33 魅力的な小学校教師①【挿絵有】
三十三話 魅力的な小学校教師①
石井さんがウチに泊まった翌日の朝。
愛ちゃんたちを送り出した後に二人並んでの登校となったわけだが、そんな二人きりの状況をあいつらが許すわけもなく……
「わー、すごい。 加藤くんにはこんなユニークなお友達が居たんだね」
オレの手を握った石井さんが、周囲を飛び回る浮遊霊たちを見渡しながら各自に挨拶を交わす。
『おー! お嬢ちゃん視えるのか! ていうか、えらいベッピンさんやないか!!』
『なぁ見てみろよ。 良樹のやつ手を繋がれて、耳まで赤くなってるぜ』
『なぁ、もうチューはしたのか!?』
浮遊霊たちのほとんどがおじさん世代。
石井さんはそんな彼らのセクハラを受けながらも楽しいひと時を過ごせたのだろう。 「加藤くんはいいなぁ、あんなにたくさんのお友達がいて」とオレに柔らかく微笑んだ。
「あ、あははは。 う、うん」
『ダッハハハハ!! おい良樹ドウシター!? いつもみたいに話せよー』
『クール気取ってんじゃねーぞー?』
『今なら強制除霊の脅しもしてこないぞ!! チャンスだ!!!』
うーーーぜええええええええええ!!!!!
結局オレは石井さんと甘い時間を過ごすことは叶わず、気づけばもう校門前。
オレたちはそこで浮遊霊たちと別れて正面玄関へと向かった。
「あれ? みんな学校まではついてこないんだ」
「うん。 ほら、一人で話してたら変に思われるでしょ? だから余程のことがない限りは学校には入らないって約束したんだよ」
「へー、みんな優しいね」
「そ、そうかな」
なんか石井さん、今日は楽しそうだな。
昨夜も今朝も、御白と話せたからか?
「加藤くん、行くよー」
「あー、はい。 ごめんボーッとしてた」
上履きに履き替えたオレたちは雑談を再開させながら教室へ。
そして教室まであと少しのところ。 オレは石井さんにバラバラのタイミングで教室へ入ることを提案した。
「え、なんで?」
「だってほら、一緒に来たって思われたら面倒じゃない?」
「そう? でも事実だよ?」
「お願い。 オレを守ると思って」
「うーーん、なんでかは分からないけど、とりあえず分かった」
なんとか石井さんの協力も得て、オレは余計な男子たちからのヘイトを受けずに無事教室内へ。
石井さんが先に行ってから五分くらいズラしたからな。 席に着くと、すでに後ろの席からは楽しそうな会話が飛び交っていた。
内容的に……女子力の話か。
「うちさー、そろそろ料理習おうと思うんだけど、どう思う?」
「いいじゃん! もしそういう教室とか通うんだったら誘って! 一緒にいこ!」
「いいの!? え、じゃあゆづきも一緒にどう?」
「あ、私は割と作れるから」
「えー、そうなんだ!!」
「意外ー!!!」
石井さんの料理ができる発言を聞いて、昨夜の石井さんお手製肉じゃがの味が口の中で蘇る。
あれは実に美味しかった。
石井さん作の肉じゃがを口にしたマリアの感想、『もう良樹の肉じゃが、食べれなくなりそう』は印象的だったぜ。
実際に口にするまでは、天然の石井さんが作った料理なんだから味も油断ならないと思ってたんだけどな。
オレが心の中で懺悔していると、オレと同じように石井さんを天然だと見抜いていた女子がいたようで、「そうなんだ、でも石井さんって塩と砂糖を間違えそう」とまさに昨日までのオレが思い描いていたのと同じ発言を石井さんへと向ける。
「わかるー! 分量間違えたりとかでしょ!」
「そうそう!」
「え、そうかな。 そういうのはしたことないんだけど」
「えー、そうなの?」
「またまたー」
なんとも微笑ましい女子トークだな。
オレは目を閉じて後ろの席から聞こえてくる会話に集中。 視界をシャットアウトした分、完全にリラックスモードのオレだったのだが、それは突然……石井さんがとんでもない発言をしでかしたのだ。
「ほんとだって。 ねぇ加藤くん。 昨日の肉じゃが、美味しいって言ってくれたもんね」
ーー……。
オレはとりあえず聞こえないフリをすることに。
てか、なんでこうも簡単に口を滑らせちゃってるんだこのバk……天然は!!
