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魔法人  作者: ケシゴム
序章
8/69

不幸せのクローバー

 放課後の校内は、部活へ向け準備をする者や、予習、または特に目的も無く溜まり場として利用する生徒たちの緩やかな時間が流れていた。


「分かった。ありがとうね。後は私が話すから鈴木さん達は練習の準備して」

「……分かりました」

 

 舞が六時限目を早退した事を知っている順子達だったが、「必ず行く」という言葉を信じる三人は、部長である佐藤へ舞からのメッセージを伝えた。


「安心して。別に私は新垣さんを説教するために呼んでもらったわけじゃないから」

「……はい」


 佐藤は、三人が舞をリーダー的に慕っていることに気付いていた。そして舞が持つ人を惹き付ける明るさを高く評価し、彼女ならいずれ頼りない二年生を引っ張り、この部をもっと良いものへ変えてくれると期待していた。

 その為佐藤は特に舞を気に掛け、愛情を持って接していた。そんな佐藤だからこそ、三人が暗い表情を見せる姿に納得していた。


「鈴木さん達だって新垣さんが戻って来てくれた方が良いでしょう?」

「はい」

 

 それを聞くと佐藤は優しい笑みを見せた。


「なら心配しないで。私は嫌われちゃってるけど、鈴木さん達の為だって知ったら必ず新垣さんは戻って来るから。そしたら今度は鈴木さん達が新垣さんを支えて上げて。新垣さんは音楽のセンスもあるし後輩にも慕われる人だから、きっと良い部にしてくれるから」

「で、でも部長……舞、最近悩みでもあるみたいで、機嫌が悪いんです。だ、だから……」

「分かってるって。新垣さんああ見えて人に気を遣う性格だから、まだ新しい環境に慣れてないだけよ。でも優しい人なんでしょ?」

「……はい」

「なら新垣さんは必ず戻って来るから安心して。部長として最後くらいはそれくらいしてみせるから」

「はい」


 今年もおそらく予選落ち。三年間少しでも母校へ恩返しがしたくて頑張って来た佐藤だったが、その願いは叶わない事くらいは承知していた。だからこそせめて最後くらいは希望を残したいと舞へ想いを寄せていた。


「じゃあ分かったら練習に行って」

「分かりました。ありがとう御座います部長」


 舞がいなくなってから内向的な三人は何処か暗い顔をずっとしていた。その三人が見せた安堵したような表情に、佐藤は改めて舞が慕われていると分かると力が入った。


 今年入ったばかりの一年生だが、佐藤は舞を説得する事に緊張していた。それほど佐藤の中ではブラスバンド部での舞の存在は大きく、頼もしかった。その舞とこれから相対すると思うと心臓が高鳴り、心を落ち着かせるよう佐藤は静かに待った。


 ――しばらく廊下からの穏やかな音に耳を澄ませていると、時計の針は練習時間のすぐそこまで迫っていた。それでも舞を信じる佐藤は、ギリギリまで腰を上げようとはしなかった。


 “ガラガラ”


 そんな中だった。迫る時間に焦りを感じスマホの時計ばかりに気を取られていると、突然扉が開く音が聞こえた。

 これには佐藤もやっと舞が到着したと嬉々として顔を上げた。すると扉は開き廊下の音がよりクリアに聞こえるにも関わらずそこには誰の姿も無かった。


 不思議に思った佐藤は扉から顔を出し廊下を覗いた。しかし廊下のあちこちに人影は見える物の部室の近くには誰もおらず首を傾げるしかなかった。ただ視線を落とすと何故かそこに四つ葉のクローバーが落ちており、誰かのいたずらだとすぐに気付いた。


「も~誰? こんなことして?」


 なかなか粋ないたずらに、佐藤は男子を想像した。そしてよもやロマンチックな告白が待っているのではないかという妄想を膨らませた。


 四つ葉のクローバーは僅かに階段側に落ちており、拾い上げた佐藤は自然と体を階段側へ向けていた。それが心理的にいたずらをした相手は階段にいると思わせ、足を勝手にそちらへ向かわせた。


「も~誰なの? 美夏でしょこんなことするの? 分かったわよ今行くから」


 本心は好きな男子の名前を呼びたかった佐藤だが、時間的にも副部長の美香が練習の催促に来たと思うのが妥当だった。

 そこで念のため用意して置いた舞へ部室で待つよう記したメモを残し、練習へと向かう事にした。


 ブラスバンド部は三階にある音楽室が主な練習場所だった。その為二階の部室から音楽室へ向かうには階段を上る必要があった。


 メモを置くと早速佐藤は階段を目指した。すると階段まで来ると一階へ何かが落ちる音が聞こえた。

 目をやると何故かそこには部室の鍵が落ちており、一瞬不思議に思った佐藤だが直ぐに美夏かいたずらで落としたと思い拾い上げた。その時だった。


「理香~、そろそろ練習始めるよ。ん? そんなとこで何やってんの?」


 鍵を拾うと突然後ろから声が聞こえ、驚いて振り向くとそこには美夏がいた。


「何って、いたずらしたの美香でしょ?」

「え? いたずらって?」

「四つ葉のクローバー落としたり鍵落としたの」

「いや、私そんな事してないよ?」

「まった~」


 美夏はいたずら好きだった。それはいつもどこか愛嬌のあるいたずらばかりで、とぼけたように否定するのもいつもの事だった。その為佐藤は軽いノリで美夏に合わせた。


「まぁどうでも良いけどもう練習始めるよ。理香も早く来て」

「分かった」


 そう言って階段を上がる佐藤から美夏が視線を反らした時だった。


「あっ!」


 突然佐藤は何かに強く胸を押されたような感覚に襲われた。そして美夏が声に振り返った時には、佐藤は階段の中腹から体を捻るように前のめりに転落していた。


「理香っ!」


 慌てて駆け寄る美夏。だがその時には既に遅く、転落した佐藤は頭から血を流して蹲っていた。

 

「誰か救急車呼んでっ! 誰か来てっ!」


 辺りは直ぐに美香の叫び声で人だかりができた。そしてすぐに異変に気付いた教員も駆けつけ、校内は騒然となった。


 そんな中、人だかりの外にインビジブルを纏う舞の姿があった。だがそこには佐藤を突き飛ばした兇悪な舞の姿は無く、インビジブルの魔障が解けて自らの犯した罪に怯え震えるか細い舞がいた。


“どうしよう……どうしよう……私なんてことしちゃったんだ……”


 その後、救急隊員に佐藤が運ばれ人だかりが消えても舞はその場から動けず、清掃が終わり教員達も帰宅し始めた頃、ずり落ちるポンチョにも気付かない程重い心を引きずった舞は帰路に着いた。


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