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29 学校の怪談?⑤


 二十九話  学校の怪談?⑤



 翌日の昼休み、オレと石井さんは別々に教室を抜け出して旧校舎前で合流し、潜入。

 やはりあやめの家族の店・花屋の情報が置かれている場所といえば職員室ではないかという結論に至り、かつて職員室だった部屋へと向かった。



 ◆◇



「うわぁ……すごいね」

「マジか」



 かなり立て付けの悪くなったスライド式の扉を開くと、薄暗い室内に広がっていたのは埃の被った書類の山。

 そこまで重要ではないものは置かれていったのだろう……大量のそれらが机の上や床に散らばっており、一枚拾い上げて確認しただけで指先が黒く汚れる。



「ーー……ここから探すのか」

「頑張ろうよ、加藤くん!」

「だね」



 換気もまったく行われていないせいもあってか、心なしか空気が生臭い。

 オレは早く帰りたい一心で足下に散らばっていたプリントを手に取ると、あやめの家の連絡先らしき電話番号や住所が載っていないか、しらみつぶしに目を通していく。

 そして石井さんも、指が黒くなることなど御構い無しに、なんの躊躇もなく汚れたプリントにも手を伸ばしていた。



「えええ、石井さん……大丈夫なの?」


「何が?」


「いや何がって……その手だよ。 汚れるの嫌とかならないの?」


「うーーん、それはそれで仕方のないことかなって。 それにほら、洗ったら汚れは落ちるわけだし」


「それはそうだけど……」


「あ、もしかして加藤くん、私のこと女の子らしくないなーとか思っちゃった感じ?」


「え、ええええ!?!? なんでそうなるの!?」



 先ほどの石井さんの問いかけにオレは答えることは出来ず。

 だってそうだろ、仮に『いやいやそんなことないよ、石井さんは可愛いし女の子らしいよ』と答えたらオレは何様だってなるし、逆に冗談でも『あーうん、少しはそう思っちゃった』と答えたとしたらオレはただのクソ野郎だ。



「加藤くん?」


「ほ、ほら石井さん! 早くしないと昼休み終わっちゃう……頑張って探さないと」


「あー、逃げたー?」


「に、逃げてないよ!」



 結局昼休みの時間のみで見つけることは叶わず。

 放課後も続けて捜索することになり、オレたちは再び時間差で教室に戻ることにしたのだが、それは放課後……人が少なくなるのを待って旧校舎へと向かおうとしていた時のことだった。



『あの、いいかちら』



「「!!!」」



 オレと石井さんが正面玄関で上履きから革靴に履き替えていたところで、背後から女の人の声。 振り返るとそこにはあの愉快な仲間たちの一人……日本人形が浮いており、長さの不規則な黒髪をなびかせながら、優雅に石井さんの肩の上に降り立った。



「ひっ」



 今はオレが触れていないことから石井さんには視えいないはずなのだが……肩に降り立ったと同時、石井さんはそこでピタリと動きを止め、少しずつ顔を青ざめながら視線のみオレへと向けてくる。



「か、加藤……くん」


「ど、どうしたのかな」


「何か今肩に手を置かれてるような感覚がしてるんだけど……もしかして私、また誰かの恨みをかったりしちゃったのかな」



 あー、なるほど。 そっちの方向で考えちゃったわけか。

 オレは石井さんを安心させるために「大丈夫だよ」と声をかけ、少し躊躇しながらも手を握る。 すると石井さんにも彼女……日本人形の姿が視えたのか、あまりの近さに「きゃあああああっ!!」と驚きの声をあげながらその場で尻餅をついた。



 ーー……!!! ピンク色!!!



 手を握ってるからこその、この至近距離での展望……最高だぜ。

 オレが一箇所に視線を向けていることに気づいたのか石井さんはすぐにスカートの上から手を当てながら起き上がる。 その後顔を赤くしてオレに何かを言おうとしていたのだが、それよりも先に日本人形がオレたちの間に割って入ってきた。



『あのね、昨日は人体模型くんも金ちゃんも熱くなってて言えなかったんだけど……聞いてほしいことがあるのよ』



「うん?」

「聞いてほしいこと……ですか?」



 オレと石井さんは揃って顔を日本人形へ。

 日本人形はオレたちが耳を傾けようとしていることを確認すると、少し申し訳なさそうな表情でその小さな口を開いた。



『そのね、ワタチ……思うの。 旧校舎時代の先生方もまだいるんだから、その人たちにあやめちゃんの連絡先や情報を、聞いた方が早いんじゃないかちらって』



「「ーー……」」



 確かに冷静に考えてみればそうした方がかなり効率的……かつ正確じゃないか。

 日本人形の意見を聞いたオレと石井さんは無言のまま互いの顔を見合わせて失笑。 自分たちの思考力の低さをバカにしあいながら昔からいそうな学校関係者……ちょうど教頭が花壇に水を撒いていたのを発見したので聞いてみることにした。



「あの、教頭先生、少しいいですか」


「なんだね」


「教頭先生って前に歴が長い……みたいなことを仰ってましたよね」


「そうだな。 この校舎ができる前……あそこの旧校舎の時から勤めているからな」


「ーー……!」



 その言葉を聞いてオレと石井さんは勝利を確信。

「だったら……」と、あの件について尋ねた。



 ◆◇



『え、本当……? あやめのお家、分かったの?』



 昨日と同じ女子トイレ内。 オレたちからのしらせを聞いたあやめが目をキラキラと輝かせながら前のめりで尋ねてくる。



「うん……そうなんだけど、まだちゃんと帰れるかはわからないんだ」



 オレはあやめに、先ほど教頭から聞いた話をそのまま伝えることにした。



「実は、この近くを通るたびにあやめちゃんのお母さん……事故に遭ったあやめちゃんのことを思い出しちゃうらしくてね、あやめちゃんが亡くなってからはもうここには来ていない……お花を届けるのを辞めたらしいんだ」


『そうなの?』



 その後もオレは聞いたこと全てを伝える。


 あやめが事故に遭って少ししてから花屋の名前が元々【アイリス】だったものから、【アングレ……】難しいからあまり覚えてないけど、聞き慣れない英単語の名前に変わった……つまり花屋の関係者が変わってしまったかもしれないこと。 数年前に閉店し、今はもう営業していないこと。 もしかしたらお店にはもう誰もいないこと。


 それらを聞いたあやめはしばらくの間固まっていたのだが、オレが「それで……どうする?」と聞いてみたところ、あやめの答えは



『それでも、あやめは帰りたい』



 どんな状況になっていても受け入れることをオレたちに熱く語った結果、愉快な仲間たちの後押しもあり、オレと石井さんであやめを彼女の家・花屋へ……少し離れたところにあるのだが、連れて行くことになった。


 

「でもさ加藤くん、もし……もしもだよ? 行って誰もいなかったりしたらどうするの?」


「んー、その時はオレが除霊……するのもなんか違う気がするからね。 その時は御白にでも相談してみようか」


「御白様!? うん……うんっ! それ、いい考えだと思う!!」



 御白の名前を聞いだだけでこの反応か。

 完全に御白信者……今度また会話させてあげるのも、いいかもしれないな。



お読みいただきましてありがとうございます!!

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