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52 レベルアップ愛ちゃん!!④


 五十二話  レベルアップ愛ちゃん!!④



 御白の飛び蹴りが原因で、龍神は愛ちゃんに想定外の力……陰陽と龍の力を与えてしまったことが判明。

 

 というより、そもそも【陰陽】とか【龍】って単語自体がかっこいいんだよな。

 

 オレがその言葉で中二病の心を震わされていると、御白は愛ちゃんに向かって『おお!! 当初予定していた力とは違ったが……めでたいではないか!!』と満足そうに笑いながらVサインを向けた。



「ーー……そうなの?」


『うむ!! 【陰陽】は、一般的な除霊師・退魔師の上位互換……鬼の使役や強力な結界を作ることも出来るようになる! 実に有効的な力じゃ!!』


「そうなんだ……じゃあもう一個のは?」


『もう一つの【龍】はの、うーーむ、これは愛に説明しても難しくて理解できないかも知れぬ。 あまり気にせんで良い』


「わ、わかった」



 御白は早く愛ちゃんの能力を開花させたいのだろう。

 愛ちゃんの隣で絶望状態の龍神を華麗にスルー。『さて愛!! 龍神により授かりしその力、妾がいち早く物にさせてやるぞ!!』と神社裏にあるらしき小さな広場へと愛ちゃんを連れて行く。



「御白、オレたちも行った方がいいか?」


『いや! 良樹とマリアはそこでお留守番じゃ!! 出来るなら龍神を励まして……龍神にしか知り得ない霊能のあれこれを教えてもらっておくとよい!! マリアにとっても為になるじゃろうて!!』



 それだけ伝えると御白と愛ちゃんは神社の裏へと消える。

 オレはマリアと目を合わせ、マリアの為になるのならと龍神に話しかけることにした。



「なぁ龍神さん、そんな落ち込まずに元気出し……」

「龍神、マリア、儀式を待ってる間にに血を吸われた。 痒い、どうにかして」



 突然の、マリアの割り込み。



 ーー……え。

『え』



 マリアのやつ……オレの言葉を遮ってまでなにを言っているんだ?

 オレの心の声と龍神の声が見事にシンクロ。 二人同時にマリアへと視線を向けた。



「マ、マリア?」


「良樹、今は黙る」


「はい」


「それで龍神、どう、治せる?」



 これは……一体なんのつもりなのだろうか。 

 ワンピースを着たマリアはスカートを少し捲りあげて太ももを龍神の前へ。 白肌だからか蚊に刺された箇所が一瞬で見分けがつくな。 マリアはその箇所を指差しながら「ここ」と龍神に伝える。



『アリア……ちゃん? フホホ』


「さっき龍神はたくさんの力や知識を持ってるって聞いた。 じゃあ蚊に刺されて痒くなったところを治す方法も知ってるはず」



 マリアの指差した先を龍神は目を大きく開いて凝視。

 分かる……気持ちは分かるぞ。 色白美人の小学生の生脚……特に太ももなんて、そう簡単に間近で拝めるものでもないからな。



 一瞬我に返った龍神と目があったオレはニコリと笑いながらで親指を立てる。

 すると龍神もオレと何か通ずるものを感じたのだろう。 『キミもなのか?』と尋ねてきたため、オレはこう答えてやったさ。



「もちろん。 夢と希望が詰まってるよな」



 マリアの太ももで精神的に復活した龍神は、すぐにマリアのお願いを受領。

 どんな魔法か秘術かは分からないが、龍神がマリアの太ももに手を添えた途端にマリアの口から「はひゅう……っ」と、何とも色っぽい声が漏れる。



「な、どうしたんだマリア」


「うっ……ん、蚊に刺されたところを中心に、なんかモヤモヤする」


「モヤモヤ?」


「うん、くすぐったいような……気持ちいいような。 あふっ……んん」



 うおおおおおお!!! エロいぞおおおおおおおお!!!!



 虫刺されの治療の秘術?を受けているだけなのに何て妖艶ようえんなんだ。

 オレと龍神はそんなマリアの声と反応を思う存分堪能。 もちろん龍神の秘術は無事成功し、マリアの太ももの赤みは綺麗さっぱりなくなり、元の清らかな……透き通った大地がオレや龍神に元気を与えた。



