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魔法人  作者: ケシゴム
一章
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今日も世界は適当に回る

 月下の山は、疎らに漂う薄雲の傘に照らされ涼むかのように佇む。夜空には幾つもの星が瞬き、風が秋を惜しむかのように鳴く蟋蟀の声を運ぶ。いつもと変わらぬ街は穏やかさを醸し出し、時折色づく信号の赤い灯が墓地という風情に情緒を織り交ぜていた。

 

「これで全部終わったのか?」


 秋の夜空は、澄んだ空気が月の反射を通し、空を照らす街の光と相まって、墓に手を合わせる六人の姿を鮮明に浮き彫りにさせていた。


「いえ。ほぼ終わりましたが、まだ全てというわけではありません」


 優樹の問いに、友子が羽虫の声をかき消さぬよう静かに応える。


「車の方はどうした?」


 五十嵐家の墓の前にいたのは、鎌田友子と健次郎、五十嵐理利愛と妃美華、そして新垣優樹とその妹舞だった。


「車は諦めました。もう今の私では高くて買えません。消えた保険が何処に行ったのかはもう分かりません」


 友子の愛車が大破していることは既に優樹は知っていたし、友子が被告側の人間である事も知っていた。だが現時点で金にうるさい友子が車両保険の在り方を把握できていない事実には驚きを感じ、同時にこの先友子が暴走族のような事をしないであろう可能性に安堵した。


「それよりも、何故私だけが損をしなければならなかったんですか?」


 この時友子は、妃美華たちを助けるために起こした事故で起訴されていた。そしてそれが原因で保険も降りず、愛車のスポーツカーを失っていた。


「いや、俺も一応書類送検されたから。それに肋骨もひび入ったし……」


 優樹もあの事故で、そこそこの大怪我を負っていた。そして同乗者という事で送検されていた。


「あなたが突っ込めって言ったんじゃないんですか!」

「言ってねぇよ! オメーが『ぶつけます。死なないよう構えて下さい』って言ったんだろ!」

「あの状況なら仕方ないでしょう! それ以前にあなたが『俺たちに記憶があるなら、多分警視庁の坂口にも記憶があるはずだからなんとかなる』とか言うからいけないんでしょ!」

「いや、まぁ……そうだけど……」

「その坂口とやらはどうなったんですか!」

「え……いや……さ、さぁ~……」

「さぁ~って!」


 余計な関係を持ちたくない優樹は、あれから一切坂口と連絡を取ろうとはしなかった。また坂口からも連絡はなく、坂口たちに記憶があるのかは不明なままだった。


 そんな二人を仲裁するように理利愛が言う。


「落ち着いて下さいフィリア。確かにフィリアは大きな代償を支払いましたが、そのお陰で今こうして私たちはここに居ます。車代やフィリアから受けた恩は、将来必ず返します。だから、もう少しだけ私たちを守って下さい」

「じょ、冗談ですよリリア。最近少々出費がかさんで、それでイライラが出ただけです。これは私が望んだ結果ですので、リリアたちは何も気にする必要はありませんよ」


 妃美華がいない世界に比べれば、今ある世界は比べ物にならないくらい幸福な世界であり、友子から出た言葉は本心そのものだった。


「そうだリリア、気にするな。どうせこいつは一度逮捕されなきゃなんねぇ奴なんだから気にするな」


 友子は、過去に絶対に捕まらない走り屋として“亡霊”という通り名があった。その他にも腕っぷしが強く、街の不良たちからも“オーガ”という異名も得ており、一度も検挙されてはいなかったが、数々の罪を犯していた。


「何ですって!」

「事実じゃねぇか」


 あれ以降、優樹は事故の関係もあり理利愛たちと交流を深め、今では“リーパー”と呼ばれ、互いにあだ名で呼び合う仲になった。そして舞も同級生として妃美華たちと仲良くなり、今では順子たちも含め六人で遊ぶようになった。


 いつもと変わらぬ秋の夜空は星が瞬き、少し季節はずれの墓地には線香の香りと仄かなロウソクの灯が点る。供えられる盆菓子は理利愛たちの好みが色濃く、脇を飾る菊は朝露を待つように月の光を浴びる。


 飲酒運転による暴走交通事故は世間を揺るがした。だが死者はおらず、友子の行いに歩行者を救ったという称賛は集まり一時は騒がせたが、タレントの不祥事や総選挙が始まると世間はそれを忘れたように流され、一年経った街は普段と変わらぬ穏やかさに包まれていた。


 そんな世界で、優樹たち六人だけが知っていた。


「……そろそろだね」

「はい」


 時計を見た舞が言う。それに対し妃美華が返事をし、全員が頷いた。


「何か起きるのかな?」


 バニッシュが発動した正確な時間は誰も分からなかった。それでも発動した記憶は残っており、世界は再びループする可能性があった。

 それを確かめるため六人は墓地に集ったのだが、あの日あの時とは全く違う形に優樹が言う。


「何も起きねぇよ」


 それを聞いて理利愛が訊く。


「なんでそんなことが分かるんですか? もしかしたらまたあの日に戻るかもしれないんですよ?」

「最初からループなんてしてねぇからだよ」

「まさか~? そんなはずありませんよ? 現に私たちは戻っています」


 優樹たちはもし再びあの日にループするような事が起きても、妃美華を救い同じようにこの時間に戻ってくると約束していた。そのため六人はループする事にそれほど脅威を感じておらず、まるで今年の祭りが終わったかのような気分だった。


