49 レベルアップ愛ちゃん!!①
四十九話 レベルアップ愛ちゃん!!①
今週はまさにヤンキーウィークといっても過言ではない毎日だったな。
ガチでお疲れ様、オレ。
週末の土曜日。 今日は先週に御白から『空けておけ』と言われていた日で、実はなんと……御白が直々に愛ちゃんの開きかけている霊能力の扉を開花させてくれるらしいのだ!!
ちなみに先日オレは御白にその霊力開花方法を聞いてみたのだが、やはり人間の言語で説明するのは難しいからなのか、ほとんどが擬音語となっていて……結局意味が分からなかったんだよな。
『それは、ほれ……あれじゃ、妾の社で龍神にシュルルっとやらせてバチンじゃ!』
「ーー……は?」
『じゃからな、妾も詳しくは分からないんじゃが、龍神に……』
「分からんのかい!!」
とりあえずあれだな。
御白の口から、しれっと『龍神』とかいうパワーワードが出てきてビックリしたぞ。
◆◇
そんなこんなでオレにとっては二回目の……愛ちゃんマリアからしたら初めての御白神社に到着。
やはりもう暑くなって来ている影響もあるのだろう、階段を登り境内に向かうも誰も参拝者はおらず、あまりのガラガラ具合に愛ちゃんとマリアの口から同時に「え」と声が漏れた。
「えっと……今日は貸切なのかな」
「愛、神社やお寺に貸切はない。 それにしても、みぃ、こんなガラガラでこの神社、運営出来てるの?」
マリアは以前までこき使われていた教会でのイメージが強いのか、御白神社の経営状況を心配。 「おばさんの味方をするわけではないけど、何か除霊イベントでも開いたら?」と御白にアイデアを出し始める。
『イベント……催し事か』
「そう。 そうすればご利益があるって分かって、参拝者は増えると思う」
『それはなんとも心躍る提案じゃが……この暑さじゃ、無理して来られて熱中症になられた方が手間が多いからな。 心配感謝するぞマリア』
「ううん。 もしお金に危なくなったら言って。 その時はパパに寄付させる」
『なんじゃったか、マリアの父君は有名なエクソ……退魔師じゃったか?』
「そう。 マリアなんか足元にも及ばないくらい優秀で有名。 信者もいっぱいいて、日本でも教会関係者ならほとんどの人が知ってると思う」
話を聞くだけでもマリアのお父さんって凄そうだよな。
悪魔払いのプロフェッショナルってことは、慈愛に満ちたおしとやかな人なのだろうが……
「てかさマリア、そんなに凄いパパなんだったら、パパから直接指導を仰げばいいじゃないか。 なんでわざわざ日本に修行に行かせたんだ?」
「ふぅ、良樹は分かってない。 マリアも出来るならそうしたい」
「え」
「パパ、マリアのことが好きすぎて修行にならない。 ちょっと頑張っただけで感動して泣いて、ほっぺにチューしてくる」
「ーー……それは重症だな」
「うん」
話に花を咲かせながら歩いていると、気づけば拝殿の前へ到着。
オレたちはこれから何をするのか分からないため御白へ視線を向けると、御白はフフンと鼻を鳴らしながら賽銭箱の奥……拝殿の扉の前へと空中移動。 中にいるらしき誰かに向かって大声で呼びかけた。
『龍神ー!! 妾じゃ、出て来てくれーー!!』
あ、また出て来たぞ。 パワーワード『龍神』。
未だ中二病の心が残っているオレは目を光らせながら「なぁ御白、龍神って……前にも言ってたけど、本当にこの中にいるのか?」と御白に尋ねる。
『そうじゃ。 今はその龍神がこの社を守護してくれておる』
「守護してくれてるっていうよりは……守護させてるの間違いだろ」
『そうじゃな。 妾がいない間のお留守番係りじゃ』
「なるほど。 でも龍神を留守番係にするとか、どんだけ御白って偉いんだよ」
『はっはっは!! もっと褒めよ讃えよ喝釆せよ!』
オレの感想がかなり嬉しかったのか、御白はこの上なく上機嫌に。
愛ちゃんやマリアにも『良樹が言っておったとおり、妾は本当に偉大な神なのじゃぞ!!』と説明しはじめたのだが、それと同じタイミング……御白の声に重ねるように、拝殿の奥からなんとも気の抜けた男性の声が聞こえてきた。
『お賽銭、お願いしまーーす』
ーー……え?