「ありがとう龍神。 マリア、満足」



 マリアが透き通った太ももを撫でながら柔らかく微笑みかける。



『ぐひゅひゅ……ボ、ボクも満足だよこちらこそありがとう!』


「良樹、やっぱり龍神すごかった」


「お、おう。 そうだな、凄かったな色々と」


「マリア、気持ちよすぎて身体がポカポカして……あれ、パンツの中、汗かいた?」



『「!!!!!」』



 本当に汗なのか、はたまた別の何かかは分からない。

 しかし先ほどのマリアの発言を聞いたオレと龍神は顔を見合わせアイコンタクト。 心の中でハイタッチを決めた。



『良樹くん……だったね、キミ、なかなか良いね』

「龍神さんこそ」



 それから大体一時間後、御白付きっきりの特訓を終えた愛ちゃんが御白とともに戻ってくる。

 しかし二人ともその表情は曇っていて……どうやら【陰陽の力】も【龍の力】も、ともに少しも使うことが出来なかった……とのことだった。



 ◆◇



 あれからすぐにオレたちは帰路につき、暑かったせいもあって疲れたのだろう。 夜になると愛ちゃんとマリアは仲良く自室へ。

 残ったオレが洗濯物を干していると、御白が何か言いたげな表情で『良樹、ちょっと良いか?』と背後から声をかけてきた。



「どうした」


『その……な。 此度こたびの、陰陽の力の件で話があってな』



 あー、そのことか。



 もしかして何の結果も得られなかったことに関して、御白なりに申し訳なさを感じているのかもしれない。

 オレは御白に「気にすんな、力を出せなかったとて、本来の目的……霊力自体は開放されて視えるようになったんだろ?」とフォローを入れてみたのだが……



『あぁ、うむ。 それに関しても申し訳ないとは思っているのじゃが、今から話すことはそれではなくての……』



 なんだ、いつもワガママな御白に似合わず歯切れが悪いじゃないか。

 何か言いづらい内容なのではないかと察したオレは場所を変えてリビングへ。 テーブル席に座ると御白もオレの対面に腰掛け、『では早速じゃが……』と本題を口にし始めた。



『良樹、お主が愛やマリアに多大なる愛情を注いでおることを理解している上で話すのじゃがな』


「うん?」


『その……、愛はまだお主らに本当の自分をさらけ出していないのではないか、と思ってな』


「え」



 いきなりの御白の言葉にオレは声を詰まらせる。

 そしてその件が今回の陰陽の力と関係しているようで、御白はオレにゆっくりと……言葉にとげが立たないよう気をつけながら説明していく。



『陰陽というのは文字道通り、光と陰……性格でいうと表と裏じゃ』


「うん……それと何の関係が?」


『愛は自身の闇……影を閉じ込めて、無理に良い子を演じておるのではないか?』


「なっ……!」


『思い返してみよ。 何かこう……そう感じたことはないか?』



 御白の疑問にオレは一旦姿勢を正して、改めて考える。


 確かに愛ちゃんはウチに来てからというもの、子供らしいお願いをしてくることは度々あったが、度を超えたワガママや文句の一つも耳にしたことはない。 基本的にオレからみた愛ちゃんは優しくて明るい……どこにでもいる女の子というイメージだ。



 オレが「うん、言われてみればオレが愛ちゃんにイラってしたこととか一度もないかも」と呟くと、御白は先ほどの説明の補足を続ける。



『【陰陽の力】は、おのれの表の部分と裏の部分……その両方をちゃんと自身で理解し、受け止めていなければ使うことは出来ないのじゃ』


「だから今日は失敗したと……」



 え、じゃあ愛ちゃんがオレに懐いてたりマリアと仲良くしてるのも演技ってことなのか?



 とてつもない不安が急にのしかかり、オレはしばらくの間無言に。 

 オレの異変を察した御白が声をかけてくれたことで、ようやく我に返る。



『大丈夫か?』


「あ、あぁ……。 なぁ御白、もしかして愛ちゃんは、実はオレやマリアのことなんて……」


『いや、それはない。 良樹やマリアと戯れている時の愛は心から幸せそうな顔をしておる。 そこは自身を持って良い』


「そ、そうか」


『うむ。 ただ、やはりお主の前では良い子でいないといけないと思ってしまっているのじゃろうな。 じゃから良樹、お主の今後の課題は愛の巫女の力云々よりも、愛に全てをさらけ出せる環境を作り上げることかもしれないな』



 さらけ出せる環境……か。

 今の感じではダメってことか。



 オレのメンタルが相当危険だと察したのか、御白は『まぁでもあまりこんを詰めない程度にな。 妾にできることがあれば遠慮なく言うが良い』とだけ付け加えてどこかへ消え去っていく。

 その後数時間、オレは自分の不甲斐なさからその場を動けず、ただただテーブルの木目を眺めていたのだった。



 愛ちゃんが良い子でいる理由……それはオレたちを気遣ってのことなのか、今は亡き両親に良い子でいるよう言われたからなのか。

 どちらにせよ、オレが何とかしなければな。



お読みいただきましてありがとうございます!!

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