40 オレの苦手なヤンキー女子①
四十話 オレの苦手なヤンキー女子①
「あー!! みーちゃん、みーつけた!!」
『はっはっは!! 見つかってしもうたわ!! ……と言っても、声までは聞こえとらんようじゃがのう』
ーー……ん、なんだなんだ?
朝、楽しそうな声で目を覚まし一階に降りると、まだ起きる時間までは時間があるというのに愛ちゃんが御白神社の神・御白とかくれんぼ中。
そしてそんな二人をマリアは楽しそうに見守っていた。
「あ、良樹起きた。 おはよう」
オレにいち早く気づいたマリアが横目でオレに視線を向けながら微笑んでくる。
「おはよ。 マリアは混ざらなくていいのか?」
「いい。 これは愛の修行。 どうしてもみぃが見つからない時にだけ、マリアがヒントを言う」
あぁ、そうだった。
愛ちゃんもとうとう僅かではあるが霊力が開花……オレ特製のお札を身に付けていなくても、ぼやける程度には霊が視えるようになったんだったな。
「そっか。 どんな感じだ?」
「結構いい感じ。 愛は子供だから、成長が早い」
「いや、お前も子供だろ」
「むぅ。 マリアの方が、愛よりもほんのちょっと大きい」
「なんの話だよ」
それにしても朝から幸せな気持ちにさせてくれる。 週の初めがこんなに幸せな気持ちから始まるんだ、今週はいいことがたくさん起こる予感がするぜ。
オレは楽しそうな愛ちゃんやマリア、御白の声をBGMに朝食作りを開始。 そのまま楽しい食卓を囲み、明るい気持ちのまま家を出て学校へと向かったのだが……
まさかこの後、オレがあんな目に合うなんて。
◆◇
学校へ到着して教室へと向かっていると、ちょうど女子トイレから出てきた赤茶色の髪をしたヤンキー女子・佐々木さんを発見。 佐々木さんはオレと目が合うなり「あ、ちょうどよかった! 加藤ー!」とオレの名を呼んでくる。
「え、あ、お……おはよ」
「昨日はサンキュな助かったわ」
「あ、あー、うん。 大丈夫だった?」
「おかげさまでね。 途中あいつらの姿が見えた時はビビったけど、タクシーの中だったし姿勢を低くしたからバレずに済んだ……あのまま歩いて帰ってたらヤバかったわ」
「それはよかった。 じゃあオレはこれで……」
「てことで、はいこれ。 返すねん」
「え」
そう言って佐々木さんがオレに差し出してきたのは五千円札。
あれは昨日あげたつもりだったんだが……そのことを聞いてみると、なんとも意外。 ヤンキーらしからぬ発言が佐々木さんから返ってきたのだ。
「あんね、お金の貸し借りはちゃんとしとけって親から言われてんの。 それにさ、別にこのお金は誰かからパクったとかそんなんじゃなくて、ちゃんと私のお小遣いから出してるから安心してよ」
「え、いや……いいの?」
「いいよ。 そんで、この五千円はゆりかの分も含まれてるから……もしゆりかが何も言ってこなかったとしても怒ったりしないでくれる?」
「あ、うんそれは大丈夫。 もともとあげたつもりだったから」
「あははサンキュ。 あ、でもこれだけは忠告しとくよ。 他の奴らにこんなことしたら……下手したらカモられるかもしれないから注意しなよねー」
「え」
佐々木さんは五千円をオレのポケットの中へ無理やり突っ込むと、「だはーっ! 押し込み過ぎて指先当たっちったぁー! こりゃあ金運アップだわー」と笑いながら教室の方へ。
佐々木さんの指先が何に当たったのか……それは神のみぞ知る話だが、オレは初めての感覚にノックアウト。 途中トイレに寄り道をした影響もあり、教室に入ったのは担任の来るギリギリ前になってしまっていた。
「加藤くん、どうしたの? 顔赤いけど」
朝のホームルーム中。
オレの異変を察したのか、後ろの席から石井さんが小声で話しかけてくる。
「え、そうかな。 特に……うん、いつも通りだと思うけど」
「そう?」
「そ、そうだよ」
細かいところに気づくとはなんという洞察力。
まぁ女子って前髪切っただけでもお互いに気づくって言うし、このくらい気づくのは当たり前なのだろう。
オレは改めて女子ってすごいなと感じながら、視線を再び教壇で話している担任へ。
するとちょうどタイムリーな内容を話しており、それは昨日高槻さんとの待ち合わせ前に本屋で盗み聞きをしていた……クラスのヤンキー女子・黒沢奈々のことだった。
「今日で黒沢が入院して大体2ヶ月が経過したわけだが……どうだ? みんなの中で黒沢と連絡を取ってる子はいるか?」
この質問に対して生徒は全員沈黙。
それを見て思うことがあったのだろう。 担任は片手をあげながらこうオレたちに言葉を続ける。
「今日、先生は黒沢の入院してる病院へ行く予定なんだが……どうだ、お前らの中で先生に同行してもいいってやつはいるか?」
おいおい誰か一緒に行ってやれよ。 特に女子。
誰かいないのか周りを見てみるも、手を上げようとしている生徒の姿は見受けられず。
一番仲の良さそうだった進藤さんと佐々木さんに視線を向けてみたのだが、二人とも我関せず的な反応……無言でスマートフォンを弄っていた。
「誰もいないのか。 進藤と佐々木はどうだ? お前ら仲良いだろ」
担任もオレと同じ印象を持っていたのか、誰に振るでもなく二人に直接話しかける。
「無理。 別にそこまで私ら仲よかったわけじゃないし……それ以前に放課後は予定あるし」
「そうでーす。 私も買いも……塾あるんで無理でーす」
おいおい嘘つくなよ、オレは知ってるぞ。
二人は今日……詳しくは昨夜の精力剤事件で忘れたけど、なんか予定遊ぶ入れてたよな無慈悲な奴らめ。
ヤンキー同士の絆は固いとか、そういうのはアニメや漫画の世界だけ。
現実はそうは甘くない……教師の概念もそうだったけど、これはヤンキーの概念も見直す必要がありそうだな。
「おいおいみんな寂しいじゃないか。 ほら、誰かいないのかー? そうだ、同行者には先生がジュース奢るぞー」
「「ーー……」」
こういう状況で目を合わすと誘われかねないことを知っていたオレは、すぐに視線を落としてこの話題が終わるのを待つことに。
しかしその作戦も上手く行くことはなく、きっかけは今届いた……石井さんからのメールとなった。
【受信・石井さん】周りに聞かれたら恥ずかしいと思うからメールにしたんだけど……加藤くん、制服破れてるよ。 ちなみに右脇の下らへん。
「え」
腕を上げて確認してみると、確かにそこだけ大きく破れて長い糸が垂れている。
ボタンをはめたまま腕を通したから……いや、洗濯する時に洗濯ネットに入れたなかったからか?
まったく気づかなかったぜ。
服の裂け目をジーっと眺めていたオレだったのだが、担任の嬉しそうな声が耳に入ってきて我に返る。
顔を上げると目の前に満面の笑みの担任が。 「そうか! まさか加藤が立候補してくれるとは……先生は嬉しいぞ!!!」とオレの肩をバシンと叩いた。
ーー……は?
「え、なんで?」
「なんでってほら、お前手ぇ上げてるだろ」
「え、あっ……いや、これは脇が……」
「じゃあ放課後、一緒に行こうな!! もちろん約束だから、途中でジュースを買ってやるぞ!!」
「ーー……エ?」
えええええええええええええ!?!?!?!?!?
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