05 愛ちゃんの夢と謎の転校生①【挿絵有】
五話 愛ちゃんの夢と謎の転校生①
「見て、お兄ちゃん。 似合ってる?」
オレの目の前には通販で届いた巫女服を身に纏い、クルクル可愛く回転している愛ちゃんの愛おしい姿。
それを見たオレの脳内では今までにない……新たな公式を導き出していた。
巫女×妹=可愛い、愛おしい
天使はここにいたんだ。
「うん、めちゃくちゃ萌え……ゲフンゲフン、可愛いし似合ってるよ愛ちゃん」
「ほんと? やった!」
嬉しそうな愛ちゃんを見ると、明日からまた平日がスタートするという鬱な気分も一気に晴れやかになっていく。 明日には愛ちゃんのランドセル姿が見られることにオレは新たな楽しみを見出していた。
「そういえば明日から新しい学校だけど、愛ちゃん大丈夫?」
「うん。 前におばちゃんと何回か学校行ったから道は覚えてるし、パパやママも見守ってくれてるんだもん。 心配させないように頑張る!」
愛ちゃんはぎゅっと拳を握り締めながらオレを見上げてくる。
ーー……巫女服姿で。
「可愛い」
「えへへー」
それにしても両親の死から立ち直るのが異様に早いような気もするが……これも子供の適応力というものなのだろうか。
まぁこれに関してはオレからぶり返す必要もないからな。 その後オレは巫女服姿の愛ちゃんをスマートフォンのカメラで激写……壁紙に設定して満足げに頷いた。
「お兄ちゃん、ちゃんと撮れた?」
興味津々で覗き込もうとしてくる愛ちゃんに、オレは「うん。 ほら」と画面を向ける。
「ほんとだ! じゃあ次は……はいっ!」
「ん?」
これは……どういう意図だ?
愛ちゃん両手を広げながらオレに向けてくる。
もしかしてこれが伝説の『抱っこしてー』……なのか!?!?
「ーー……ゴクリ」
ち、血が繋がっていないとはいっても、要求してきたのは向こうからなんだ。
オレは何も悪くない。
オレもゆっくりと愛ちゃんに向けて手を差し出す。
するとどうだろう。 愛ちゃんの背中に手を回そうとしたその一歩手前……愛ちゃんがオレの手をギュッと握ってくるではないか。
「えええ、愛ちゃん?」
オレはこの予想とは違った行動に混乱したのだが、愛ちゃんはそんなオレに向かって満面の笑みで……衝撃の一言を口にした。
「じゃあ次! フユーレイさんと、お話するー!!!」
ーー……ん?
「浮遊霊たちと? え、なんで?」
「だって私言ったでしょ? お兄ちゃんみたいになりたいって!」
「う、うん。 でもそれって巫女さんのコスプ……格好をするだけじゃないの?」
「ちがうよー。 私がなりたいのは、お兄ちゃんみたいな……ユーレイさんとお話が出来て、困ってる人を助けることができる巫女さんだもん。 だからこうやってお兄ちゃんの手を握ってフユーレイさんたちとお話ししてたら、いつか私も視えるようになるかもでしょ?」
「ええええええええええ!?!?!?!?」
なんという単純ながらに合理的な方法だろうか。
霊が視える人と一緒にいて視えるようになる……なんて話は聞いたことがないが、もしかするともしかするかもしれない。
でももし仮に視えるようになってしまった場合のリスクを、愛ちゃんは知らないんだよな。
「お兄ちゃん? どうしたの難しい顔して」
「ンンンーーーー!!!」
「早くお話、したいな」
ぐはああああああああ!!!!
こんなに可愛くおねだりされて断る勇気はオレにない。
オレは愛ちゃんが浮遊霊たちと話をしている間、別の浮遊霊たちに愛ちゃんのことを見守ってほしい旨をお願いしたのであった。
◆◇
翌日。
「うわあああああ!!! 遅刻するううううう!!!! 愛ちゃん、気をつけていくんだよーー!!!」
「うん。 お兄ちゃん、行ってらっしゃい」
愛ちゃんと一緒に家を出たオレだったのだが、高校の方が小学校よりも距離があるため、愛ちゃんの「がんばってねー!」という声援を受けながら全速力で学校へと走る。
まさかお弁当作りにここまで時間を割いちまうとは……!!!
改めて、今まで当たり前のように作ってくれていた母親の凄さを思い知らされたぜ。
「今後は余裕を持たすためにも、あと一時間くらい早めに起きた方が良さそうだな」
結果、オレはなんとか校門が閉まる数分前に到着。
騒がしい教室内を一人孤独に席へと向かって一息入れていると、周りの声をかき消すほどの大きな声とともに担任が中へと入ってきた。
「よーし、お前ら早く席につけ静かにしろー! こんな時期にいきなりではあるけど、転校生が来たので紹介するー!!! 早く席つけーー!!」
担任が両手で教卓を叩きながら、青春を楽しんでいるオレ以外の生徒たちを見渡しながら急かす。
転校生? あと数ヶ月で夏休みだってのに?
