21 あの子と狐③【挿絵有】
二十一話 あの子と狐③
オレが触れたことにより霊が……自らに憑いた狐の霊をその視界に捉えることができた石井さん。
石井さんはゆっくり視線をオレへと移すと「え、なんで私……視えてるの?」と混乱した様子で尋ねてきた。
「えっとね、これも内緒にして欲しいんだけど、オレに触れてる間はオレの力……霊力みたいなのが流れてその間は例え霊感がゼロの人でも視えるようになるらしいんだよね」
「そうなんだ……す、すごい」
石井さんは納得したように小さく頷いて再び視界を狐の方へ。
「あ、あの……狐さん」と耳だけ出している狐に声をかけた。
「その……えと、あなたに謝りたいことがあって」
石井さんの声に狐の耳がピクリと反応。
話を聞こうとしてくれたのか、狐は影からピョンと飛び出すと石井さんを見上げながら彼女の目の前へ。 石井さんはそんな狐に対し「あの時は……ボールで石像を壊しちゃって、謝るのとか遅くなって本当にごめんなさい!」と深く頭を下げた。
さて、狐の反応やいかに。
石井さんが許してもらったならオレもそのついでに許してもらおう。
そんなことを考えていると狐は石井さんを見上げたまま『コン』と短く鳴き、その背にあった神社の方へと駆けていく。 しかしまだ終わってはいないようだな。 狐は度々こちらを振り返りながら途中で立ち止まっているため、これはついてこいと言っているのかもしれない。
「加藤くん……許してくれたのかな」
「んーー、いや、オレにはついてこいって言ってるような気がするけど」
試しに狐の方へ数歩進んでみると、狐は石垣にピョンと飛び乗り再びオレたちの動きを伺っている。
「やっぱりそうだ。 ついてきてほしいやつだ」
「え、なんで……」
「分からないけど……行った先に何かあるんだと思うよ」
まだ石井さんも許されたことが確定してるわけじゃないし、オレもまだ謝れていないんだ。
オレは石井さんの手を引きながらその後を追った。
◆◇
石でできた鳥居をくぐって参道を進む。
その途中で石井さんが「あそこ、昔はあそこにさっき話した石像があったの」と今は何もない空きスペースを指差した。
「そうなんだね。 でもあの狐、そんなの気にしない感じで通り過ぎて階段上ってるね」
「うん。 もしかして本殿の方に石像が置いてるのかな」
「いやそれはさすがに」
「なんで?」
「ーー……」
無くなった石像について話していると、階段を上りきった先で狐がオレたちを見下ろしながら『コン』と鳴く。
早く来いと言っているのだろう、オレたちは会話を途中で中断して少し早めのペースで階段を上っていった。
「加藤くん、大丈夫?」
「ゼェ……ゼェ……、だ、大丈夫……普段運動してないからその影響かも」
上っている途中でオレと石井さんの前後の位置が交代。
情けないことだがオレが石井さんに引っ張られるような形で階段を上り終えると、階段の上にはもう一つ赤い鳥居があり、その奥にはお参りをする拝殿。 狐は拝殿前に設置された賽銭箱の隣で座り込み、拝殿の扉をじっと見上げていた。
「あの扉の奥に石像があるのかな?」
「いや……さっきの続きにもなるんだけど、流石にそれだったら今の神主さんも知ってると思うよ」
「え、あっ……そっか」
石井さんの天然具合に若干癒されながらもオレたちはようやく狐の近く……賽銭箱前へ。
狐の向けていた先に視線を向けると、先ほどまで吹いていた風がピタッと止み、扉の奥から『ようやく来たか』と女の子の声が聞こえてきた。
「「!!」」
オレと石井さんが声を察知したと同時。
気づけば数秒前まで誰もいなかったはずの賽銭箱の上、白装束を纏った幼女がそこに座っている。
「か、加藤くん……あれ!」
「ーー……」
身長は愛ちゃんやマリアよりも少し小さく、暗めの金髪ボブカット。 頭からは狐の耳が生えていて目は赤くツリ目気味。
ピンク色の扇子で自らを扇いでいたその幼女は、驚いているオレたちを見るなり嬉しそうに微笑んだ。
「え、あっ……え、え?」
初めての体験だもんな無理もない。
石井さんは驚きのあまり声が出なくなったようなので代わりにオレが話を進めてみることにする。
「あっと……すみません、あなたは?」
『妾か。 妾はこの神社に祀られておる神……御白よ』
おいおいおい、ここの主のお出ましだぜ。
幼女……御白は自身の名を伝えると今度はオレたちを交互に見る。
「ああ、すみません。 オレは加藤良樹っていいます。 そして……」
流石に自己紹介は自身の声で言った方が印象がいいだろう。
オレが石井さんの手を軽く引っ張ると、石井さんは声を裏返しながら「い、石井ゆづきです!!」と頭を下げた。
「石井さん、この幼女……ゲフンゲフン、この御白さんがここの神様ってことは今聞いてたよね」
「うん」
「だったらちょうどいい……笑ってて機嫌良さそうだし、もう一回ここで謝ってみたら?」
「あ、そ、そうだね……!」
石井さんは当初の目的を思い出し、この神社……御白神社の神・御白に謝罪の言葉を伝えた。
「あの、私数年前にこの神社の石像を壊してしまって、でも謝りに来れなくて……本当にすみませんでした!!!」
しかしそれに対する御白の反応は結構ライトなもの。
神・御白は『あー、あれか。 気にするな』と本当に全く気にしている様子もなく軽快に笑う。
「え」
『あれは仕方ないこと……そのくらい脆くなってたということじゃ。 現にほれ、今はもう無くなっとるじゃろ?』
「で、でも」
『前の神主はそれを見つけたとき、「助かった」っと漏らしておったぞ? もしあれが時期がずれて夏祭りや初詣のときに崩れたなら参事……怪我人が出ておったやもしれぬからな』
御白の言葉からして嘘をついているようにも見えない。
だからこそオレと石井さんの中では疑問点が生じる。
じゃあ何故、狐を憑けた?
