02 少女×妹=勝ち組な未来……のはずが!?②
二話 少女×妹=勝ち組な未来……のはずが!?②
どうやら母さんの大学時代の親友・桜井夫婦が事故に遭ったことで、その娘・愛ちゃんが一時的にオレの家で保護されることになったらしい。
両親が二人とも入院してたらそりゃあ不安だよな。
そのことを知ってからオレは一旦オレの欲望……妹と体験したい様々なアレコレを我慢して、愛ちゃんを少しでも楽しませ、ほんの少しでも暗い気持ちを忘れさせてあげようと専念することを決意。
今までの引きこもりな性格が功を奏したのか漫画やアニメといった子供が好きそうなアイテムは各種取り揃えていたため、オレは事あるごとにそれらを引っ張り出しては愛ちゃんと共にそれらで楽しむ。
「見て愛ちゃん、このゲーム、最近始まったアニメのラブカツのやつなんだけど知ってる?」
「知ってる……ゲームが出たってテレビで見た」
「おお、それは丁度いいね! 一緒にやらない?」
「いいの?」
「もちろん」
「でもお兄ちゃん、なんで高校生なのにラブカツ持ってるの?」
「ーー……そこはほら、好きだからだよ」
こんな感じで愛ちゃんも少しずつではあるが、オレとの会話が増えてきたのだった。
そしてようやく愛ちゃんからも話しかけて貰えるようになり……
「お兄ちゃん、みて、ハムロック描けた」
オレが苦痛の学校から帰宅すると、明らかに当初よりも表情が明るくなった愛ちゃんが色鉛筆で描いたイラストを持って玄関まで出迎えてくる。
オレはそんな愛ちゃんの可愛さにキュンとしながらも、差し出された絵を受け取り視線を向けた。
「おお、上手い……!」
「そう?」
「うん。 上手すぎてオレが貰いたいくらいだよ」
「じゃあ、あげる」
「いいの!? ありがとう!!!」
無理だと思いながらも頼んでみたけど、案外言ってみるものだな。
妹に貰った絵……今まで貰ったどのプレゼントよりも嬉しいかもしれない。
「この絵、宝物にするよ!!」
オレはすぐにインターネットで額縁を購入。 いつでも部屋の中で視界に入るよう、ベッド近くの壁に飾ることを決めた。
◆◇
あれから数日が経った今、オレの隣ではテレビ画面に映る映像に集中している愛ちゃん。
アニメの世界に入り込んでいる間は特に両親のことを一瞬でも忘れられるんだろうな。 いつしか家にいるときは、こうしてオレの隣でアニメを観るようになったんだ。
「あ、ちょっとごめんね愛ちゃん。 少し席外すね」
「え、なんで……?」
「いやトイレに行きたくてさ。 本当ごめん、すぐ戻ってくるから……」
オレが謝りながら席を立つと、愛ちゃんが寂しそうな表情でオレを見上げてくる。
「お兄ちゃん……」
「ん?」
「い、行かないで」
はい、行きませーーーーん!!!!!!
オレは「あ、うん」と微笑むと尿意を気合いで押さえ込んで再び愛ちゃんの隣に腰掛ける。
ちくしょう!!! 可愛い!!! 可愛いは正義すぎて、どうにかなっちまいそうだぜ!!!!
オレはキッチンから送られてくる母親の冷たい視線を無視しながら、愛ちゃんとの癒しの時間を思う存分堪能していく。
「愛ちゃん、次は何観る?」
「じゃんじゃかハムロックがいいな」
「愛ちゃん本当ハムロック好きだね。 分かった! じゃあその初代劇場版のDVDあるから、それ観よっか!」
「うん、ありがと、お兄ちゃん」
オレの方がアリガトウゴザイマスーーーーー!!!!!
