26 学校の怪談?③【挿絵有】
二十六話 学校の怪談?③
いろんな意味で落ち着きを取り戻したオレは、昨日とは比べものにならないくらいの魅力を放っている石井さんとともに教室へ。
やはり一時間以上も経つと皆帰っていて誰も残っていない。 そして同じように扉前に立っていたあの少女の霊も、どこかへ行ってしまったのか、どこにも見当たらなかった。
「加藤くん、いる?」
「ううん、もういないみたい」
「そうなの?」
石井さんがオレの手を握りながら周囲を見渡し始める。
「ひょほあ!!」
「ひょほあ? ーー……え、どうしたの加藤くん」
「え」
だ、ダメだ。
人とあまり関わってこなかったオレが女の子に触れられることに慣れているはずがない。
突然触れられたらそりゃあ声も出ちゃうだろ。
オレが固まったまま目を泳がせていると、石井さんが「あ、もしかして加藤くん、いきなり私が触っちゃったからビックリしちゃった? ごめんね」と慌てて手を離す。
「あー、いや、うん。 ほら、あまりオレって誰とも接してこなかったから……こっちこそ変な声出しちゃってごめん」
「じゃあ今度は改めて……触るね」
「は、はい」
うわああああああ!!! 宣言されてからでも、それはそれで恥ずかしいぞおおおおおおお!!!!!
オレは再び手に石井さんの体温や肌の柔らかさ、瑞々(みずみず)しさを感じながら石井さん先導のもと捜索を開始。
しかし教室内はもちろんのこと、隣のクラスにも近くの階段にもおらず、そろそろ諦めようかという雰囲気になりつつあった……その時だった。
「加藤くん、最後にあと一箇所だけ……いい?」
石井さんが振り返りながら反対の手で人差し指を立てながらお願いをしてくる。
「一箇所? いいけど……もう探すところなくない?」
「ううん、まだ一つあるの」
「そっか。 じゃあそこ見ていなかったら諦めようね」
「うん、ありがと」
本当ならもうちょっと付き合ってあげてもいいところなのだが、正直このままではオレの精神がもたない。
石井さんと手を繋げることは非常に嬉しいし幸せなことだ。 しかし石井さんも今は霊が視えるということ、それすなわち悪霊や低級霊たちの姿も視えるということ……実はさっきからオレは石井さんが見つけるよりも先に、悪霊たちを見つけては強制除霊を打ち込んで消していたのだ。
「じゃあ、こっち」
「はい」
オレの気遣いなど全く知らない石井さんはどこに行きたいのかはわからないが一つの方向へと向かってまっすぐに歩き出す。
そして行き着いた先……予想もしていなかった場所に、オレの口から思わず声が漏れた。
【女子トイレ】
「ーー……え、女子トイレ?」
「うん、女子トイレ」
「えええええええええええ!?!?!?」
まさかとは思いオレも入るのか確認してみると、石井さんは当たり前かのように首を縦に。「大丈夫。 覗くわけでもないし誰もいないんだから」と半ば強引にオレの手を引っ張りながら女子トイレへと入っていく。
「ええええ!?!? ほ、本当に!?」
「加藤くん、静かにしてないと誰か来るかもよ」
「!!!」
これはそう、不可抗力で仕方のないことなんだ。
とはいえ女子トイレに少なからず興味はある。 オレは石井さんに引っ張られながら、その禁断の聖域へと足を踏み入れた。
◆◇
女子トイレ内に入ってすぐに感じたのは男子トイレとの格差。
まず壁や床が男子トイレのそれとは違いかなり綺麗で、男子トイレとは無縁などこかフローラルな香りがオレの嗅覚を刺激してくる。
なんでこんなにいい香りが……芳香剤とかそういう類のやつでも置いてるのか?
