38 魅力的な小学校教師⑤【挿絵有】
三十八話 魅力的な小学校教師⑤
待ち合わせ時間の十分前。
オレを見つけた私服姿……薄緑色のワンピースを着た高槻先生が柔らかい笑顔で「こっちですよー」と小さく手を振ってくる。
少し前までは大学生だったからなのだろうか。
スーツの時とは違ってかなり幼く見える。
「あああ、すみません高槻先生。 待たせてしまいまして」
「いえいえ。 まだ十分前なのにありがとうございます。 あ、あと別に私は加藤さんの教師ではないので『先生』はいいですよ」
「うわうわそんな。 じゃ、じゃあ高槻……さん。 オレからもなんですけど、オレの方が年下なんで敬語は大丈夫です」
「そうです……そっか。 わかった、じゃあお互いのそれを尊重していこっか」
「は、はい」
なんだろう、敬語を無くしてくれただけでこの親近感……包容力が爆上がりしたんだが。
本当に年上相手に失礼な話だとは思うけど、色気は当たり前としてかなり可愛い……言ってみれば理想の近所のお姉さんといった感じだ。
オレが見惚れて固まっていると、高槻さんが「それじゃあ早速行きましょ……こほん、行こう?」とオレの手に切符を渡してくる。
「え、ええええ!?!? 買ってくれてたんですか!?!?」
「もちろん」
「オレが誘ったのに!?」
「ううん、最初に誘ったのは私だよ?」
「い、いやいや……流石に払いますって!」
焦ってショルダーバックに入れていた財布を取り出そうとするも、高槻さんが首を左右に振りながら制止してくる。
「いいの、このくらい出させて? 加藤さ……加藤くんはまだ学生でしょ。 そのお金は愛ちゃんやマリアちゃんに使ってあげてほしいな」
「ぐっ……、それを言われちゃあ何も言い返せません」
「ふふ、あの二人と三人暮らしなのは知ってるから、今日くらいはお姉さんに甘えてもいいんだよ?」
「なっ!!」
先生なだけあって子供の扱いがうますぎるぞ。
こうしてオレは高槻さんのエスコートのもと電車に乗り、降りたことのない駅で下車。
それからも後ろをついて進んでいくと大きなショッピングモールがあり、ここでようやく高槻さんから本日のプランが発表された。
「まだ時間的にもお腹は空いてないと思うから、ここでお買い物を楽しんでお腹を空かせようと思ってるの。 ゲーム屋さんもあるし、加藤くんも楽しめるはずだよ」
「ーー……こんなところあったんですね」
「それでご飯の件なんだけど、流石に遅くなりすぎると愛ちゃんやマリアちゃんもお腹空かせちゃうと思うから……夕方くらいにあっちに帰って、二人も呼んで一緒に外食なんてどうかな」
「えええ! いいんですか!?」
「私は基本的に一人での食事が多かったから楽しいし、マリアちゃんと前話したことがあるんだけど……外食に興味があるって言ってたから、そこもちょうどいいと思うの」
なんて……なんて女神の心の持ち主なんだこの人は。
もちろんオレはその提案に大賛成。
その後ショッピングモールへと向かっていたのだがその途中、オレは気になる張り紙を発見した。
「ん」
「どうしました?」
オレが視線を止めた張り紙に高槻さんも目を通していく。
「なになに、近くの公園でコスプレイベント開催中……加藤くん、興味あるの?」
「え」
「あ、いやごめんなさい。 そんなこと女の私相手に堂々と言えないよね」
「あーいや」
「じゃあこうしよう。 私もちょっとそういう世界に興味はあるからさ、一緒に見に行ってくれる?」
「ちょ、え、えええええ!!!!」
◆◇
人生初のデートだからと心の中で意気込んでいたのに、まさか初めてきた場所がコスプレイベントの会場になるだなんて。
日曜日だということで会場の公園内はかなりの人だかり。 コスプレをしている人もさることながら、それを熱心に写真やムービーに収めている人がその中の八割を占めていた。
「うわあああ、すごい人ですね。 高槻さ……」
「うおおおおおおお!!!! おい工藤!!! あっちに【絆アソ】のナタリーちゃんコスしてる子いるぞおおおおおおおお!!! しかも中学生だ中学生!!! 許可もらえば合法で写真、撮り放題じゃああああああ!!!!」
「チョマアアアアア!!! 森本!! 待ってくれ!! 僕、この体型だからそんなに早く走れな……、ハッ!! ほんとだ可愛いすぐるーーー!!!!」
