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48 オレの苦手なヤンキー女子⑨


 四十八話  オレの苦手ばヤンキー女子⑨



「じゃあ愛ちゃんマリア、オレ今日は早めに行くね」


「うん、行ってらっしゃいお兄ちゃん!!」

「いつになくやる気。 よく分からないけど行ってらっしゃい」



 いつもより早く起きて愛ちゃんたちの支度したくを終えたオレはかなり早く家を出て学校へ。

 しかし向かう先は教室ではなく男子トイレ。 個室の中に入ったオレはかばんから数冊のエロ漫画等を取り出し、「オールスターズ、頼む来てくれー」と少し大きめに叫んだ。



 ◆◇



『おおおおおお!!! これはエロい……!! 俺、人体模型なのに反応しそうだよ!!』

『エヘ……エヘヘヘ。 真面目な勉学以外の知識がボクの脳にインプットされていくよ、エヘヘヘ』



 オレの目の前にいるのはエロ漫画に夢中の人体模型と金次郎像。 そしてそんな二人を宙に浮きながら呆れ顔で見つめている二十センチも満たない乙女が一人。



『まったく、ほんとーに男の子って幼稚だわね! ワタチには理解出来ないわ!』



 乙女・日本人形がオレから渡された子供用玩具のくしで髪の毛をかしながら『そんな絵よりもワタチを見なちゃいよ』と愚痴をこぼす。



『いやいや分かってないねぇ人形ちゃんは。 幼いのにナイスバディっていうミスマッチが堪らないんだよ』

『そうそう。 悔しかったらボインになってみてよ、ボインに』


『むきーーっ!! 言わせておけばーー!! アンタたちの大事なところ、ちょん切ってやろうかちら!!』


『あはは、無理でーす! 俺のは陶器だから、硬くて切れませーん!』

『ボクも銅像だから残念でしたーー!!』


『言ったわねーー!! 覚悟ちなちゃーーい!!』



 突然始まった七不思議オールスターズの代表たちによる大戦争。

 しかし今日こいつらを呼び出したのは他でもない。 オレは人体模型と金次郎像には更なるエロ漫画を与え、日本人形には香水を与えてその場を鎮火。 すぐに本題に入った。



「実はな……」



 七不思議オールスターズとの話は無事に終了し、その後はいつも通り過ごしていただけなのに気づけばもう昼休み。

 お弁当を食べ終え久しぶりの何もしない時間を優雅に楽しんでいると、ヤンキー女子・佐々木さんが一人でオレのもとへ。 顔を近づけてきて、誰にもなのか消えないような声で小さく囁いた。



「加藤、アイツ……奈々の元カレには放課後喧嘩しようっていう嘘の手紙を出しといたから、絶対に見つからないように帰ってね」


「え、嘘の手紙?」


「そそ。 これで加藤がいないだけでアイツ絶対にブチ切れるはずから……そしたら私らのプラン通りだし」


「ーー……ちなみにどこで?」


「あ、そうだね。 言っとかないと鉢合わせたらマズいもんね。 旧校舎だよ、取り壊しは来月だから、それまでは人は寄り付かないはずだし」



 なるほどな。



 ◆◇



 放課後になると、オレはダッシュで教室を出る。

 後ろからは進藤さん佐々木さんの声。



「あはは、頑張れ見つかんなよー」

「ていうかかえで、私のスマホ知らない?」

「えー、ゆりか無くしたん? 電話かけたげよっか……ってあれ、私のスマホもなくなってんだけど」

「は?」

「え」



 すまんな二人とも。



 二人には少しの間教室内に留まっていてもらう……スマートフォンなら先ほどのホームルーム中に、存在感がオレ以上に薄すぎて今まで気づかなかった正真正銘・トイレの花子さんが静かに二人のポケットから抜き去ったんだ。