石井さんは石像を壊した罪の意識からかそのことについて言及しようとはしなかったためオレが代わりに尋ねてみると、御白は『ふむ』と声を漏らして顔をあげ、石井さんの頭の少し上あたりを扇子で指す。
『それはほれ、このためじゃ』
「「?」」
オレと石井さんが御白の指した先に視線を向けるも何も見えない。
『なんじゃ? お主ら……特に男の方は視えるのではないのか?』
御白は『仕方ないのう』と小さくため息をつくと、扇子を畳んでそれをまるでダーツのように先ほど指した箇所へとヒュンと投げる。
すると……何が起こっているんだ?
石井さんの頭上に投げられたそれは突然何かに当たったかのように弾き返されて御白の手元へ。
しばらくするとそこに黒い雲のようなものが出現し、ものすごい勢いで膨らんでいく。
「か、加藤くん……あれなに!?」
「分からない……オレもこんなの見たことないぞ」
オレはあまりの光景に思わず手を離してしまい尻餅をつく。
大きく膨れ上がったそれからはかなり邪悪な気配が立ち込めていて、そこからはもはや人ではない顔のようなものやら、物体やらが出現……その全てが石井さんに憎しみの視線を向けており、今にも石井さんの体を飲み込もうとしていた。
「ちょっ……やば!! 石井さん!!!」
慌てて起き上がり手を掴むも、御白が『安心せい。 まだ妾の力が働いておる故、奴らはまだ彼女……ゆづきをどうにかすることは出来ぬ』と余裕の笑みを見せてくる。
「え」
御白は再び扇子の先を黒い塊に向けながら『とりあえず、そこから聞こえてくる声に耳を傾けてみよ』と続けた。
ーー……声?
耳を澄ましてみると、石井さんを飲み込もうとしている奴らから何かが聞こえてくる。
『妬ましい』
『消えろ』
『許せない』
そこから聞こえてきたのは負の感情。
怒声や泣き声、様々なマイナスの気持ちの込められた声が塊の中で木霊している。
「み、御白様。 これは一体……」
『それはお主……ゆづきに向けられた生き霊たちの集合体じゃ』
「生き霊?」
自身へと向けられた憎悪の視線・感情に怯えながらも石井さんが御白に尋ねる。
『そうじゃな。 生き霊とはすなわち生きている人間から飛ばされた強い想い……念じゃ』
「強い想い……」
『うむ。 ほれ、よくあるじゃろ? 嫌な思いをして「あんなやつ不幸になればいい」と思ったことが。 そういう気持ちが強ければ強いほど生き霊を生み出しやすく、同時にそれは強さを増し、その対象を本当に不幸に陥れるべく動くのじゃ』
「そ、そんな……」
反応に困ったのか石井さんがオレに視線を向けてくる。
「え、石井さん……過去にヤンキーだったとか人をイジめてたとか……そんな感じだったの?」
「ち、違うよ!! 私そんなことしてない……酷いことをしたとか、心当たりないもん!!」
「いやオレに力説しても……」
まぁでも確かに弟と遊んであげてるような子が、そんな悪いことをしていたとは到底考えられない。
オレは「そう言ってますけど」と御白にパス。 すると御白は『なら、しばし待て』と目を閉じ耳を澄ましだし、『なるほどな』と頷いた。
『ゆづき、お主に向けられたこの数多の憎悪……ほとんど、いや全てが色恋に関するものじゃな』
ーー……え。
お読みいただきましてありがとうございます!!!
挿絵2枚!! 素晴らしい!!
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