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31 学校の怪談?⑦


 三十一話  学校の怪談?⑦



 眠ってしまったおばあさんの手を握った途端に電話を掛けに一人廊下へと出て行くあんずさん。

 はじめこそ石井さんは「え、どうしたんだろ」と心配そうな顔で杏さんの方を見つめていたのだが、「ねぇ加藤くん」とオレに再び触れた途端、何かを察したのか「あっ」と小さく声を漏らした。



 オレと石井さんの目の前にはあやめと、その隣に若い見た目の女性が一人。



『ママ……』

『あやめ、やっと会えたね』



 二人は幸せそうな表情で見つめあいながら、互いの感触を確かめ合うかのように抱きしめ合っていた。



「加藤くん、あれって……」


「うん。 これもよくあることなんだけどね、人って亡くなると、その人が一番元気だった姿で霊体になることがあるんだ」


「そうなんだ、じゃああの女の人は」


「そう。 そこで眠っているおばあさん……あやめのママだね」


「なんでかな、あのおばあさん、亡くなったのに嬉しそう」


「それだけ娘に会いたかったってことなんじゃないかな」


「ーー……そっか」



 オレたちが二人の様子を見つめていると、電話を終えた杏さんが部屋に戻ってくる。



「ごめんなさいね、バタバタに巻き込んじゃったみたいで。 母さん、今亡くなったみたい」


「らしいですね」


「えっ」



 オレの返答を聞いて思い出したのだろう。

 杏さんはすぐにオレの手に触れると、その視線を亡くなったおばあさんの方へ。 「あぁ……っ」といろんな感情が混ざった声を漏らすと、それに気づいた家族二人が揃って顔を杏さんへと向けた。



『杏、今まで看病、ありがとう。 ごめんなさいね、私のわがままで自宅療養をお願いしちゃって』



 二人の母が深々と杏さんに頭を下げる。



「ううん。 もう母さんの体、苦しくない?」


『うん。 もうどこも苦しくないし痛くない、体がとっても軽いわ』


「そっか、なら良かった。 母さん、お疲れ様。 お姉ちゃん、母さんをよろしくね」


『ありがとう』

『うん、あやめ、今日帰ってこれて良かった……アンちゃんも頑張ってね』



 こうして二人は杏さんに見守られながら、手を繋いで仲良く天国へ。

 杏さんはこれから色々と手続きがあるとのことで、オレたちは早々に杏さん宅を後にした。



 ◆◇



「もしかしてあやめちゃんのお母さん、あやめちゃんの帰りを待ってたのかな」


「んー、どうだろ。 心のどこかで、まだ帰ってきて欲しいとは願ってたかもね」


「それが叶ったんだ……奇跡だね」


「だね」



 結構な時間、長居をしてしまったらしい。

 外はすでに暗くなりかけており、メールを開くと愛ちゃんから『もう帰る? マリアちゃんがグミ食べたいって』と愛くるしい文章が送られてきていた。



「あー、そうだ。 買い物しないとだったんだ」



 オレが立ち止まりガクリと肩を落とすと、石井さんが「ええ、加藤くんお手伝いしてるの!?」と驚いた顔で尋ねてくる。



「んー、まぁそうだね。 ていうか今、両親二人とも海外に住んでてさ。 今愛ちゃ……親戚の子たちと暮らしてるんだけど、オレが料理とか色々やってるんだよ」


「そうなの!? 加藤くんが全部!?」


「うん。 だから今日は宿題もあるし、徹夜かな」



 これからやらなければいけないことを考えただけでも、ブルーになる。


 オレは半ば寝ることを諦めながら「まぁ親戚の子たち、可愛いからいいんだけどね」と愛ちゃん&マリアの良さを絶賛。 二人のためならオレ頑張れるみたいなことを冗談交じりに言っていると、なぜそうなったのか……石井さんが「じゃあさ」と口を開き、真剣な表情でオレを見つめてきた。



