41 オレの苦手なヤンキー女子②【挿絵有】
四十一話 オレの苦手なヤンキー女子②
どうしてこのタイミングで脇の下が破れるんだよ。
立候補と勘違いされたオレは、進藤さん佐々木さんに続くヤンキー女子・現在入院している黒沢さんのお見舞いに行くことに。
しかし流石にオレ一人でヤンキー女子に会いに行くことはかなり気まずかったので、このクラス内で可能性があるであろう三人に頼んでみることにした。
◆◇
休み時間。 オレは進藤さん佐々木さんが教室から出たのを確認してすぐに後を追う。
「さ、佐々木さん! 進藤さん!」
「お?」
「?」
オレの声に気づいた二人が同時に振り返る。
もしここで二人が病院へ行くことを許可してくれたなら……そう! 一番関わりのないオレは、部屋の隅でオブジェになっていればいいだけなのだ!!
オレは早速二人に一緒にきてもらえないか提案を試みる。
「ね、ねぇ佐々木さん。 出来れば一緒に……」
「あー、それは無理。 ごめんねー」
え。
「ち、ちなみに進藤さんは……」
「なに? 昨日のってやっぱり私らに恩売ってた感じ?」
「ーー……違います」
二人に頼んだらもしかして……と思っていたのだが、結果は頼んでみても何も変わらず。
オレは気持ちを切り替えて、一番許可してくれそうな石井さんに話しかけた。
「ん? どうしたの加藤くん」
オレの顔を見るなり、石井さんは優しい笑みを浮かべながら「私に何か用?」と尋ねてくる。
これは……絶対にいける!!
オレは勝利を確信しながらも「石井さん、よかったら今日の放課後オレと一緒に……」と同行を提案。 しかし返ってきた言葉は石井さんらしからぬ……オレの理想とはかけ離れたものとなっていた。
「ご、ごめんね。 私、ヤンキーはちょっとその……いろいろあって苦手で。 本当にごめんなさい」
「ーー……」
うわあああああああ!!! ソロ決定オワタアアアアア!!!!
◆◇
「じゃあ俺は黒沢のお父さんと話があるから……加藤はこの部屋にいる黒沢と話しててくれ」
病室の前。
担任は黒沢さんの父であろう男性とともにその場を離れ、一人取り残されたオレは目の前……扉横に設置されていた【黒沢奈々】と書かれたネームプレートを凝視する。
ぶっちゃけ今ここで逃げ帰るって方法もあるのだが……電車賃が結構かかるんだよなぁ。 それに、そもそもとしてこの病院、駅から離れてるし。
「ーー……行くしかないか」
ずっとこのまま突っ立っていてもこの廊下を行き来する看護師さんたちの邪魔になりかねないし、下手したら不審者扱いされる可能性もあるからな。
オレは諦めて扉をノック。 スライド式の扉を引くと、ちょうど上体を起こしてスマートフォンを弄っていた黒沢さんと目があった。
「ーー……誰?」
おでこを出した茶髪女子・黒沢さんが若干警戒した表情でオレを凝視してくる。
いや、ぶっちゃけオレもお前と同じ感想だから。
心の中でツッコミを入れながらも、オレは「あ、オレ同じクラスの加藤……です」と簡潔に自己紹介。 オレの名前を聞くなり黒沢さんは「加藤……って、あのインキャの?」とオレを指差しながら尋ねてきた。
誰がインキャだ!!! あってるけど!!!!