まぁ個人の事情だし仕方のないことなんだろうけれども……なんか愛ちゃんとタイミングが一緒で親近感が湧くな。
しばらくするとようやくクラス全員が着席。 それを確認した担任は視線を扉の方へと向けて、「じゃあ入ってこい」とその先で待機しているのであろう転校生に声をかけた。
「ーー……はい」
ゆっくりと扉が開かれ、担任に促されながら入ってきたのは一人の女の子。
ん?
その子を見た途端オレは一瞬目を細める。
そしてオレが反応したのとほぼ同じタイミング……周囲の生徒たちもコソコソと小声で話し始めた。
「ねぇ、なんかあれ、やばくない?」
「うわー期待した俺が馬鹿だったー」
やめてくれその反応。 オレも経験あるからかなり傷つくぞ。
しかし周囲の反応も少しは分かるわけで、インキャのオレが言うのもなんだけど、その子は肩くらいまで伸びた黒髪で毛先はボサボサ。 前髪もがっつり顔にかかっていてあまり目の見えない、オレと同じ……いや、オレ以上に暗い印象だ。
皆のマイナスな意見が飛び交う中、その転校生は自身を「石井……ゆづきです」と名乗る。
「えー!? なんて!? 聞こえなーい!!」
「もう一回言って!」
「ーー……」
「ちょ、ちょっとー? 聞こえてますかー? 転校生さんー?」
「ーー……」
く、暗い!!! 想像していたよりも暗すぎる!!!
なんともいえない空気が教室の中を支配する。
そしてそんな中、重たくなった空気を切り裂いたのは担任の拍手。 その後オレの席の後ろを指差した。
「はーい石井ゆづきさんよろしくー!! じゃあ石井は窓際のあそこ……加藤の後ろが空いてるからそこに座ってくれー」
転校生・石井さんは担任に言われるがまま、ゆっくりとした足取りでオレの隣を通り過ぎて席に着く。
「ーー……お?」
なんだこの感じ。
教室に入ってきた時もそうだったけど、今横を通った時も……一瞬変な気配がしたような。
変な霊が憑いているわけでもなさそうだし、なんだったんだ?
「気のせい、か」
◆◇
なんとも気まずいデビューを果たした転校生の石井さんであったが、その気まずさはまだ続いていた。
休み時間。 普通なら転校生の周りには人が湧くというのが常識だと思っていたんだけどな。
可哀想なことに、石井さんの席の周囲に人は無し。
みんな牽制しているのか?
でもそれだと誰も話さない……愛ちゃんはそんなことにはなっていないといいが。
愛ちゃんとタイミングが一緒すぎてなのか、かなりの情が湧いてしまう。
一応近くの席なんだし、挨拶がてら……声、かけてみるか。
オレは小さく深呼吸をしてゆっくりと後ろを振り返る。
普段は声すら出さないオレだが本気で腹筋に力を入れ、弱々しく……ではあるが、石井さんに話しかけた。
「えっと……石井さん、だよね。 オレ、加藤……よろし……く」
「ーー……よろしく」
石井さんはオレと目を合わせようともせずに同じ角度……俯いたまま小さく答える。
は、反応してくれた!!! やったあああああああああ!!!!
オレ的には返事をしてくれただけでかなり嬉しいんだけど、やはり暗い。
おそらくオレも周りからはこんな感じに思われてるんだろうなと考えると、一気にブルーになってくる。
耳を澄ましてみると、狭い教室内ということもあり普通に今のオレの行動に対しての感想が聞こえてきた。
「うわー、見て。 インキャがインキャに話しかけてる」
「加藤だっけ。 あいつ話しかけたのに無視されてんじゃん。 ワロー」
「てか加藤の声、久々に聞いた気がするわ」
うわあああああああん!!!! 心が痛いよおおおおおおおお!!!!!
オレは精神的な傷を誤魔化すかのように、学校に吸い寄せられ迷い込んできた悪霊たちを目につく度に強制除霊。 しかしそんなことで傷が治るわけもなく、この日はあれ以降、石井さんに話しかける勇気はなくなってしまったのだった。
みんなは傷ついた心を回復させるには、何が一番大切か知ってるか?
そう、『可愛い』だ。
もうすぐテスト期間ってことで早く帰れるし、ダッシュで帰って愛ちゃんに癒されよう。
帰りのホームルームが終わったと同時。
オレは早く愛ちゃんに会いたい一心で家へと走った。
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