳ねる。



「いやでも愛、冷静に考えて。 今までそこまで遊びに出かけなかった良樹が短期間でこんなに外出なんて……おかしい」


「そうなの、お兄ちゃん?」


「ううん、おかしくないよ。 マリアも素直に喜んでくれよ」


「そう?」


「そう。 ていうか先週の遊園地はオレ発案だったけど、今週末の海はオレじゃない……石井さんから誘われたんだよ」



「ゆーちゃんに!?」

「ゆづきに?」



 当初の予想では、ここでマリアから「どうしてゆづきから?」と詰め寄られるものだと思っていたのだが……



「やったー!! ゆづきちゃんとまたお話できるんだー!!」

「ゆづきが誘ったのなら理解出来た。 マリアもゆづき、好き。 海、行く」



 なんだかんだで石井さんへの信頼度と、海という単語に魅了されたのだろう。

 二人とも乗り気で「じゃあ水着買わなきゃね!」とオレが誘うまでもなく話は進み、早速ではあるが今から水着を買いに行こうという話にまで発展する。



「えええ、今から!?」


「だってもうあと3日しかないんだよ!! 出来る準備は早くやらなきゃ!!」

「その通り。 良樹が忙しいのなら、マリア、愛と二人で行ってくる」


「ああああ、分かったオレも行くよ! 二人きりでお出かけはまだ心配だから!!」


「へへ、ありがとう、お兄ちゃん!」

「まったく、良樹は甘々。 でもそこがマリア、好き」



 出来る準備は早くやらないと……か。

 準備するの、水着だけなんだけどな。



 そうはいってもこの目の前の瞳を輝かせている二人を見たら、そんな発言できるわけもない。



「よし、じゃあ行こっか!」



「うん!」

「うん」



 こうしてオレは鞄を玄関に置き、財布だけをポケットに入れて愛ちゃんたちとともに玄関を出る。

 その後中規模のショッピングモールへと向かったのだが、ここでオレたちはとんでもないものを見つけてしまったのだ。



「あれ? あそこにいるのって……舞せんせー?」



 ショッピングモール内の休憩所。 愛ちゃんの指差した先を見ると、確かにそこには愛ちゃんたちの担任の先生……スーツを着た高槻さんの姿。

 どうしてここにいるのかという疑問よりも先に愛ちゃんたちが駆け寄って行ってしまったためオレもそこに続いたのだが、そこでオレは高槻さんの口から驚くべき発言を耳にすることになる。



「舞せんせー、お買い物?」


「あら愛ちゃん。 んー、まぁそうですね」


「それにしては舞、なんか疲れてる」


「鋭いですねぇマリアちゃん」



 高槻さんはマリアの指摘した通りどこかやつれていて、小さくため息をつきながら今度はオレに視線を向けてきた。



「お兄さん……良樹くんも久しぶり」



 うっ……! さすがは年上の魔力。

 優しい笑みを向けられただけで鼓動が半端ねぇぜ。



「あ、はいお久しぶりです。 マリアもさっき言ってましたけど大丈夫ですか? 何かあったんですか?」


「えー……まぁ。 ちょっとお金がピンチで家の電気とガスが止められてしまって」



 は?



 突然すぎる情報に言葉を失っていると、高槻さんは「なので、が落ちて涼しくなるまではここで時間を潰そうかなって」と続けた。



「ーー……え、なんでそんな」



「詐欺にあっちゃったのーーー!!!!」



「はあああああああああああ!?!??!?」



 水着を買いに来ただけなのに、なんという事実。

 これは……買い物どころじゃなくなってしまったぞおおおお!!!!




お読みいただきましてありがとうございます!!

励みになりますので感想や評価・ブクマ・レビュー・いいね等、お待ちしておりますー!!!

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[一言] 高槻先生…まあ、詐欺にあっても体が無事なだけ強運なのでは・・・?
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