◆◇
更に数日が経ち、愛ちゃんがかなりウチに慣れてきた日の夕方。
まさか……とは思ってたんだけどな。
「もうすぐ週末か。 愛ちゃんもたまに……だけど笑顔でオレと話してくれるようになったし、どこか遊びに行かないか誘ってみようかな。 たまには外に出た方が愛ちゃんも開放的になれて楽しめるかもしれないし」
愛ちゃんとのデート風景を妄想しながらスマートフォンで周辺の娯楽施設を検索していると、一体何事だろうか。 夕飯の買い出しに出ていた母親が血相を変えて帰ってきた。
「よ、良樹!! 愛ちゃん……愛ちゃんどこいる!?」
なんだなんだ、忙しねぇな。
オレはそんな冷静さの欠いた母親のテンションに軽く引きながらも、「愛ちゃんだったらそこで寝てるけど」と近くのソファーを指差す。
すると母親は、一切落ち着きを取り戻さないまま愛ちゃんのもとへと駆け寄り、体を細かく揺らしながら起こしはじめた。
「愛ちゃん、愛ちゃん起きて!!」
「んっ……、おばちゃ……ん?」
遊び疲れて寝落ちしていた愛ちゃんが、重たい瞼を僅かに開けながら母親を見上げる。
「ほら起きて!! おばちゃんと一緒に病院行こ!」
「ーー……え、パパとママのところ、朝行ったのにまた行っていいの?」
お、これはもしかして『病院でさっき目を覚ましたから早く行こう』とか……そういう朗報的なやつじゃないのか!?
短期間とは言えオレは愛ちゃんの兄として接してきたからな。 その両親に挨拶するというのは当然のことだろう。
オレはすぐに立ち上がり母親に「オレも行く!」と立候補したのだが、母親は何故か「あんたは来なくていい!」と即答。 理由を尋ねてみたところ、その内容は酷く残酷なものだった。
「さっきお医者さんから電話が来て……桜井さんたちの容態が悪化して危険な状態らしいの。 だからもしかしたら今日はお母さんたち帰ってこられないかも。 あんたは明日も学校なんだし、家にいなさい」
え。
◆◇
母親は思考の止まった愛ちゃんを抱きかかえてすぐさま病院へ。
先に言われていた通り、二人は夜になっても帰ってこず……帰宅してきたのは夜の十一時。 しかしそれも一時的なもので、桜井さん夫婦の緊急手術に時間を要しているため、一旦愛ちゃんだけ寝かせにきたという理由でだけだった。
「えええ、近くにいさせてあげなくていいの?」
「うん。 ずっと待たせているのも苦だからってお医者さんも。 それに愛ちゃんも目が覚めた時に良樹がいた方が安心するでしょ? また何かあったら報告して迎えにくるから」
それだけ伝え終えると母親は再び車に乗って病院へ。
オレはソファーに寝かせた愛ちゃんをしばらくの間じっと見つめていたのだが……
「あああああ!!! モヤモヤする……もう我慢ならん!!!」
オレはすぐに窓を開けて顔を出し、「今日だけ許す! 入ってこい!」と小さく叫ぶ。
するとオレの声に反応した複数の浮遊霊たちが一斉に集結。 一気にリビングの中へとなだれ込んできた。
『おおおおお!!! 久しぶりの良樹の家……懐かしいぜーー!!!』
『そうだな! 家の中ではプライベートを楽しみたいからって進入禁止令でたんだもんな!』
『ほんとだよ! それを破った者は関係なく強制除霊……、なのにまさか許可が出る日が来るなんて!! ちょっと湿気が足りないけど室内最高ーー!!!』
そう、こいつらは前にも言った気もするが、一切害のない浮遊霊。
悪くいうとまだ現世を楽しみたいワガママな奴らで、良く言うと孤独なオレの唯一の話し相手……肉体を持たない友達という存在だ。
