46 オレの苦手なヤンキー女子⑦
四十六話 オレの苦手なヤンキー女子⑦
進藤さん佐々木さんに無事プレゼントを渡せたオレだったのだが、ここに来てまさかの黒沢さんの元カレ……通称性欲ゴリラが出現。 今回はなんとか進藤さん佐々木さんが追い払ってくれたものの、『明日覚えてろ』と言われたことを思い出したオレは絶望のあまり頭を抱えた。
「ていうかさ、なんであいつ、加藤のこと知ってんの?」
性欲ゴリラに会ったからなのだろう。 かなり雰囲気をピリつかせた進藤さんが腰に手を当てながらオレに顔を近づけてくる。
「あー、確かに。 めっちゃ怒ってるように見えたけど、なんかやったん?」
「いや、別にオレは今のが初対面だから何をしたってわけではないんだけど、もしかしたら……」
「「もしかしたら?」」
あれしかないよな。
オレは昨日、黒沢さんの病室にあの性欲ゴリラが突撃してきて問題になったことを簡単に話す。
そしてそれを聞いた進藤さんと佐々木さんは驚いた様子で互いに顔を見合わせ、「どうする?」などとオレそっちのけで話し合いをし始めたのだが、急にオレにも話を振ってきた。
「さっきアイツさ、加藤を明日ボコる的なこと言ってたよね」
「う、うん……」
「私らも手伝うからさ、あいつ返り討ちにしてやろうぜ」
「え」
一体何が……どうしてそんな結論に至ったのだろうか。
理由を尋ねてみたところ、それには少し準備がいるようで「今日の放課後話すから、空けといて」とだけ言い残して進藤さんたちは仲間の集まっている中庭へ。 オレはそんな二人の背中を見届けた後、黒沢さんにプレゼントを渡せた報告をメールで打ちながら教室へと戻った。
【送信・黒沢さん】さっき渡せたよ。
【受信・黒沢さん】まじ!? やるじゃん、ありがとう! 退院したらお礼するわ!
【送信・黒沢さん】いや、いいよ。
【受信・黒沢さん】あ、それと今後もしまた来てくれた時のために……ウチ、昨日のことがあったから病室移動したんだよね。 教えておくと、三〇五室になったから!
【送信・黒沢さん】わかった。 その時は間違えずに行くね。
【受信・黒沢さん】よろーー。
ーー……また来いってこと?
◆◇
昼休み終了のチャイムが鳴り、ヤンキー仲間たちと解散した進藤さんと佐々木さんが教室へと戻ってくる。
なんか先ほどよりも機嫌が悪く見えるのは気のせいだろうか。
オレが二人を見つめていると、後ろの席の石井さんが「加藤くん? どうしたの?」とオレの肩に手を触れながら話しかけてきた。
「え、あっ……石井さん?」
「変なのがいる……わけではなさそうだね」
「あ、あのさ石井さん、あまりそのことはみんなの前では言わないでって……ていうか顔近くない?」
「ここ数日加藤くん、私が何を話しかけても二つ返事だよね。 休み時間にもすぐにどこか行っちゃうし……彼女でもできたの?」
「か、彼女!? ぜ、全然そんなのじゃないから!」
そして石井さんよ、そろそろ気づいてくれ。
キミがオレに近づく度に、オレは周囲の男たちからヘイトのこもった視線を向けられているんだ。
「ほら石井さん、昼休みも終わったんだし席に着かないと」
「ねね加藤くん、今言うのもなんだけどさ、今週か来週の土日って空いてないかな」
「え?」
唐突な話題変更。
驚いているオレをよそに、石井さんがスケジュール帳を開いて「ここか、ここの二日間なんだけど」と、オレに微笑みかけてくる。
「ーー……」
え、なにこれ。 デートのお誘いか何かか?
「ねぇ、どう?」
「んーー。 今週はちょっと愛ちゃんたちのことで予定があるから無理だけど、来週なら空いてると思うよ。 なんで?」
「とりあえずさ、愛ちゃんやマリアちゃんたちにも聞いておいてくれるかな」
「んんん? うん、まぁ……分かったよ」
「明日また教えてね」
愛ちゃんやマリアも関わってることからして、デートではないことは確かだ。
ていうか、ここ最近はお願いされてばかりだなぁ!!
少し前までのオレには考えられないことだけど、これもあれか? オレにも愛ちゃんやマリアの世話をし始めたことで、頼れるオーラでも出てきたというのだろうか。
石井さんは「予定聞くの忘れないでね」とだけ囁いて自身の席へ。
それからオレは授業中、明日本当にあの性欲ゴリラが襲ってきた場合の対処法を黙々と考えていたのだった。
相手にせず全力で逃げる……としても、あの二人も手伝うって言ってくれたから置いてくわけにもいかないよな。
「となれば……あれしかないか」
◆◇
放課後。
ホームルームが終わると同時に進藤さん佐々木さんがオレの席にやってくる。
「じゃあ加藤、行こっか」
「そんな時間かからないから安心してー」
「え、あ……うん」
「あの、えっと……ちょっといいかな」
ん?
振り返ると、そこには不安そうな表情をした石井さん。 オレの身を心配してなのか、石井さんが若干怯えた様子で「加藤くんと、どこ行くの?」と進藤さんに尋ねた。
「なんで?」
「いや、なんとなく気になったから……なんだけど」
「そうなんだ。 別に教える気はないけど……好きなの?」
「え?」
は?
進藤さんの言葉を合図にオレと石井さんの目が合う。
オレたちが無言のまま見つめ合っていると、進藤さんは「だから、加藤のこと好きなの?」と更なる追撃を石井さんに加えてきた。
「え、ええ!? ちがっ……そんなのじゃないけど……!」
いや、違うんかーーーい!!!
石井さんは全力で首を左右に振る。
でもあれだな、分かってても直接言われると……なんか悲しくなるぜ。
「あははは!! もうそれくらいにしてあげなって。 加藤のやつめっちゃ肩落として悲しそうじゃん!」
「え、あ……ええええ!? 加藤くん!? なんで!?」
「ていうかあんま時間ないから。 ほら、行くよ」
「へ、へい」
オレはクラス全員から同情の目を向けられながら教室を出る。
その後しばらく歩いたのだが……まさかこの短期間で二回も入ることになるとはな。
「はい着いたー!!」
「早く入って」
辿り着いた場所は女子トイレ。
オレは二人に促されながら中へと入り、一番奥の個室へと入った。
「じゃあ……早速だけど」
誰も入ってこられないよう鍵を閉めた進藤さんが、早速本題に入る。
しかし次に放たれた言葉はヤンキーらしからぬ……優しさに満ち溢れた言葉だった。
「明日は加藤、別にアイツに呼び出されても来なくていいから。 私と楓でうまくやるし」
「そういうこと。 多分放課後だと思うから……加藤はホームルームが終わるなりすぐに帰るか、アイツが帰るまでどこかに隠れてなよ。 この女子トイレにとかさ」
「ーー……え」
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