36 愛ちゃんマリアの猛特訓!!
三十六話 愛ちゃんマリアの猛特訓!!
「てことで、やってきました心霊スポットー」
土曜日の朝。 オレが愛ちゃん、マリアを連れてやってきたのは、そこまで危険な霊の存在しない比較的安全な心霊スポット。
さすがはそういう場所なだけあって午前中にも関わらず重たい空気が立ち込めていたのだが、霊たちも何かを感じ取ったのだろうな、オレたちの……特にマリアや愛ちゃんを見るなり、そそくさと物陰に隠れた。
「みんな隠れた」
「お兄ちゃん、なんで?」
愛ちゃんとマリアが不思議そうにオレを見上げ尋ねてくる。
「んー、やっぱり連れてきたのが失敗だったか」
オレは視線を愛ちゃんたちの後ろへ。
二人の影からヒョッコリ出していた白い狐耳を見ながら大きくため息をついた。
『なんじゃ、妾を見るなりため息とは。 不敬にもほどがあるぞ』
「いや、どうしてもって言うから同行を許可したけどさ。 せめて神様のオーラは消してくれよ」
『はっはっは! これでも結構頑張った方なんじゃがな! やはり妾の内から溢れ出る圧倒的な力は……!』
「御白、護ってくれようとしてくれてるのならありがたいんだけど、邪魔するなら今夜はおやつ抜きな」
『分かったのじゃあああああ!! ちゃんと消す、ちょっとした出来心だったのじゃあああああ!!!』
やっぱりやれば出来るじゃないか。
御白が完全に気配を消して影の中に潜り込むと、少しずつではあるが霊たちの動きが活性化。 オレたちに興味を持ち始めて距離を詰めてくる。
「お兄ちゃん、きたよ」
「愛ちゃん、剣は何本ある?」
「んとね、三本あるよ」
愛ちゃんが四十センチほどの紙で出来た剣をリュックから取り出す。
これはオレが昨日中二的発想で編み出した新武器・お札剣で、全てオレの力を込めたお札で作られている霊特攻武器だ。 大体一本に五十枚くらいは使ったから、あれ一本で五十の霊は強制除霊出来る……ということだな。
「よし、じゃあそれでバッサバッサ切っていこうか! 特に愛ちゃんには御白の眷属も憑いて護ってくれてるから、そこは安心してね」
「うん!」
「マリアはまたオレが霊力を流し込むから、特殊な動きをする霊に注意するんだぞ」
「分かった」
こうして愛ちゃんとマリアは経験を積むために除霊練習を開始。
心霊スポットというだけあって驚くほどに霊で溢れかえっていたのだが、一番強そうな者で中級霊程度。 マリアは不自然な動きをする霊がいないかを気にしながら目の前の低級霊を蹴散らしていき、愛ちゃんも軽い身のこなしで襲いかかってくる低級霊に華麗な斬撃を与えていった。
巫女見習いとシスター見習いの共闘……なんか熱いぜ。
◆◇
お昼休憩はスポットから少し離れたところにある小さな喫茶店。
クーラーの効いた店内で各々食事を楽しんでいると、愛ちゃんが首を傾げながら自身の胸に手を当てていることに気づく。
「どうしたの愛ちゃん」
「んー、なんかここがポカポカしてて……なんか変な感じなの」
「胸がポカポカ?」
もしかしたら悪い何かに憑かれた可能性もあると思い目を凝らしてみるも、そんな存在は見当たらない。
「お兄ちゃん?」
「なんだろ。 御白の眷属もいたことだし憑依はされてないみたいだけど……他に何か違和感とかある?」
「ううん、ないよ」
「えええ、でも心配だな」
前日まで御白も何も言ってこなかったから生き霊が飛ばされてた……とかもないと思うんだけど、念には念を入れておいたほうがいいのかもしれない。
「御白、おやつは渡す……もう充分だから出てきてくれ」
そう声をかけると勢いよく影から御白が登場。
犬のように尻尾を左右に激しく振りながら『我慢解放なのじゃあああああ!!!』と満面の笑みでオレの隣に座った。
「なぁ御白、ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ」
『なんじゃ!?』
「聞いてたと思うけど、愛ちゃんが胸に違和感があるみたいなんだ。 オレは特に何も見えないんだけど……御白的にはどうだ?」