『は?』
もしかして、今のが龍神の声かのか?
なんというか、想像していたカッコよくて凛々しい声とは掛け離れていたのだが……御白を見ると、顔から笑顔が消えている。
「なぁ御白……」
『ちょ、ちょっと待て良樹。 お、おい何を言っておる龍神。 早くそこから……』
『だーかーら、お賽銭をもらわないと出て行きませんし、お願い事も耳にいれませーーん』
「お兄ちゃん、今のって神様の声?」
「マリア、あーいうタイプ、嫌いじゃない」
愛ちゃんたちがコソコソと話している目の前で、御白が体をわなわなと震わせはじめる。
「なぁ御白』
『待っておれと言ったじゃろ』
「あ、あぁ……」
流石にここ最近は女子と関わり深い日々を送っていたからなのか、女心に疎いオレでも分かるぞ。
御白のやつ……キレてるな。
御白はとてつもないオーラを放ちながら扉の前に立つと静かに口を開き、再び冷静に話しかけたのだが……
『龍神、今一度言うぞ。 早く出てこいと……』
『お賽銭ないなら帰ってくださーーい。 といってもボクの声は聞こえないか、アハハハハーー』
『龍神んんんーー!!!!!』
あ、中の人終わったな。
御白は目をカッと見開きながら扉をすり抜け勢いよく中へ。
オレたちからは見えない扉の奥で、御白と龍神の……神々の戦いが始まった。
『お賽銭……って、え!! 御白さん!? どうしてここに!?』
『どうしてもこうしてもあるかああああ!!! なーにお主はサボっておるのじゃああああ!!!!』
『ゆ、許し……ヒィエエエエ!!!』
まず中から聞こえてきたのは幼女の怒り声とオッサンの叫び声。
それからバシンペチンとかなり荒ぶった音が聞こえ、しばらくするとそれも収まり……御白が白装束に身をまとった肥満体型の男を引きずりながら中から出てくる。
『待たせたの。 こやつが妾の代理……留守番係の龍神じゃ』
そう説明した御白は首根っこを掴んでいた龍神を片手で前方に放り投げ、まん丸に太った龍神がオレたちの前まで転がってくる。
『ウヘヘ、先程はすみませんでした。 ご紹介に預かりました龍神です、ウヘヘヘヘ』
「あ、えーと……初めまして。 てか龍神さん大丈夫でした? 結構激しい声が聞こえてたけど」
『そりゃあ妾が力で教育したからの!』
「教育?」
『ウヘヘ、はいい……、御白さんの細くて色白の綺麗な脚で……グフフ、色々な箇所を蹴っていただきましたぁ、デヘヘ』
龍神と名乗る肥満体型のオッサンは顔を赤らめ、鼻息を荒くさせながらかなり興奮気味に答える。
「ーー……なんか、嬉しそうですね」
『そりゃあもう!! こんな幼女様に蹴られるなんて、ご褒美以外のなにものでもないですよ!!』
「!!!!!」
へ、変態だあああああああああああ!!!!!
Mだ……! この龍神は……確実にM気質だ!!!
御白も大概ドS……というよりもワガママな性格だが、神様にもいろんな性格・性癖の奴がいるもんだな!!
オレは自分の知らなかった世界を実感しながらも、この龍神に愛ちゃんを任せて大丈夫なのかという不安でいっぱいになってしまったのだった。
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