43 オレの苦手なヤンキー女子④
四十三話 オレの苦手なヤンキー女子④
ヤンキー女子の一人・黒沢さんのお見舞いに行った翌日……の、放課後!!
「すみません、渡せませんでしたあああああ!!!!」
黒沢さんの入院している室内。 プレゼントを進藤さん佐々木さんに渡すことができなかったオレは、目の前にいる黒沢さんに深々と頭を下げた。
「は……はああああ!?!? なに加藤……渡せた報告ならまだしも、渡せなかった報告ってどういうわけ!?!?」
オレは今にもキレそうな……いや、若干キレかけている黒沢さんに理由を説明。
休み時間に渡そうと何度も試みたのだが、二人はオレを見るなり逃げるようにどこかへ……昼休みは他クラスのヤンキーたちと集団でいたため、その輪に入っていく勇気が出なかったことを熱弁する。
「いやいやいや!! 別に殺し屋とかそういう類の事務所に入っていくわけでもないのに……加藤あんた本当に男なわけ? ちゃんと付いてんの!?」
オレのチキンハートを理解できない黒沢さんが視線をオレの……どことは言わないが下半身の方へと向けてくる。
「付……!? な、なにが」
「そんなの決まってんでしょ! チン……」
「うわあああああ!! ごめんなさい! 言わなくて結構ですー!!!」
それから約十分ほどオレは黒沢さんの愚痴を聞く羽目になり、痺れを切らした黒沢さんはオレのズボンの中に手を突っ込んでスマートフォンを奪取する。
今ほどパスワード設定をしておけばと後悔したことはないぜ。
黒沢さんはオレのスマートフォンの電源を付けるなり自身のスマートフォンを確認しながら連絡先を入力。「明日渡せなかったら、夜な夜なウチの自撮り画像を送って……退院してからみんなに『加藤に脅されてエロ画像送らされた』って言うから」と、かなり悪戯な笑みを浮かべた。
「オレに脅され……ええええ!? それこそ脅しじゃないの!? もしオレがそんなことないって言ったらどうするわけ!?」
「あのね加藤、この世は女に都合の良いように出来てるの。 映画でいうとレディースデイだとか、女性専用車両だとか。 それにほら、痴漢されてないのに『された!』って言ったら、やってない男の人が罪になっちゃう……痴漢冤罪なんて言葉もあるわけだしさ」
「ぐぬ……ぐぬぬぬぬ……!!」
オレがなにも言い返せないでいると、黒沢さんは胸元のボタンを外してブラジャー姿の自分を一枚パシャリ。「とりあえず、これで渡す以外の選択無くしとくわ」と、その写真を登録したばかりのオレのメールに送りつけてくる。
「ぐふぁっ……!!!」
「ぐふぁって……どんな感情なのさ」
言えない。 脅されてる怖さもさることながら、それ以上に興奮の方が勝っているなんて口が裂けても言えない。
今オレのスマートフォンの画面に映し出されているのは、黒沢さんの胸元を中心に焦点を合わせた自撮り画像。 普通なら胸に感動するはずなのだが、『胸元』もさることながら『他』もかなり素晴らしい。
鎖骨はかなりエロく、その横で下へと伸びるブラ紐は肌から若干浮いていて……いかに黒沢さんのサイズが大きめなのかを示してくれている。
これぞ性の暴力……思春期男子が勝てるはずがない。
感情を表に出さないよう頑張ってみても、男にはどう頑張っても理性では制御出来ない部分がある。
そこを中心に熱くなってしまったオレは恥ずかしい姿を黒沢さんに晒してしまい、それを目の前でみた黒沢さんは照れるわけでも恥ずかしがるわけでもなく、大爆笑し始めた。
「あはーーっはっははは!!! こんなので熱くなっちゃうとかどんだけ純粋なわけ!? もしかして漫画とかでしか女の子のそういうの、見たことない感じ!? あはははははは!! おもろすぎーー!!!!」
あ、あるわーーーーーー!!!!!