「ん、なに?」


「じゃあさ、その……今日は、私が家事、手伝ってあげようか?」



 ーー……。



「え?」



 あまりにも唐突なことで、オレはすぐには理解出来ず。

 しかし時間が経つにつれて理解しだし、「い、いやいやいや!! そんなもう遅いし……うちに泊まるとかそんなんじゃないのに、親御さんが心配するから!」とツッコミを入れる。

 


 ーー……が、



「ううん、遅くなるのは連絡したら大丈夫だよ。 それに加藤くんには神社のお礼とかしたいって思ってたし」


「ちょ、え、まじ……いや、絶対に心配するから」


「じゃあ連絡してみるね?」



 石井さんがスピーカー状態にしながら親へ電話をかけるとすぐに繋がり、母親らしき人の『もしもし』が聞こえてくる。

 


「あ、お母さん? ちょっといいかな」


『なにー?』


「今日お友達の家に行って家事の手伝いしたいんだけど……遅くなるけどいい?」


『家事? あらそうなの』


「うん、ちょっと大変そうで」


『えー、じゃあついでに泊まらせてもらっちゃいなさいよー。 夜道は危険だし、送ってもらったとしても、帰りにその子が一人だと危険でしょー?』



 !?!?!?



 石井母の発言に思わず噴き出しそうになるも、石井さんがオレに視線を向けながら指先を自身の下唇に当てる。



『ーー……ん? ゆづき? 聞こえてるー?』


「あー、うん聞こえてるよ。 じゃあ泊まりだったらいいの?」


『それならいいわよー。 でもゆづき、そのお宅……男の子じゃないわよね?』


「そ、そんなわけあるはずないじゃない」


『あはは、だよねー。 うん、わかった。 しっかり家政婦さんしておいでー』



 石井母との電話を終えた石井さんが、「ほら、加藤くん、いいって」とオレに笑みを向けてくる。



「いやいや、えええええ!?!? 泊まるの!?」


「うん、なんかそんな流れになっちゃったね」


「そんな軽く……石井さんはいいの!?」


「いいよ。 加藤くんは男の子だけど、乱暴なことはしてこないって信じてるし」


「ーー……んぐぐ」



 これは遠回しに、オレにチキンと言っているのだろうか。



 結局石井さんは今夜、うちに泊まることが決定。

 なんだかんだで買い物とかスムーズに済ませることができて助かったのだが……一緒に帰ってきた瞬間にドタバタが始まった。



「えー!! お兄ちゃんその人だれ……彼女さん!?」

「愛、それはない。 良樹にこんな美人、釣り合わない」


「あ、教会にいたマリアちゃんだ! 加藤くんの親戚だったんだね!」


「え、あっ……もしかしてあのお姉さん? あの時とは別人……マリア、びっくり」


『なんじゃ、騒々しい』


「みぃ、良樹が女、連れてきた」



「きゃあああああ!!!! 御白様ーーーー!!!!」



 なんでだろう、一人増えただけなのにその日の夕食はかなり盛り上がり、同性というのもあるのだろうか……愛ちゃんもマリアも、なんだかんだで石井さんに懐いたのだった。



「ゆづき、今日はマリアたちとお風呂入る」


「え、いいの?」


「構わない。 愛もマリアも歓迎。 ね、愛」

「うん!」


「じゃあ……お言葉に甘えよっかな。 私、弟いるんだけど、こうして妹とお風呂に入るの夢だったんだ」


「ゆづき、弟とお風呂、入る?」


「うん、たまね」


「おっきくなって、上向く?」


「え、なにが?」


「昨日、良樹が……」



「うわあああああああああああああああ!!!!!! やめろマリアああああああああ!!!!」



 ◆◇



 あ、そうそう、言い忘れてたぜ。

 実はあやめたちが旅立ってから杏さんに見送られるまでに、あの花屋の……読めなかった英単語の名前を聞いたんだ。

 

 店の名前は【Angraecum】……アングレカム。

 これも花の名前らしく、あやめの母親が花言葉に祈りを込めて付けたんだと。


 確かその花言葉が……



『いつまでも、あなたと一緒』



お読みいただきましてありがとうございます!!

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