45 オレの苦手なヤンキー女子⑥
四十五話 オレの苦手なヤンキー女子⑥
「ね、ねぇ佐々木さ……」
「あー! めっちゃトイレ行きたいわ! 漏れる漏れるーー!!」
「進藤さん、ちょっと……」
「しつこい」
「ーー……っ!!」
黒沢さんから預かったプレゼントを渡すどころか、話すら聞いてくれない現状にオレは絶望。
朝なら二人も逃げるのが面倒で受け取ってくれると予想してたんだけど……やはり無理だったか。
スマートフォンを開くと既に数件メールが受信されていて、それらに目を通したオレは戦慄する。
【受信・黒沢さん】おはよ。 渡せた?
【受信・黒沢さん】ねぇ、返事は?
【受信・黒沢さん】おーーい、気づけーー。 またエロいの送るぞー。
ーー……ヤバい、このままではガチでヤバい。
一旦席に戻ったオレは今日の作戦を冷静に考える。
昨日・今日の進藤さん佐々木さんの行動からして、休み時間に声をかけたなら女子トイレへ逃亡することは大体分かった。 流石に女子トイレに入る勇気はオレにはないし、狙うとしたら昼休み……他クラスのヤンキーどもと集まってる時間くらいか。
「仕方ねぇ、そこを攻めるか」
覚悟を決めたオレは昼休みに特攻しに行くことに。
そしていざその昼休みになり、オレはヤンキーたちが集まっている正面玄関近くの中庭前まで来たのだが……
「はい、お前罰ゲームーー!! 放課後、駅でナンパなーー!!」
「クッソがあああ!!! 仕方ねぇ成功しても拗ねんなよ!!」
「ぎゃはははは!!! 逆に失敗したら私らが慰めてやるって!! ね、ゆりか、楓ー」
や、やっぱり怖えええええええええ!!!!
汚い笑い声もさることながら、なんでヤンキーって真昼間からこんなにハイテンションなんだ?
完全に怖気付いたオレはすぐに作戦を中断。 昼休み終了付近で解散したところを突撃するという作戦に切り替え、物陰に隠れながらじっとその時を待つことにした。
「とりあえず愛ちゃんとマリアのツーショット写真を見ながら心を落ち着かせよう」
◆◇
どのくらい経っただろう。
まだ昼休み終了まで時間はあったのだが、ここで動きがあった。
なんと佐々木さんだけが「ちょっと私トイレ行ってくるわ」と集団から離れ、トイレのある方向……こちらへ向かってきたのだ。
「これは……チャンスすぎるぜ」
もちろんオレはヤンキーたちの視界に入らなくなったところで佐々木さんを直撃。
驚く佐々木さんに、黒沢さんから預かっていたプレゼントを差し出した。
「うわわ! な、なにどうしたん加藤!」
「こ、これ……佐々木さんに!」
「えええ、私に!? てかなんで加藤が……ウケるんだけど」
どこがウケるのかは分からないが、どうにかオレは佐々木さんにプレゼントを受け取ってもらうことに成功。
「開けていい?」と言われたので、了承しながら事の詳細を話すことにする。
「うん。 でもそれはオレからっていうよりも預かりものなんだ」
「預かりもの?」
「そう、黒沢さんから。 佐々木さんも進藤さんも、もうすぐ誕生日なんでしょ?」
「え、奈々から?」
黒沢さんからだと知った途端に佐々木さんは急に無言に。 開けようとしていた手も止まり、ジッと小包を見つめ出す。
「ーー……さ、佐々木さん?」
「んーー。 てことはさ、ゆりかのもあるんだよね」
「う、うん。 ここに」
オレがもう一つの小包を取り出すと、佐々木さんは口を真一文字に。 その後オレを見つめながら「ちょっとゆりかのところ行こ」と中庭を指差した。
「え、ええええ!?!? あそこに!?」
「そ。 加藤も知ってるとは思うけど、ゆりかそこにいるから」
「ちょ、ちょっと待ってよ佐々木さん! それだけはどうか……勘弁してくれないかな!」
あんなところに行けば、変なヤンキーのノリとかで話がややこしくなったりするのは必然……いや、それ以前の問題として、ヤンキーの圧に圧倒されてオレが一言も話せなくなる。
「なに言ってんの。 渡しに来たんしょ? なら行こうよ」
「佐々木さんーーー!!!!」
どうしても行きたくないオレは恥を捨ててヤンキーが怖いことを説明。
佐々木さんも黒沢さんと同じ反応で「は?」と信じられないような顔をしていたが、オレの熱意が少しは伝わったのだろう。 「ったく、どんだけビビリなん?」と鼻で笑いながらオレの意思を尊重してくれたのだった。
「分かった。 じゃあ、ゆりかだけ電話で呼ぶわ。 それでいい?」
「うん!! ありがとう!!」
「はは、そこまで感謝してくるとかマジウケる」