同い年のは確かに見たことないけど、もっとみずみずしくてキメの細かい……将来に可能性しかない愛ちゃんやマリアのを見たことあるわーーーーーーー!!!!
オレは恥ずかしい部分を隠しながら「じゃ、じゃあ渡したら連絡するから!」とすぐにここから帰るべく視線を扉の方へと向ける。
しかしこれまたなんてタイミング。 後ろから聞こえてきたのは、黒沢さんの気の抜けた一言だった。
「え」
振り返ってみると、黒沢さんが自身のスマートフォンを真顔で凝視……先ほどとは打って変わり、冷たい……張り詰めた空気が彼女の周囲を覆っている。
「く、黒沢さん? どうしたの?」
オレの声に反応した黒沢さんはゆっくりと視線をオレの方へ。
その後、オレの羞恥心を一瞬で吹き飛ばすほどの最悪な言葉が黒沢さんの口から発せられた。
「ーー……やばい。 元カレからメール来てたの気付かなかった」
元カレ……あ、昨日言ってたあいつか。 ヤンチャだっていう三年生の。
「そうなの? じゃあオレ、さっさと帰った方がいいんだよね」
そう聞いてみたのだが、一体どうしたんだ?
黒沢さんは顔を青ざめながらスマートフォンを握りしめ、「え、うそ……今日はお父さんいないから……来ていいなんて言ってないのに」とブツブツと呟きはじめる。
「黒沢さん、もしかしてその元カレに来て欲しくない感じ?」
「ーー……」
反応する余裕もない……のか?
もし今理由を聞いたとして、オレが仲裁出来るはずもないし、仮に聞けたとしても聞いてる間にそのヤンチャ……暴力的なヤンキー先輩が到着してしまう。
「ふむ」
人間って不思議だよな。
自分に危機が迫ってると分かった途端、妙に冷静になれるところがある。
オレはすぐに自身の身の安全を優先することに。
駆け足で扉へ駆け寄ると、取っ手下にある鍵に手を伸ばして外からはカギ以外では開けられないよう施錠。 その後すぐに黒沢さんの方へと戻り、ナースコールで今から会いに来るであろう男子高校生に、『体調不良を理由に入れないこと』を伝えてほしいとをお願いする。
「か、加藤……」
「大丈夫。 とりあえず鍵もかけて看護師さんにもお願いしといたから」
「なんでそこまで」
「そんなの決まってるでしょ。 オレ、暴力を受けることだけは絶対に嫌だからね」
「暴力……、はは、そっちかよ」
『そっち』って、それ以外に何があるというのだろうか。
しばらくすると扉の奥から男の声が聞こえてきた。
「おーーい!! 奈々ー!! 開けてくれ、約束してなかったけどサプライズで会いに来たぞーー!!」
「ーー……っ!!」
声を聞いた途端、黒沢さんの体がビクンと反応。 スマートフォンを握りしめていた手が細かく震えはじめる。
「おーーい、奈々ーー!! 奈々ーー!!」
かなり野太い声……。 黒沢さんの反応的に、今叫んでる奴が元カレなのだろう。
黒沢さんの言っていた通り元カレはかなりヤンチャ……迷惑を考えないバカなようで、返事をしていないというのに扉を強く叩いたり、黒沢さんの名前を何度も繰り返し叫ぶ。
「奈々ーー!! 開けろ!! もしかしてそこに誰かいるのか!? 奈々あああーー!!!」
結構しつこい野郎だな。
オレが小声で「うるせーな」と呟くと、それを聞いていた黒沢さんが「でしょ」と苦笑い。
どうして黒沢さんはこんなバカと付き合っていたのか考えていたのだが、それが本人にも伝わったんだろうな。 外から怒号が鳴り響く中、元カレとの関係を簡単にオレに説明してくれたのだった。
「多分加藤はさ、どうしてウチがあんな人と付き合ってたんだって思うっしょ?」
「う、うん」
「でもね、ゆーて付き合ってた期間は三十分もないからね」
「ーー……」
は?
雑音鳴り響くこの状況下で、オレの脳は真っ白になった。
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