オレと高槻さんの間を、普通体型とポッチャリ体型の大学生らしき男が「遠征してきてよかったああああ!!!」と全速力で駆け抜けていく。
「おい休むな工藤!! 可愛いは待ってくれないぞ!!」
「む、無理……もう僕は小学生や中学生じゃないんだ!! 大学に入ってから体重十キロは増えたんだぞ!!」
「だったら小五にでも転生してやり直せえええええ!!!」
「んな無茶なあああ……!!!」
なんという熱血。 あれが本物のオタク……欲望に忠実すぎるぞ。
オレが呆気にとられていると、大きく目を見開きながら固まっていた高槻さんに気づく。
「うわわ、高槻さん! 大丈夫ですか!?」
「あ、うん。 ていうかすごい熱気……みんな本当にこのイベントが好きなのね」
「確かに。 まぁテンションが上がるのも分かるっちゃあ分かるんですけどね」
オレだって愛ちゃんが巫女のコスプ……ゲフンゲフン、巫女の衣装に身を包んだときはこの上なく興奮したもんな。
オレが脳内で愛ちゃんの巫女服姿を思い出して幸せを感じていると、高槻さんが「やっぱり加藤くんも好きなんだね」と一言。
「あ」
「いいんだよー、恥ずかしがらなくて。 私も似たような趣味は持ってるから」
い、いやああああああああ!!!!
恥ずかしすぎる!! なんでかフォローされてるのに惨めすぎるううううう!!!!
本心ではもっと見ていたかったのだが、女性相手にいい格好を見せたかったオレは「いや大丈夫です!! 暑いですしショッピングモール行きましょう!」と半ば強引に高槻さんの手を引っ張ってその場を後に。
帰る時間ギリギリまで、高槻さんとの幸せな買い物タイムを楽しんだのであった。
「加藤くん、この服似合いそう」
「そうですか? あんま服のセンスとか分からなくて」
「あ、じゃあ私から加藤くんに簡単なアドバイスをしてあげる。 もし今後加藤くんが服を一人で買おうってなったときは、大学生の女の子が買いそうな王道系のファッション誌を買うといいよ」
「なんでですか?」
「そこにはもちろん女の子のコーデとかしか紹介されてないんだけど、衣装を着た女の子の隣にはよく彼氏役の男の子もいるの。 その男の子の服の雰囲気を真似したら、ハズレはないはずだよ」
「あー、それが女の子の理想像みたいな感じだからですか」
「んー、まぁそうかな。 基本的にそこに写ってる男の子は清潔感漂うコーデになってて、それが嫌いな女の子はあまりいないはずだから……思い出したら参考にしてみて」
「わかりました。 ありがとうございます」
「てことで、じゃあこれ買ってくるね。 プレゼントしてあげる」
「ええええええ!?!?!?」
◆◇
「ーー……で、良樹は舞と遊んでた?」
「うわあああ、みてみてマリアちゃん!! ここのお子様ランチ、ハムロックのおもちゃが付いてるよ!!!」
数時間後のファミレス。 案の定マリアは少し冷めた目でオレをみていたが、やはりそれよりも外食の嬉しさが勝ったようで「ハムロック……マリア、好き」とすぐに愛ちゃんと楽しそうに話し始める。
「あのなーマリア。 流石に『先生』をつけろ『先生』を」
「良樹うるさい。 なんか今のパパみたい」
「パ……っ!?」
「ふふ。 愛ちゃんもマリアちゃんも、好きなのいっぱい食べてくださいねー」
「はーい、せんせー!!」
「さすがはマリアたちの担任。 太っ腹」
高槻さんの言葉を受けて愛ちゃんたちが嬉しそうに手を上げる。
ていうか……ん? 今マリアは、なんて?
担任? え?
「えええええええ!?!? 高槻さんって、引率役だけじゃなくて、愛ちゃんやマリアの担任だったんですかあああああ!?!?」
「そうだよ。 言ってなかった?」
「言ってませんてええええええ!!! 愛ちゃんとマリアがお世話になってますううううう!!!!」
「あははは、加藤くん、急にそんなかしこまらなくていいから」
美人と可愛いに囲まれているからなのか。
この日の外食はいつもよりも3割増しで幸せな味がした。
それにしても愛ちゃんもマリアも羨ましいな。
こんなに可愛くて美人で優しくて包容力があって……魅力的な先生が担任なんだから。
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