疑問に思い見渡してみるも、そういったものは見当たらない。
このフローラルは一体なんなんだ……オレが集中してその香りを嗅いでいると、ふと石井さんと目が合った。
「えっち」
「なっ……!!!」
確かに考えてみればそうだよな。
男子禁制……女子限定の空間で男のオレが熱心のそこの空気を吸っていれば、女子側からしたらかなり変態に映っているのも仕方ない。
「いや、ちょっ……ちがっ!!」
ここで素直に謝ってしまえば、オレは自分が変態だということを認めてしまうということになるぞ。
オレはそれを避けるために必死に脳を回転させて言い訳を考える。 しかし運のいいこと……なのだろうか。 石井さんの興味はオレは変態かどうかよりもあの女の子の霊らしく、「さて、じゃあちゃっちゃと調べていこっか」と手前の個室扉から順に開けて確認を開始。
そしてそれは最後……一番奥の個室扉を空けた時に起こった。
「あ」
石井さんが声を漏らしたので後ろから覗き込むと、そこには一時間前に教室の扉で立っていた女の子の霊の姿。
便座に座りながらこちらを見上げている。
オレたちが揃って視線を向けていることに気付いたのだろう。
女の子はオレたちに『視えるの?』と首を傾げながら尋ね、それに対して石井さんも少しは恐怖心があるのだろうな。 繋いでいたオレの手を少し強く握りしめながら、そんな恐れる様子を見せずに「うん、視えるよ」と優しく答えた。
『ほんと? ほんとに視えるの?』
「うん。 お名前……言えるかな」
『あやめ。 小西あやめ』
「あやめちゃん……って呼んでいい?」
『うん』
石井さんの言葉に嬉しそうに返事をする女の子……あやめ。
石井さんはあやめが普通の霊だと知って安心したのか、「よかった。 じゃあほんとにトイレの花子さんじゃなかったんだね」とホッと胸を撫で下ろす。
『トイレの花子さん?』
「うん。 あやめちゃんのことをちょっと前に見つけた子がね、トイレの花子さんだって言ってたから……って言ってもあやめちゃん、分からないよね」
『ううん、知ってるよ』
「え」
『あっちの学校では私、そう呼ばれてたもん』
「「え」」
オレと石井さんの声が重なる。
その後石井さんが大きく瞬きをしながらオレに視線を移してきたので、もしかしたら可愛い見た目をしただけの悪霊の可能性もある……ここからはオレが石井さんと前後を交代。 強制除霊をいつでも打てる体勢をとりながら女の子……あやめに詳しく話を聞いてみることにした。
「えーと、ごめんね。 オレは加藤良樹よろしく」
『あやめ……です』
「早速なんだけどさ、あっちの学校ってどこのことかな」
そう尋ねるとあやめはその方向を指差す。
確かその先にあるのは……旧校舎だよな。 オレが窓を開けて確認していると、石井さんが「何かあるの?」と繋いでいた手を軽く引っ張ってきた。
「帰りにホームルームで先生が言ってたの覚えてるかな。 あやめちゃんが指差した先って旧校舎があるんだよ」
「え、言ってた?」
「うん。 ほら、近々取り壊すから近づかないでって……あ、聞いてなかったやつ?」
「う、うん。 今日一日でいっぱい友達とか出来て嬉しくて……」
「あー……」
ぐはぁっ! いまオレの心に巨大なナイフが刺さったぜ……!
「ん? どうしたの加藤くん……顔色悪いよ?」
「あ、あははは。 気にしないで、うん」
オレが明らかにテンションを落としながら誤魔化して答えているとあやめが『え、そうなの? 壊されるの?』と驚いた顔でオレと石井さんに尋ねてくる。
「あ、うん。 らしいよ」
『いつ?』
「いつだろうね。 近いうち……としかオレたちも聞いてないから」
『そっか』
どうやらあやめ曰く、昨日まではあの旧校舎にいたらしいのだが今日の昼休みくらいからこちらに移動してきたとのこと。
なんでも仲間の霊に『やばいのが来たから避難するぞ』と言われ半ば強引に連れてこられたらしく……
「やばいのが来た?」
『うん。 あやめはちゃんと見てなかったんだけど、私たちみたいな幽霊をすぐに倒しちゃうような怖い人が来たから、消されないようにって』
「そうなんだ。 そんな怖い人いるんだね、加藤くん」
「ーー……」
やばい。 心当たりがあるから多分オレのことだ。
でもあれだぞ、あの時オレが強制除霊したやつって乗り移ろうとしてきた悪霊くらいで、他の奴らは別に近づいてこなかったから手は出していないんだが。
とはいえ、ここでオレがあやめに「あー、それオレのことかもね、あははは」なんて言ってしまっては怖がらせてしまいかねない。
しかしあやめって子がまだ完全に害がないとは確定したわけではなかったため、オレはどうやってこの子の白を確定させようかと考えれいたのだが、ここで先ほどのあやめの言葉に違和感を覚えたのだろう。 石井さんが「あれ、ちょっとごめん」と手を挙げた。
「どうしたの石井さん」
「あ、うん。 加藤くんは普通に流しちゃってたから止めちゃったんだけど、さっきあやめちゃん、『仲間の霊に連れられて避難してきた』って言ってたよね」
「あー、言ってたね」
「その仲間の霊ってどこにいるの?」
そう言いながら石井さんが首を傾げていると、あやめが『そこだよ』とオレたちの後方を指差す。
「「え」」
振り返り確認してみるとあやめの視線の先……そこにはなんというオールスターズ。
先ほど確認した時には誰もいなかった反対側の個室から、人体模型や日本人形、金次郎像……その他大勢のどこかで見たことや聞いたことのあるようなお化けたちが勢揃いしていたのだった。
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