27 学校の怪談?④
二十七話 学校の怪談?④
他にも旧校舎から一緒に逃げて来た幽霊仲間がいるとのこと。
その件を石井さんが詳しく尋ねようとしたところ、あやめはオレたちの後方を指差し、振り返ってみるとそこには日本人形や人体模型、金次郎像など、どこかで聞いたことがあるようなお化けたちが大集結していた。
「ーー……っ!!」
あまりにも唐突な登場に声を漏らしそうになるも、オレはそれを必死で我慢。
見た所襲ってくる気配もなさそうだったので強制除霊は打たずに全員の顔を観察していると、石井さんがポツリと一言。 「加藤くん、ごめんだけど、ちょっとここから出てってくれる?」とかなり気まずそうな表情をしながらオレをチラチラと見つめて来た。
「え、今?」
「うん」
「でもそしたら、流石に視えないとはいえ石井さん、怖くない?」
オレだけトイレの外に出ていろとはどういうこと……あやめと話そうにもオレが触れていないことには会話すら出来ないのに。
そんなことを考えていると、痺れを切らした石井さんはなぜか内股で……それもスカートの上から股のあたりを押さえながら、涙目で再び「お願い、ちょっとだけ出てて」と懇願してくる。
意味の分からなかったオレは「だからなんで?」と尋ねたのだが……
「ーー……ちゃったの」
石井さんが顔を赤らめ、目を反らしながら小さく口を開く。
「え、なんて?」
「だ、だから、びっくりしてちょっとだけ……本当にちょっとだけだけど、出ちゃったの!」
「ーー……」
ん、なんだ? びっくりしてちょっとだけ出た?
石井さんは一体何のことを言って……、
ハッ!!!!
石井さんの体勢を見てオレは先ほどの石井さんの言葉の意味をようやく理解。 内股になって股の上を押さえながら「出ちゃった」とか、答えは一つしか見当たらないよな!!!!
「え、もしかして石井さん、お漏……」
「言わないで。 お、お願い……分かったとは思うけど、流石に私も恥ずかしいから言わないで」
動揺から冷や汗でも垂れていたのか、石井さんのスカートの中から神秘的に光る雫が一滴。
何か新たな性癖……ゲフンゲフン、芸術的センスに目覚めそうだぜ。 色々と察したオレは腰を引きつつもトイレの外へ。 先ほどの綺麗な雫を思い出しながら、石井さんの「もういいよ」の言葉を待つことにした。
「それにしてもあれだな。 こんなにも静かだと些細な音も聞こえる……エロすぎるぜ」
◆◇
石井さんの許可が出たことでオレは再び女子トイレ内へ。
先ほどの失態がよほど恥ずかしかったのか、石井さんはグイグイとあやめや、その仲間に話しかけていた。
「ーー……てことは、あやめちゃん以外のみんなは別に旧校舎が潰れても問題ないってことであってるんですか?」
『そうだね』
『まぁあやめちゃんは……あそこが取り壊されちゃったら困るよね』
仲間たちが同情的な視線をあやめへと向けている。
これは何か理由がありそうだ。
しかしそれも全て石井さんがあやめに尋ねてくれていたため、オレはそんな二人の会話を静かに聞くことにする。
「みんなはあぁ言ってるけど……あやめちゃん、あの旧校舎が壊されたら困る理由って何があるのかな?」
『あっちの学校には、あやめの家の住所が載ってるものがあるはずだから……それがなくなったらあやめ、ずっとお家に帰れない』
「住所が載ってるもの……卒業文集?」
『そつぎょ……ぶん?』
使ったことも聞いたこともない単語だからなのか、あやめは首を傾げながら頭上にはてなマークを浮かばせる。 そしてオレもあまりの石井さんの天然的な思考に、思わず「いやいや石井さん、この子はまだ小学生高学年っぽいし、流石に高校の卒業生ってことはないでしょ」とツッコミを入れた。
「あ、ああ。 そうか、そうだよね。 あはは、ごめんなさい」
石井さんの照れ笑いに若干癒されながらも『住所が載ってるもの』が何だろうと考えていると、後ろから誰かがオレの肩を叩く。 振り返ってみると、そこには少し寂れて埃のかぶった人体模型。 飛び出ている目玉を潤ませながら顔を近づけて来ていた。
「うわわ!! びっくりした……な、なんだ?」
『お願いだ、あやめちゃんの家、探してあげてくれ』
続けて人体模型は石井さんの袖も引っ張り、同時に石井さんの「ひぃっ」というか細い声が静寂なトイレ内に響き渡る。