『愛が?』
「うん」
『うーーむ』
御白は目を細めながら愛ちゃんに顔を近づける。
しかしそれはほんの一瞬で、何かが分かったのか『あ、そういうことか』と納得したように頷いて、再び腰掛けた。
「え、そういうことって?」
『心配することではない。 むしろ喜ばしいことじゃ』
「ーー……どういう意味だ?」
オレたちの視線を向けられた御白が、微笑みながら腕を組む。
「もしかして愛、せーり?」
「せーり? ってなに?」
「むぅ、マリアも分からない。 でも喜ばしいことって聞いたことがある」
「そうなんだー」
『ーー……のう、もう言って良いかの?』
御白がゆっくりと口を開く。
その内容はかなり衝撃的なものとなっていた。
『愛、やったのう』
「え、なにが?」
『その違和感は第六感……のような、新たな力が覚醒した印。 すなわち愛の体の奥深くに眠っていた霊力が解放された証なのじゃ』
「ーー……え、霊力が?」
『うむ』
え、えええ……
「「ええええええええええええええ!?!?!?」」
「驚き」
オレや愛ちゃん、マリアは御白の言葉に大歓喜。 御白は続けて『恐らくは霊力のある良樹やマリアと長時間一緒にいたことで、愛の中にある霊力の扉が刺激され、妾の影響もあってそれに拍車が……そしてトドメが今日この日、良樹の力の込められた札を大量に身に纏ったことで、完全に開かれたんじゃろうな』と唱えた。
「おおおおおおお!!!!」
試しに愛ちゃんから普段ポケットに入れているお札を受け取り「御白が視える?」と尋ねてみたところ、気になる愛ちゃんの返答は「薄っすらだけど、なんとなく視える」。
こ、これは……初歩ではあるけど、かなり大きな一歩だ!!
「夢に一歩近づいたね愛ちゃん!! おめでとう!!」
「おめでとう、愛」
「ありがと!!」
ちっちゃい子の成長がこんなにも喜ばしいことなんて。
オレとマリア、御白は愛ちゃんの成長を心から祝福。 愛ちゃんも余程嬉しかったのだろう。 身につけていたお札を握っては離し、離しては握ってを繰り返して御白の姿や窓の外から視える浮遊霊たちの姿を楽しみ始めた。
『そういや愛よ、愛はどうしてそんなにも霊力を持ちたがるのじゃ?』
「私ね、お兄ちゃんみたいになりたいんだ」
『良樹みたいに?』
「うん。 ほら、前にみーちゃんにも話したでしょ、私のパパとママ、天国に行っちゃったこと」
『うむ』
「何もできなかった私に幽霊になったパパとママに会わせてくれて、最後にお別れを言わせてくれたのがお兄ちゃんなんだ。 お兄ちゃんのおかげで私は救われた……だから私も、お兄ちゃんみたいに困ってる人の助けになりたいの」
『それでどうして除霊の特訓まで?』
「それは漫画を見てかっこいいなって思ったのもあるんだけど、お兄ちゃんが、霊には襲ってくるのもいるから身を守れるようにって」
『なるほど、そういう背景があったのか』
御白は何かに納得したのか大きく頷き、二人の会話を見守っていたオレの耳に顔を近づける。
「ん、どうした?」
『実はの、ごにょごにょにょ……』
「ーー……え、本当か?」
『あぁ。 妾も応援したくなったからのう』
「おおお、それは助かる!! ありがとう!!」
『うむ。 じゃから来週は頼むぞ』
「おう!」
御白がオレに告げた内容は……まぁ今度分かるさ。
ともかくそれはかなり良いことで、俄然やる気の出たオレは目の前にあった水を一気に流し込む。
「っしゃ。 じゃあマリア、お前も負けてられないな! さっきの除霊を視てる限り、かなり余裕も出てきてるように感じた……食べ終わって少し休憩したら、また始めるぞ!!」
「うん。 マリアもまだ、愛には背中を見せていたい。 頑張る」
蝉の声響き渡る七月の空。
しかしオレたちのいた心霊スポットではオレや愛ちゃん、マリアによる一斉除霊により、霊たちの慌てふためく声が響き渡っていたのだった。
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