「戻ってるって、思ってるだけかもしんねぇだろ? もしかしたら初めからこのループは、一本道に同じような景色があっただけで、それを俺たちが戻ってるって勘違いしてるだけかも知んねぇだろ?」


 これに対し、妃美華と舞が反論する。


「そんなはずはありません。私は確かに死にました。それに、他にも死んだはずの人間が現存しています」

「そうだよお兄ぃ。部長だって怪我してないで最後の大会出たし、妃美ちゃんたちが入部した事で瞳たちの担当楽器変わってるんだよ」


 妃美華たちが入部したことでブラスバンド部の中でも変化が起きていた。しかし佐藤が参加しても、最後の夏は同じ結果となっていた。


「それも含めて一本道だったんだよ。この世の真理なんてそんなもんだってことだ。所詮過去や未来なんて俺たちみたいなちっぽけな人間が勝手に決めた物なんだから」


 その言葉に妙に信ぴょう性を感じ、妃美華たちは納得したように口を閉じた。しかし一人だけ納得がいかない友子は、愚痴るように反論する。


「その理論には納得がいきません! それならもう一度くらいループしてもいいんじゃないんですか!」

「オメェの罪はループしても償えねぇレベルなんだよ! 仮にあそこで何もなくても、その以前があるだろ!」

「私は一度も検挙されたり訴えられたりしたことはありません! つまり罪には問えないという事です! それが法という物です!」

「何が法だ! それにオメェ納得できないじゃなくて、いかないって言ってる時点で認めてるようなもんだろ!」

「そ、そんなことはありません」


 六人は紆余曲折ありながらもそれぞれが絆を深めた。その中でも最も優樹と友子は仲が悪かったのだが、毎回のやり取りに最も分かち合えたのはこの二人だと四人は思っていた。優樹と友子も互いに毛嫌いしていたわけでは無いが、事実相性は良かった。


 そんな二人のやり取りに、いつもの事だと周りは気にも留めず、夜の墓地は珍しく賑やかな時間を送った――


「……何も起きなかったみたいだね?」


 九時半を過ぎると、舞がボソッと言った。


「はい。やはりリーパーが言った通り、あれは一本道の同じような景色だったのかもしれませんね?」


 特に何かが起きる事もなく、絶え間なく続く自然な時の流れに、妃美華も頷く。そんな妃美華を見て、理利愛がつぶやく。


「良かったです。これで今日も何事もなく、いつもの一日が終わります」

「そうだねリリアちゃん。そしたらまたいつもの明日がやってくる」

「はい」


 三人は何も変わらない風景に、過去に想いを馳せながら今日という日が無事に終わることに感慨深くなった。


 そんな三人を見て優樹が言う。


「何黄昏てんだよオメェら。用は済んだんだからもう帰るぞ」

「え~もうですか? これからカラオケ行きましょう!」

「良いねリリアちゃん! 行こう行こう!」

「何言ってんだよ! 明日俺は仕事だ! それにオメェらだって学校だろ?」

「そうですけど……でもまだ十時前ですよ?」

「もうだ! もう寝る時間なんだよ!」

「あ~、そうでした……リーパーはいつも九時には寝るんでしたね?」


 優樹は幼い頃からの名残で、午後九時には布団に入り、就寝の準備をしないと不安になる体質になっていた。


「そうだ。ほら分かったら帰るぞ」

「え~! 折角新しい明日が来る日なんですよ? お祝いしましょう!」

「何がお祝いだ! 毎日新しい明日が来てんだよ!」

「何言ってるんですか! やっと世界は進み始めるんです! 今日は特別な日なんですよ!」

「特別じゃねぇよ! 世界は毎日普通に回ってんだよ! ほら帰るぞ!」

「え~!」


 舞がインビジブルを発見した事に端を発した事件は、舞が発見したバニッシュにより幕を閉じた。これにより世界は一時的なループを経由したが、世界にとっては些細なものに過ぎず、何事も無かったかのように平和で新しい日常を送るのだった……



 ――――


「え……」


 一日が終わり、今日も自室で魔法陣を創作していた愛莉は、突然目の前から消えたノートに呆然とした。


「……え? えっ!?」


 愛莉はオカルトが好きで、ファンタジーの世界に憧れていた。そしていつかは自身が描いた魔法陣で魔法を扱えるようになりたいと思う、少し痛い女子高生だった。


 そんな愛莉は、この日発見した魔法陣をインビジブルと名付けた――


 やっと終わりました。これで完結です。


 最後はなんか終わりらしくなんか良い事言ってくれないかな~、って思いながら頑張りましたが、普通どころか中途半端に終わりました。健次郎に関しては一言も喋っていません。だから、サブタイトルは適当にしました。


 この後しばらくプラモデルを作ったり、ゲームしたりして休み、なんか適当にまた投稿する予定です。ちなみに予定では初めて公募に出した作品を修正してみようと考えています。


 最後までお読みいただき誠にありがとうございました。

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