なぜこいつらがオレの家に入って来ないのかはさっき勝手に話してくれてたから説明は省くとして、オレは早速本題へと移ることにした。
「今夜皆を招き入れたのは他でもない。 お願いがあって呼んだんだ」
『『『お願い???』』』
浮遊霊たちの頭上にはてなマークが出現。
全員が揃って首を傾げる。
「あぁ。 実はここに寝てる女の子……愛ちゃんっていうんだけど、この子の親が今入院してて、危険な状態らしいんだ」
『あーそのことな。 知ってるぜ。 良樹の母ちゃんとその子、よく一緒に病院行ってたもんな』
「知ってたのか」
『暇だからな。 もちろんさっきも一緒について行ってたぜ。 夜道は飲酒運転とかいて危険……俺みたいな被害者を増やしたくないんだよ。 何かあったら車を勝手に動かせてもらってでも助けようって考えてたんだ』
「お……おっちゃん!!」
本来ならばもっと感謝したいところなのだが、それはまた今度……今は愛ちゃんだ。
愛ちゃんの親のことを知ってるのなら説明も短くて済む。 オレは簡潔に説明を終えると桜井さん夫婦の様子を逐一報告してほしいことを浮遊霊たちにお願い。 それを聞いた浮遊霊たちは『よっしゃ任せろ!』と一斉に窓から飛び出して行った。
『良樹!! 先に寝落ちすんなよ!?』
「わかってる。 また後日お礼に何かお供えするよ。 何がいい?」
『マジかあああああ!!! だったらお水と……ピザをくれ!! みんなで久々に楽しみたいなって思ってたんだ!!』
「おっけ。 じゃあこんな時間だけど頼むよ」
『任せろおおお!!! こんな時間っていうよりも、むしろこれからが俺たちの時間だぜええええええ!!!』
それからオレのもとには浮遊霊たちから『今は旦那さんの方が苦戦してる』やら『奥さんの方、ずっと機会がピーピー鳴ってる』等の報告がひっきりなしに届くように。
しかし朗報めいたものは何一つ来ず、オレの不安だけが大きく膨らんでいく。
「ま、まだ大丈夫なんだよな?」
『そうだなー。 でも危険な状態ってのは本当にその通りだ。 お医者さんや看護師さんたちも頑張ってるけど、保つかどうか……』
「マジか……」
『まぁでも助かる可能性があるだけ良いって思っとけよな! 俺の場合は即死……助かるために必要な肉体すら無くなってたんだから』
「そ、そうだったな。 ごめん」
『いいってことよ。 つまりは希望を捨てるなってことだ。 そんじゃ、またちょっくら見に行ってくるわ』
「ありがとう」
そして午前2時を迎えた頃、一番来てほしくなかった報せがオレのもとへと届いた。
『良樹くん』
「ん?」
突然かしこまった呼び方をされ、オレが窓の方を振り返るとそこには二人の男女の姿。
こんな浮遊霊今までいたっけか……? 頭の中で思い返していると、その二人の後ろから見慣れた浮遊霊が浮かない表情で顔を覗かせてくる。
『あのさ良樹……』
「あー、びっくりした。 なんでお前後ろに隠れてんだよ。 ていうかこの二人は一体誰……こんな見た目のやつ、今までいたか?」
オレの問いかけに浮遊霊は力なく首を左右に振る。
「え、じゃあなんで連れてきたんだ?」
『そ、それはだな……』
浮遊霊は目の前の二人の霊と顔を合わして小さく頷きあう。
その後浮遊霊が口にした発言にオレは我が耳を疑った。
『実はこの二人……桜井さんなんだ』
ーー……。
言っている言葉の意味が一瞬理解できず、オレの脳がフリーズする。
「は?」
『だから、あの夫婦がさっき一緒に亡くなって……そこの娘ちゃんに会いたがってたから連れてきたんだよ』
「え」
浮遊霊が説明を終えるとほぼ同時。
母親からの着信でスマートフォンがけたたましく鳴り響いた。