 まさか花子さんが現実にいたなんてな。 今頃は目を輝かせながら【現代のオバケトレンド】について調べてるだろうよ。



『良樹、準備出来てるわよ!』



 廊下を走っているとどこからともなく日本人形が登場。

 オレに並走する形で宙に浮かびながら正面玄関へと向かう。



「おう助かるぜ人形ちゃん。 それにしても、よく模型くんと金次郎くんも旧校舎に行くの許可してくれたよな」


『だって良樹が「もう大丈夫」って言ったからよ。 もしまたワタチたちを消そうとする存在が来たら、良樹が追い払ってくれるんでちょ?』


「あぁ、任せとけ」



 ーー……まぁ前にも心の中で突っ込んだけど、その犯人は多分オレだし、安全なのは確実なんだけどな。



 旧校舎に着くと、既にそこには性欲ゴリラの姿。

 オレを見つけるなりニヤリと汚い笑みを零し、「ここだと見つかった時に面倒だから中に入ろうぜ」とわざわざオレのフィールド内へ自ら誘ってきた。



「そうだね。 あ、そこの窓、鍵空いてるから中に入れるよ」


「ははっ! 用意いい……気が利くじゃねえか。 奈々に近づいたりしなかったら舎弟にしてやってたぞ」


「勘弁してよ、オレヤンキー嫌いだから」



 ゴリラが先に入り、オレはその後に続く。

 中に入り終えたオレは音を立てないよう静かに窓を閉め、それを見たゴリラは「叫び声すらも聞こえなくするとは……強気じゃねぇか」と指の関節をポキポキと鳴らした。



「ウホウホうるさいっすよ」


「ウホ……? バカにしてるのか。 さてその強気の姿勢……どこまで続くか見ものだぜ!!!」



 ゴリラ扱い……過去にも誰かにされた経験があるのだろうか。

 怒り出したゴリラは強く床を蹴り上げてオレのもとへと突進。 大きく腕を振りかざし、一撃で倒そうとしているのだろうが……残念だったな。 



 ゴリラとの距離が一メートル程に縮まったその時、ゴリラの隣にあった机がいきなり動き出して彼の横腹に勢いよく激突する。



「グフッ……!!」



 体勢を崩したゴリラのパンチは空を切り、オレは視線をその背後へと向けた。



「残念。 じゃあ次ね」


「次……? 一体何を言って……グヌゥっ!!」



 横腹を押さえていたゴリラを次に襲ったのは謎の重り。

 何か重たい物に背中に乗られたゴリラはその場で膝をつき、混乱した様子で自身の周囲を見渡す。



「な、なんだ!? 俺の背中に何か……今まで感じたことのない重さだ!」


「あれれ、どうしたんですかゴリラ先輩。 オレをビビらせようとしてたようだけど、逆にそっちがビビってんじゃないの?」


「ーー……っ!! なんだと!?」



 オレの挑発で更に怒り狂うゴリラだが、あまりの重さからか一歩も動けない様子。 しかしオレは追撃をやめず、「じゃあ人形ちゃん、拘束よろしく」と宙に向かって声をかけた。



『わかったわっ!』



「な、今度はなんだ!? 手と足が何かに縛られて……何をした!!」



 ゴリラは視えないんだもんな。


 オレの視界に映っているのは、机に腰掛けながら『よっしゃ! やれ金ちゃん!!』と声援を投げかけている人体模型と、ゴリラの背中におぶさっている金次郎像、そして髪を伸ばして四肢を縛り付けている日本人形。 他にも扉から廊下に逃げないよう押さえてくれている者もたくさんいる。



『よーし!! この扉は俺たちが、何がなんでも死守する……!! ここで成果を残して、絶対に七不思議入りして有名になるぞおおおお!!!!』


『『『おおおおおおお!!!!』』』



 なんとも頼もしい者たちだ。

 オレはゴリラが完全に動けないのを確認すると、ゴリラの罵声を無視しながら教室の隅に放り投げられていたゴリラのかばんを手に取りチェック。



「ば、バカやめろっ……!!!」



 開けてみると、やはりだ。


 中には教科書等はもちろんのこと、学校の持ち物には相応しくない藁人形と、錆びた釘。 おそらくはこれで黒沢さんに呪いをかけていたのだろう。

 藁人形には赤いマジックペンで『黒沢』と書かれており、特に彼女が痛がっていた腕や肩にかけてが一番ボロボロになっていた。



「あー、やっぱりだ。 あんた、これで黒沢さんを呪ってたんだ」


 

