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37 魅力的な小学校教師④


 三十七話  魅力的な小学校教師④



 昨日愛ちゃんがほんの僅かではあるが霊力に目覚め、マリアも愛ちゃんに追いつかれまいと心霊スポットで特訓をしていたのだが……



「ごめんなさい、お兄ちゃん……今日は特訓、おやすみしていい?」

「マリアも。 疲れすぎて動けない」



 オレの目の前にはお互いにもたれ合いながらソファーに腰掛けている愛ちゃんとマリア。

 ちなみにこれは霊力の使いすぎ……ではなく、ただの疲労なんだけどな。



「まぁ愛ちゃんは紙製の剣を持って走り回ってたし、マリアも自身の霊力をあまり使用せずとも周囲の状況に集中していたからな。 疲れる種類は違うけど……うん、気持ちは分かるよ」



 昨夜の話では、本日愛ちゃんは少しでもはっきりと霊を視えるようになるためにいうことで、家の中で浮遊霊たちとかくれんぼ。 マリアは集中力を高めるために、廊下で浮遊霊たちと『ダルマさんが転んだ』をする予定だったのだが……この様子では動けそうにないな。



 オレは二人に「わかった、あいつらにはオレから言っておくから今日はゆっくりしててね」と伝えて自室へ。

 窓越しで浮遊霊たちに伝えてしばらくベッドの上で横になっていたのだが、ふと視線を机の方へ向けると先日愛ちゃんたちの引率教師・高槻先生からもらった手紙が目に入った。



「そういえば時間がある日を教えて……とか書いてたな。 連絡すること自体忘れてたぜ」



 特にやることのなかったオレは手紙を手に取り、書かれていた番号に電話をかける。

 流石に休日の午前中は寝ているかもしれない……そう予想していたのだが、案外早く呼び出し音が途切れ、スピーカーからかなり色気に満ちた声が耳に直接入ってきた。



『ーー……んふぅ』



 おおう、なんだこのエロい吐息は。



「も、もしもし?」


『んあぁ? ーー……あれ、これ目覚ましじゃにゃい?』


「え、えっとあの、おはようございます。 先日手紙を頂いた加藤です」


『ーー……』


「あ、あのー。 もしもし?」



 返事がない。 もしかして電波でも悪いのだろうか。

 オレが首をひねりながら掛け直すか考えていると、しばらくしてスピーカーから『ふぇ?』となんとも間の抜けた声が聞こえてくる。



「え」


『えっと……んんっ、あ、あーー、加藤さん……加藤さんですか? 先日お世話になった』


「あっと……あ、お世話した記憶はないですけど、多分その加藤です」


『は、はわっ! はわわわわわわ!!!! すみません寝ぼけてましたおひゃようごじゃいます!! 高槻でひゅうう!!!!』



 年上なのに反則級の可愛さなんですけど。



 オレは高鳴る胸を押さえ込みながらも今回高槻先生に電話をかけた趣旨を説明。 ダメもとで今日なら空いてることと、別日なら平日の夕方が空いてることを伝えると、なんとも急展開……一番可能性がないと思われていた今日に決定したのだった。



「え、えええええ!?!? 急ですけどいいんですか!?」


『はい、大丈夫ですよー』


「で、でもせっかくの休日なのに……まだお仕事終わりの方が先生も流れ的に楽なんじゃないんですか!?」


『んー、まぁそれもそうなんですけど、残業などあったら加藤さんを待たせちゃうことになりますし。 それに……』


「それに?」


『仕事終わりだと私、スーツじゃないですか。 せっかくならお互いに堅苦しくない雰囲気で会いたいとは思いませんか?』


「ーー……っ!!!!!!」



 オレは胸を押さえたままベッドに倒れこむ。

 


 初めて感じたぜ。

 今後も経験することなどないだろうと思っていたのだがな。



 そう、これこそ世の思春期男子を全てとりこに出来るであろう女性の最強スキル【包☆容☆力】!!!!



 電話越しでよかった……こんなニヤけ顔、見られては困りものだぜ。



 高槻先生とは午後二時に最寄りの駅で待ち合わせることが決まり、オレは早速準備に取り掛かる。

 しかしそう、ここでオレは重大なことに気づいてしまったのだ。



「ーー……やべぇ。 オレ、どんな服を着て行けばイインダ?」



 ◆◇



 悩んでる時ほど時間はすぐに経ってしまい、気づけば約束の時間までもう少し。

 人生で一番悩み抜いた服に着替えて家を飛び出したオレだったのだが、結構急いだせいもあったのか到着したのは三十分前。 あまりやることもないので近くの本屋でアニメ雑誌に目を通しているとなんというタイミング……先日交流会を途中でボイコットしたヤンキー女子の二人、金髪の進藤さんと赤茶髪の佐々木さんが隣の女性誌コーナーで雑談をしていたことに気がついた。



「ねぇゆりかー、奈々、どーしてるかな」



 少し前まで無言で雑誌に目を向けていた佐々木さんが、隣の進藤さんに話しかける。


 奈々……黒沢さんのことだろうか。

 黒沢さんは進藤さん、佐々木さんのヤンキー女子仲間で、あまり興味がなかったから気にもしてなかったけど、少し前に病気になって入院してるんだよな。


 オレが雑誌で顔を隠しながら聞き耳を立てていると、進藤さんが冷たい口調で「楓、奈々の話はしないで」と話題を強引に断ち切る。



「え、あぁ……ごめん。 でもさ、気にならない?」


「全然」


「そっか。 あ、てかそのページのスカート可愛いじゃん」


「確かに。 明日学校終わり買いに行く?」


「いいね! じゃあ私明日は塾さぼるわ!」


「うん。 てそれよりもさ、あいつら遅くない?」


「ほんとにねー。 女子を待たせるとかほんとクソだよね」



 二人も誰かと遊ぶ約束……待ち合わせをしていたのだろうか。

 話の内容的に会う相手は男。 女子がヤンキーだと相手もヤンキーなのだろうが、一体どんな遊びをするのだろうか。

 やはりオレたち一般高校生では考えられないようなエッチな遊びとかなのか?



 ーー……ゴクリ。



 混ざりたくはないが興味のあったオレは静かに息を殺して数分間聞いていたのだが、ふと時計に目をやると待ち合わせ十分前。 先ほどの佐々木さんの『女子を待たせるとかほんとクソ』と言う言葉を思い出し、そそくさとその場を後にする。


 駆け足で待ち合わせ場所へと向かうと、一足遅かったか……。



「加藤さん」


「あ」



 そこにはかなり前回とは印象の違った、私服姿の高槻先生が小さく手を振りながら立っていた。




お読みいただきましてありがとうございます!!

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