破断
午後の授業までのひと時。何気ない時間を舞は一人で過ごしていた。
「ね、ねぇ舞……」
「ん?」
昨日の兄との会話のお陰か、今日はとても気分が良かった舞だったが、声を掛けて来た三人の同級生を見て眉間に皺を寄せた。
「さ、佐藤部長が、今日話があるから、放課後部活が始まる前に部室に来てって……」
声を掛けて来たのは、一緒にブラスバンド部に入った順子達だった。
「え? 何で私が行かないといけないの? 用があるなら向こうから来ればいいしょ?」
インビジブルを発見してから徐々に異変を感じていた順子達は、気を遣うように舞から距離を置くようになっていた。舞もまた部長の味方をするようにコソコソ離れて行く順子達に、煩わしさを感じるようになっていた。
「え……いや……それもそうだけど……」
最近では眼つきすら変化した舞には怖れすら抱くようになっていた順子達は、明らかに以前とは違う高圧的な態度を見せる姿に委縮してしまった。
「でも……」
「でも何?」
「ぶ、部長に頼まれたから……」
三人は、自身の容姿に自信が無い内向的な性格だった。それに比べ舞は男子女子問わず誰とでも遊ぶような少女だった。それが成長するにつれ、なかなか他のグループに交われない三人を舞が気に掛けるようになってから、上下関係の無い親しい仲となった。
そんな舞だからこそ、三人は舞を慕い、グループのリーダーだと思っていた。
それが今、自分たちを睨むような眼つきで不満を露わにされ、完全に怯えた三人は服従に近い感情を持ってしまった。
「ふ~ん。結局自分じゃ怖くて呼べないから順子達に頼んだんだ」
「…………」
何が舞を変化させたのかを理解出来ていない三人は、自分たちに非があるのではないのかという思いがあった。それが弁明する気力さえ奪っていた。
今日舞は、兄の為に鬱陶しい三年生がいても部活に戻ろうと決心していた。そうすれば兄は喜んでくれる、そう思っていた。だがそんな心を踏み躙るかのように親友の順子達を手下のように扱い、姑息に呼び出しをする部長には心底怒りを覚えていた。
そしてその怒りに加え、インビジブルにより罪悪感が薄らいでいた今の舞には、順子達がこんなにも怯えているのは部長のせいだと思っていた。
椅子に座り睨む舞と怯えるように佇む三人。舞はただ三人に「行かなくていい」と言ってほしいだけだった。だが三人には無言の時間は圧力以外の何物でもなかった。
「……もういい。分かったわ。部長のとこには必ず行く。だから順子達もあんなのに従っちゃダメよ」
「……う、うん」
怯え佇む順子達には、怒り心頭の舞でも切なさを感じた。そこで少しでも安心させるため頬を緩めた。するとそれを見た順子達は、舞の態度がおかしいのは一時の物だと気が楽になった。だが……
「じゃ、じゃあ、そういう事だから舞。……ありがとう」
順子には他意はなかった。ただ何となく舞へ対し去り際に感謝の言葉を口にしただけだった。しかし舞には“私達が酷い事されずに済んでありがとう”という意味に聞こえた。
そこで何かが弾けた。
“アイツは絶対許さない”
今までの鬱積、母からの小言、兄の希望、大切な親友への虐め。今の淀んだ舞には殺意を呼ぶには有り余る動機だった。
その日、舞は六時限目を早退すると帰宅した。そして再び学校へと足を運んだ。