しかし人体模型はそんなことは気にしていない様子で言葉を続けた。
『その子は俺らと違って元は人間だったんだ』
「人間……うん、そうだよな」
『キミは詳しそうで助かるよ。 そう、俺たちは人の想念で作られたお化けの魂だから帰るべき場所……みたいなものはないんだけど、あやめちゃんには帰りたい家がある……力を貸して欲しいんだ』
「そ、それはオレに出来ることなら力になりたいけど……」
そう答えてみるとどうだろう。
その言葉を待っていましたと言わんばかりに人体模型は後方で立っていた金次郎像に目配せ。 金次郎像はその重たそうな胴で出来た身体を軽く浮かせて人体模型の隣へ。 『ここ、読んで』と持っていた古びた新聞の切れ端をオレたちに見せて来た。
「えーと、なになに」
金次郎が差していた箇所に目を通していく。
所々インクが滲んでいて読めない箇所があったのだが、そこにはこう書かれていた。
===
昨夜……日に、地元に通う小学五年生の女の子・小西あやめちゃん(十一歳)が……轢き逃げ……い、間も無く……亡が確認された。 犯……、酒気帯び運……
===
人体模型たちの補足で、あやめはこの高校の近くで事故に遭ったことが判明。
あやめが霊体になり高校内を泣きながら彷徨っていたところを、彼ら……人体模型や金次郎像たちと偶然出会い、そこで過ごすようになったという。
「なるほど、事故か」
事故と聞けば愛ちゃんの両親……桜井さん夫婦を思い出して、複雑な気持ちになっちゃうな。
両親を失った愛ちゃんも気の毒なのだが、あやめのように子供を失った両親のショックもかなりのものだろう……そんなことを考えていると、石井さんが何かに気づいたのか「えっと、ちょっといいですか?」と小さく挙手。 「近くでその、亡くなったんだったら家も近くなんじゃないんですか?」と尋ねると、人体模型と金次郎像は顔を見合わせ……『あぁ、そうだ。 言い忘れていたことがあったよ』と新たな情報を口にした。
『実はあやめちゃんの家はお花屋さんでね、ここの高校の行事があるたびにお花を届けてくれていたんだ』
「え、なんでそれを知ってるんですか?」
『僕はそう、今こそもう撤去されたから置かれていないんだけど、昔はかの有名な像として学校前で皆を見ていたからね。 それにそのお花、僕の隣に飾られていたんだ』
どうやらあやめが幼稚園に上がるまではその母親と二人で花を届けに来ていたようで、銅像として置かれていた金次郎像はそのことをよく覚えているとのこと。 事故に遭ったあやめが彷徨っている時に『もしかしてだけど……あやめちゃん?』と声をかけたのも金次郎像だったらしい。
「でもさ、お花屋さんって言ってもいっぱいあるだろ? それをオレらにどう探せと」
『多分なんだけどさ、あの旧校舎のどこかにあやめちゃんの花屋さんに連絡するための何かがあると思うんだ』
「え」
『だってそうだろ? 行事の度に来てたんだから』
「ーー……確かに」
その後も色々尋ねようとしていたのだが、いつの間にかかなりの時間が経っていたようで、部活終了の合図……完全下校時刻のチャイムが鳴り響く。
「とりあえずじゃあ……まぁ明日の昼休みにでも旧校舎行って探してみるよ」
『ありがとう。 あそこには霊を消そうとするヤバいやつがいるから僕たちは近づけないけど……よろしく頼むよ』
「え、あ、あぁ。 任せろ。 ね、石井さん」
「ーー……」
石井さんに視線を向けると、石井さんの向けていた視線の先は、目の前のお化けたちではなく人体模型の下半身部分。 やはり石井さんも女子。 異性の色々とか気になるんだろうけど……
「石井さん?」
「え、あ、ごめんなさい。 なに?」
「ーー……どうしたの?」
「あ、いや。 少し前の加藤くんを思い出してて」
「オレ?」
「うん。 あれがおっきくなるだって考え……って、ああああああ!! 何を言ってるんだろ私! ご、ごめんなさい、忘れて!!!」
心の声を素直に口から出すとはなんという純粋さ!!!
石井さんは何を言おうとしていたのだろうか。
かなり気まずかったのだろう、石井さんは校門を出るなり「じゃ、じゃあ加藤くん、またね!」と目線を泳がせながら空元気な状態で走り去ってしまったのだった。
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