 藁人形を取り出し観察していると、オレの影から御白の眷属がピョイっと飛び出し登場。 『コーーン』と高く鳴きながらオレの体を上り、その小さな前足で藁人形に触れる。



「ーー……もしかして、オレに視えない力を消してくれたのか?」


『コーーン』


「そうか、ありがとう眷属!」



 眷属はシャイな性格なのか、オレが感謝を述べるなりそそくさと影の中へ再びダイブ。

 となれば後はこのゴリラの心を完全に折るだけ……オレはゴリラの前に歩み寄ると、そっとその肩に触れることにした。



「なっ、今度は何をしようとして……って、ぎゃああアアアアアアアア!!!!!!」



 オレが触れたことによりゴリラの視界にもオールスターズが登場。 初めて見たのであろうこの世のものではない存在に、ゴリラは慌てふためき絶叫し始める。



「なんだこいつらは……もしかして、お前の仲間かああああ!?!?」


「あぁそうだ。 ゴリラ先輩、オレを対象にしたのが間違いだったな。 アンタはあの藁人形でオレをも狙おうとした。 だからこれはそれに対する報復……罰だ」


「ば、罰!?」


「そう。 とりあえず人形ちゃん、こいつの大事なところ、切り落とすか」


『そうね! 人間のなら柔らかいし、簡単にちょん切れそうだわ!!』



 日本人形が不気味な笑みを浮かべながらゴリラの目の前まで近づいてくる。



「大事なところって……どこ、だよ」


『そんなの決まってるじゃない。 これで貴方、子供を作れなくなっちゃうわね』


「ああ……あああああああ!!!!!」



 日本人形がくしの先をゴリラの下半身へと向ける。

 そしてこの行動で恐怖が限界に達したのだろう。 ゴリラは下半身を濡らしながら、「すみません……俺の負けです降参しましたーー!!!」と大声をあげた。



「じゃあ今回は許してあげるけど、今後オレや黒沢さん、進藤さんたちに危害を加えたり、呪ったりしないこと。 約束できる?」


「出来る……出来ます!! 約束しますーー!!」



 ゴリラは完全に敗北を認め、「本当に反省してます! もうしません!」と何度も額を床に打ち付けながら謝罪を述べる。

 本当ならもっと恐怖を味合わせたいところなんだけど……こいつ漏らしやがったし、そろそろオレの鼻も限界だからこのくらいにしておいてやるか。



「わかった。 もし破ったら今度こそこの人形ちゃんがお前のソコを……、それもあんたが将来誰かと結婚したい人が見つけた時に切り落としに行くからな。 覚えておけよ」

 

 

 オレはそれだけ告げると、オールスターズに「もういいよ」とゴリラの解放を宣言。

 拘束が解かれるなりゴリラは半狂乱で窓から飛び出し、異臭を周囲に振りまきながら帰っていったのだった。



「さてと、全ミッション完了。 じゃあオレも帰るかな」



 ◆◇



 ちなみにその数日後、体調の回復した黒沢さんは数ヶ月ぶりに学校に復帰。

 ていうか女というものは本当に分からないな。 数日前までは気まずそうにしていたのに……なんでだ?



「でさー、なんでかあのゴリラ、ウチの顔を見るなり泣きながら逃げてやがんの」


「あはは!! 何があったんだろうね! もしかして奈々、夜中に化けて枕元に出た?」


「なわけー。 あ、てかゆりかも楓も、ウチのプレゼントしたスマホケース、使ってくれてんじゃん!」

 

「まぁね」

「めっちゃ可愛くてびっくりしたわ! ありがとね奈々!」



 ヤンキー女子……関わるのは勘弁だけど、こうして遠くから見てるぶんにはいいかもしれないな。



 オレはヤンキー女子三人組の平和に満ち溢れた会話をBGMにしながら窓の外の景色を楽しみはじめる。

 しかしそれは急……まさに唐突だった。



「あ、そうそう。 ウチさ、欲情した加藤に病院で襲われそうになってさー」


「えーー!? そうなの!?」

「詳しく聞かせて。 場合によってはシメるわ」



 え。



 窓の反射越しに三人組を確認すると、皆そろってオレへと視線を向けている。



「ちなみにどんな状況で襲われそうになったん!?」

「いや、もう本人から聞いた方が早くない?」



 ーー……前言撤回。

 やっぱり関わるとロクなことがねええええええええ!!!!!

 

 

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[一言] 総称オールスターズで出てくるんだ・・・
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