数分後、佐々木さんから呼び出された進藤さんがオレたちのもとへと到着。
「私一人で来てって、なんかあった?」といつも通りのクールなテンションだったのだが、隣にいたオレを見るなり何かを察したようで「なに楓。 これどういうこと?」とオレを睨みつけながら佐々木さんに問いかけた。
「あはは、ごめんねゆりかー。 流石の私も理由聞いちゃったら断れなくってさ」
「理由?」
「うん。 ほら、加藤」
佐々木さんのアイコンタクトに反応したオレは、すぐにもう一つの小包を進藤さんに差し出す。
「なにこれ」
「奈々から私らに誕生日プレゼントだってさ」
「奈々から?」
「そそ」
「なんで?」
「なんでって……それは私も不思議だったけどさ」
「ーー……まぁいいや。 こいつ何か知ってるんじゃない?」
まだ佐々木さんとの話の途中だったのにも関わらず、進藤さんは視線をオレに移すなり襟を力強く引っ張ってくる。
「え、ええええ!?!? 進藤さん!?」
「うるさい」
「ーー……っ!!」
進藤さんの目がギラリと光る。
相手は女とはいえヤンキーだ。 まさに『蛇に睨まれた蛙』状態になってしまったオレは完全にビビってしまい膝から崩れ落ちる。 それを見た進藤さんは「はぁー……」と大きなため息をついて、その場でしゃがみ込んだ。
「ちょっとどうしたのゆりかー。 暴力とか、らしくなくない?」
「いや、私まだ服引っ張っただけで何もしてないから」
「そうなの? ーー……で、ここで聞くん?」
「そうだね。 人通りも少ないし」
なにが……なにが始まるっていうんだ!?!?
進藤さんと佐々木さんが揃ってオレへと視線を向ける。
「あの……何かオレに聞きたいっぽいけど、オレも詳しい話は知らないっていうか。 そのプレゼントも半強制的に渡されただけで……」
「それは私らが決めるから。 加藤は黙って質問に答えて」
おいおい。 『分からない』って答えただけで殴られたりとかは……しないよな?
オレは生唾を飲み込みながら小さく頷く。
そして進藤さんが口を開こうとした……その時だった。
「奈々はさ、私らのーー……」
「おい、そこのお前」
「「「!!!」」」
突然声をかけられ振り返ってみると、そこにいたのは見たこともない男子。
直近で激しい喧嘩でもしたのだろうか。 全身が傷だらけで、顔にはたくさんの絆創膏を貼り付けている。
「え、もしかして進藤さんたちの友達……?」
そう尋ねながら二人に視線を移してみると、二人は目を大きく見開きながら無言でその男を見上げている。
「ね、ねぇ進藤さ……」
「なんか用?」
「そうそう、もう私らとは関係ないはずだけど」
なんだ? オレを守ろうとしてくれてるのか?
二人はゆっくりと立ち上がると、オレと男の間に立つようにして、男を睨みつけながら「消えてくんない?」と冷たく言い放つ。
「あん? 別にお前らに用はねぇさ。 俺が今用があるのはそこのインキャだ」
ーー……。
え、オレ!?!?
あまりにも唐突な名指しにオレは激しく動揺。
すぐに俯き視線を外す。
「おいお前、名前はなんだ? 二年ってことは分かる。 何組だ?」
「は? なんで? こいつは関係なくない?」
「そうそう。 てか見てるだけで吐き気するからさ、さっさと消えてよ」
おおおお!!! 進藤さん佐々木さん!!!
本当にオレをこいつから守って……なんて優しい心を持っていたんだ!!!
「だから俺はお前らに用はなくてだな」
「うるさい」
「あああああ!!! 耳が腐るーーー!!!」
はじめこそこの男、まったく引く気はなさそうだったのだが、決め手となったのは進藤さんの「叫ぶけどいいの?」。
ことを大きくしたくなかったのか男は舌打ちをしながら一歩下がり、オレに向かって「明日、覚えておけ」とだけ言い残し、その場を去って行ったのだった。
◆◇
「進藤さん佐々木さん、本当にありがとう!!」
男の姿が完全に消え去った後、オレは全身全霊を込めて二人に感謝を伝える。
「いや、別に加藤のためじゃないし」
「そそ。 ビビリで勘違いとか、マジで痛いよ?」
うんうん、二人とも素っ気ない態度をとってるけど、大丈夫分かるよツンデレだよね!!!
オレは「いやいやそんな」と言いながら二人に何度も感謝の言葉を述べる。
しかしオレは、次の二人の言葉で一気に絶望のどん底へと落とされることとなる。
「ていうかさっきの怖かった……二人はあの人知ってるの?」
「「奈々の元カレ」」
ーー……え。
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