「う、うん。 今日は先生と一緒にお見舞いに来て……。 あ、先生は今外で黒沢さんのお父さんと一緒に話してるんだけど……」
「ふーん、そっか。 わざわざあんがとー」
黒沢さん……今日初めて会話した気がするけれど、進藤さんや佐々木さんに比べると結構落ち着いた雰囲気の子だな。
しかし安心したのも束の間。 軽く緊張の解けたオレが「調子はどう?」と話しかけると、黒沢さんは視線を外しながら「どうもしないけど」とこれ以上話を広げようのない反応を見せてくる。
「えっと、そうなんだ。 あーー」
き、気まずいぞ。
それでも担任が帰ってくるまではなんとか会話を続けようとしていたオレだったのだが、そんな気持ちも一瞬で崩壊。
決め手となったのは、続けて放たれた黒沢さんの言葉だった。
「あ、そこまで気を使わなくていいから。 ウチも話し合わすの面倒だし」
黒沢さんはそう言い放つと、何事もなかったかのようにスマートフォンを弄り始める。
あ、そっすか。 ラッキー。
別にオレはほぼ無理矢理連れて来られただけで、黒沢さんには特別な感情とか……そんなものは微塵もない。
それに黒沢さんから「話を合わせるのが面倒」だと言ったんだ。 だったらその気持ちを優先させてあげようじゃないか。
「分かった。 じゃあオレはお邪魔みたいだし、ここで」
早くこの空間から去りたかったオレは、黒沢さんに軽く頭を下げて扉に手をかける。
しかし何故だろう……話を拒絶してきたのは向こうなのだが、オレが帰ろうとした途端に背後から聞こえてきたのは「待って」。 振り返ってみると、黒沢さんが自身の両手の指を互いに絡ませながら、何か言いたそうな表情でチラチラとオレを見つめていた。
「えーーっと……なにかな」
振り返ってしまったんだ。 ここで無視したら、黒沢さんが退院して学校に復帰してからが面倒だろうからな。
オレが用を尋ねると、黒沢さんはゆっくりと口を開いた。
「そのさ、ゆりかと楓は……どうしてるのかなって」
ーー……。
「え?」
「だ、だからゆりかと楓。 加藤も同じクラスなんだからクラスメイトの名前くらい分かるっしょ」
黒沢さんが「早く答えてよ」と腰に当てていた枕をオレに投げつけてくる。
「おわわ! あぶない!」
「早く答えてって」
「え、あーうん。 普通かな」
「普通?」
「うん」
「ふーん、そっか」
ん、なんだ? 急に空気が変わって……大人しくなったぞ?
そういや昨日、高槻さんとのデートの待ち合わせ前に進藤さんたちが何か話してたような気もするが……ダメだ、昨夜の精力剤事件でまったく思い出せねぇ。
オレが「えっと、それだけ?」と尋ねると、黒沢さんは「んなわけないっしょ。 本題はここから!」となにやらベッド下に置いてあったバッグに手を伸ばす。
そこから取り出したのは二つの小さな紙袋。 黒沢さんは「これ、お願いできる?」とオレに差し出してきた。
「えっと……これは?」
「あのさ、中身は一緒だから……これ、ゆりかと楓に渡しといてくんないかな」
「え」
「二人って同じ誕生日で……もうすぐなんだよね。 でも私って今こんなじゃん? 渡せないし」
黒沢さんは自身の着ている入院服の袖を掴みながら寂しそうに笑う。
「まぁ……うん、わかった。 いいよ」
「へぇ、意外。 加藤、二人のこと怖くて断ると思ってたのに」
「でも渡して欲しいんでしょ? それくらいならオレにでも」
「ははは、案外度胸あんじゃん。 あんがと」
オレが黒沢さんから二人へのプレゼントを受け取ると、黒沢さんは「呼び止めちゃってごめんね。 それよろしく、バイバイ」とオレに手を振ってくる。
「あ、うん。 バイバイ」
何はともあれ、ようやくオレも帰れるんだ。
オレは黒沢さんに別れを告げながら、彼女に背を向ける。 その後扉の方へと一歩足を踏み出そうとしたのだが……
ーー……!!!!
とてつもない悪寒がオレを襲い、同時に視界の隅に三十センチほどの黒い矢が出現する。
「!?!?」
それは目にも留まらぬ速さで黒沢さんの方へと飛んでいき、振り返った時にはもう遅い……矢は黒沢さんの肩を貫通。 血こそ出てはいなかったのだが、病室内に黒沢さんの悲痛な叫び声が響き渡った。
お読みいただきましてありがとうございます!!
感想や評価・ブクマレビュー、いいね等、励みになりますお待ちしておりますっ!!