結果オレが関わらないことを決めたところで、それを聞いてしまった女子が黙っているはずもない。
一気に「え、それどういうこと!? 詳しく!!」などと質問攻めにあい、そこでようやく石井さんは自分の発言に気がついたようで、「え、え、え?」と困惑の声を出していた。
まぁ結局オレが教室から出て、石井さんにメールで言い訳の手助けをしたんだけどな。
だからほら、教室の中からはほとんど棒読みの石井さんの声が……
「ち、違うの。 私の弟が加藤くんの妹と仲が良くて……それで最近よく加藤くんの家で遊ばせてもらってるから、お礼に作って持っていっただけなの!!」
「あ、そういうこと。 なーんだ」
「お泊まりしたのかと思っちゃった」
「あ、あはははは。 期待通りな結果じゃなくてごめんね」
「ううん、いーよ」
「そうそう、加藤はやめよきな。 暗いし」
「うーーん、私は優しい人だと思うけどな」
「「ないない」」
ぐすん。 石井さん……周りに合わせればいいだけなのに、なんて良い子なんだ。
◆◇
それから時間は過ぎて朝のホームルーム。
なぜか今日は担任が珍しくスーツを身に纏って教室へ。 生徒たちからヤジを飛ばされている中、オレたちにこう言い放った。
「みんな、前に言ったから覚えていると思うが……今日は近くの小学校の子たちと交流する日だ。 絶対に怖がらせたりとかせずに、楽しい思い出を作らせてあげるんだぞー」
「「「はーい」」」
え、なに? 交流? どういうこと?
意味が分からず後ろを振り返ると、石井さんは「なに?」と言わんばかりに可愛く首を傾げる。
なんか嫌な予感がするぜ。
そんなオレの予想は見事あたり、数分後には軽いノックとともに扉が開かれ……黒く綺麗な長髪をなびかせた引率の女性教師を先頭にぞろぞろと列を成した小学生たちが中へと入ってきた。
「あ」
もちろんそこに……いたよ。 楽しそうにオレに手を振ってきてる愛ちゃんと、満足そうな笑みを浮かべているマリアが。
「もしかして、朝言ってたのってこのこと?」
「そうだよ。 でもまさか同じクラスになるとは思わなかったけどね」
なんつー、運命力だ。
女性教師は教師になったばかりなのか、かなり若く、担任の隣に立つと「この子たちの担任の高槻舞です、本日はよろしくお願いします」と礼儀正しく頭を下げる。
その後頭を上げて一歩下がろうとしていたのだが、小学校の教室とは勝手が違っていたのだろう……小さな段差に躓いて体勢を崩し、目の前にいたオレたち男子に最高の『景色』を見せてくれた。
「「「高槻先生!! ありがとうございます!!!!」」」
複数名のクラスメイトが机に額をぶつけながら女性教師……高槻先生にお礼を述べる。
「え、え? 何がですか?」
「せんせー、見えちゃってますよー」
「見えちゃってる? なにが……って、ひゃあああああああ!!」
小学生たちはただの『パンツ』としか捉えていないのだろう。
オレたち高校生男子とは対象的に「あははははは!! せんせー、パンツ丸見え!! あはははは!!!」と大爆笑。 そしてそんな小学生の笑いに助けられたのか、高槻先生も「あははは、朝からお見苦しいものをお見せしました」と顔を真っ赤にしながら立ち上がり、改めて今回の交流会の趣旨を説明しだした。
「さすが高校生ですね。 こんなにも静かに私の話を聞いていただいて……ほら、みんなも見習ってくださいねー」
「「「はーい」」」
違う……違うぞ先生。
女子たちは分からないけど、オレたち男子は既にあなたの美貌……魅力に釘付けにされていただけなんだ。
それを証拠に……ほら、うちの担任も鼻の下伸ばしてるし。
これが大人。 学生では手に入れることのできないエロスに溢れてるぜ。
◆◇
話によるとこの交流会は小学生とともにチームを組み、今日一日丸ごと使って何かをするようで、最初に始まったのは班分け。 担任がオレたちに動物のイラストの書かれた紙をランダムに配っていき、それと同じ絵柄を持った小学生でチームを組む……というものだった。
そこでまぁ、また謎の運命力を発揮してたわけで……
「やった! お兄ちゃんに、ゆづきちゃんも一緒なんだ!」
「まさに神引き。 天はマリアたちの味方」
「うわぁ、すごい確率だね、愛ちゃんマリアちゃん。 加藤くん、今日は楽しめそうだね!」
お読みいただきましてありがとうございます!!
挿絵……今回は描かずには、いられませんでした 笑
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