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魔法人  作者: ケシゴム
一章
62/69

本音

 午後六時三十五分。


 優樹の突入により多少の遅れは出たものの、アリウムは計画通り人質の移動を終え最終段階に入っていた。

 その中で優樹は、妃美華、友子が担当する病院裏口に連れていかれ、妃美華たちの準備が終わるまで近くの一室で仲介役の霧崎に監視され、軟禁されていた。


「それで、お前は何をしに来たんだ?」


 移動は終えたがまだ人質たちに落ち着きが戻らず、妃美華と友子はその対応に追われていた。その間二人だけとなった空間はストレスが無く、霧崎は日常の会話のように訊く。


「何って、五十嵐妃美華に話があって来たんだよ。まぁ、本当は電話でも良かったんだけど色々トラブルあって、こうなった」


 自ら望んで人質になりに来たため、逃げる可能性は低いと思われていた優樹は拘束されていなかった。さらに霧崎が近くにいる事によってこの先尋問のような事はされないと考えていた優樹は、パイプ椅子に寛ぐように座る。


「あぁ、そうだったな。そういえばお前、坂口さんのとこから逃げて来たんだったな。何があった?」

「あぁ。いやちょっとな……」


 そこまで言うと優樹は何かを探すようにポケットを触り、煙草を出した。そして咥えると普通に火を付けた。


「あ、どっかに灰皿ないか?」


 いつもの霧崎ならこの状況下で煙草に火を付けるのは諭すのだが、既に無法者となってしまった霧崎には些細な事など気にもならず、言われるがまま辺りを見渡し、丁度良さそうな鉄製の盆を見つけると優樹の近くに置いた。


「お前寛ぎ過ぎじゃないのか? この先どうなるのかは俺にも分からないんだぞ?」

「別に気にしねぇよ。どうせ戻っても地獄なんだから」


 今の霧崎にとっては、優樹がこちら側に来てくれただけで喜ばしかった。何より堂々としている姿は、優樹は完全に仲間になりに来たのだと思わせ、むしろ自分よりも偉いと錯覚するほどだった。


「それにお前らだってもうそんなに時間ねぇんだろ? 八時だっけ?」

「そうだ」

「なら俺に拷問してる時間なんてないだろ?」

「まぁ確かに……」


 それを見越して病院に突入してきたのだと思うと、霧崎はますます優樹の頭の良さに感心した。


「じゃあお前は何をしに来たんだ? まさかアリウムに入りに来たのか?」

「まさか。そんなことするわけねぇじゃん。ちょっとした取引だよ」

「取引?」

「あぁ。三階から上の人質いるだろ?」

「あぁ」

「その人達全員と俺を人質交換してもらおうと思ってさ」


 そう言うと優樹は、ニヤリと歯を見せた。


「いや新垣。お前既に捕まってるだろ? 何故わざわざここにお前がいるのに人質交換しなければならないんだ? お前大丈夫か?」

「分かってないなお前。俺一人と上の階にいる人全員とだったら、俺の方がずっと価値あるだろ?」

「まぁ……確かにそうかもしれないな」


 インビジブルを作り、政府からも重宝される優樹は、霧崎から見てもその価値は途轍もなく大きい事は容易に想像できた。そのうえ政府が血眼になって追っているのであれば、優樹の言う通り上階にいる人質全員と比べてもお釣りがくるほど価値はあった。


「それにお前らだって上にいる人全員を管理するより、俺一人の方がずっと楽だし効率も良いだろ?」

「それはそうだな。だが……」

「それとも何か? この先上の人たちも使う計画でも入ってるのか?」


 優樹が強気の態度を取り余裕を見せていたのは、この質問をするためだった。もしここで使うと言えば、より強気な態度で自分の価値を主張して舞たちを解放するつもりだったし、使わないと言えば、それだけでこの先舞たちに危険が迫る可能性は低くなり問題なかった。

 何より優樹にとって一番怖かったのは、この病院に舞たちがいる事を知られることであり、それさえ知られなければ自分の犠牲はそれほど大きな問題ではなかった。

 

 そのはずだったのだが、霧崎の返答は意外なものだった。


「いや、それは俺にもまだ分からない」

「はぁ? 分からないってなんだよ? お前一応幹部なんだろ?」


 あまりに予想外な返答に、優樹はおかしなことを言う奴だなと首を傾げた。

 その仕草に霧崎は何も感じることは無かったのだが、この時優樹は嫌な予感がし、鼓動が高まるのを感じていた。

 

「そうだが……幹部と言ってもアリウムの中では一応そうなっているが、実質アリウムを仕切るのは五十嵐妃美華と鎌田姉弟、そして顔も見た事が無いナンバー伍という人物だけだ」

「ナンバー伍?」

「あぁ。名前も知らない人物だ」

「そ、そうなのか?」

「あぁ。だから大まかな流れは聞いているが、この先そこへ至るまでにどんな動きがあるのかはギリギリになるまで俺は何も知らないんだ」

「そうか……」


 これを聞いて、優樹は呆れを装いながらも鼻で深く息を吐いた。


 優樹の中で最も苦戦すると考えていたのは、先ほど霧崎が述べた通り、五十嵐妃美華、鎌田姉弟だけが独立した立ち位置におり、アリウムは傭兵のような使い捨ての組織という構図だった。


 この構図では霧崎はあくまでアリウム側の存在となり、この先五十嵐妃美華たちと交渉を行っても、仲介役の霧崎がいる限り重要な話を聞き出すことは難しくなる。

 その上アリウムとの連携が重要となる今では、五十嵐妃美華たちだけで勝手な判断は下せなくなる。それに加え新たに出てきたナンバー伍という謎の人物。これだけの条件下で舞たちを解放するには、多くの手札を持っていてもかなり難しかった。


「じゃあこの先どうなるかはお前にも分からないのか?」

「最終的にどうするかは聞いてはいるが、それもかなり大雑把な感じだ。新垣と遊びに行ったら『どこどこ行こうぜ』と最初は決めるが、そこへ行く道は適当だし、寄り道は多いしで、結局目的は達成するがその場その場でコロコロ目的が変わる感じだ」

「あ~……何となく意味は分かった」


 霧崎の例えが上手だった事で、優樹はアリウムの指揮系統がどのような感じなのか想像できた。そして妃美華たちが予想以上に固い情報統制を行っている事を理解し、自然な流れを利用してもこの先霧崎からアリウムの動きを聞き出すことは無理だと思った。


 そこで優樹は、アリウムの動きを探ることを諦め、別の情報を聞き出す作戦に切り替えた。


「でもよ、それだとお前不安にならないのか?」

「それはもちろん最初は俺も不安だった。だけど彼女たちは俺が思うよりも細かく計画を練っていて、何度も俺がこれは考えていないだろうという事を聞いても全て完璧に答えてくれた。それに今までの動きの中で、突然指示を出されても誰一人混乱することなく全てのメンバーが無駄なく動けているし、咄嗟の判断も指示も早い。だから今のアリウムに不安は無いし、どちらかと言えば警察をしていた時よりもずっと気持ちが楽だ」

「そうか……」


 警察をしていた時よりも楽。という本音が、もう自分の手の届かないところへ霧崎は行ってしまったという現実を優樹に突きつけ、事件が解決したときにはもう二度と霧崎と肩を並べて歩くことは無いのだと心に深く刺さった。

 それでも感傷に浸っている時間は無く、優樹は質問を続ける。

 

「五十嵐妃美華ってどんな感じだ?」

「……あぁ、まぁ頭が良くて礼儀正しい子、という感じかな」


 少し寂しそうに下を向いた優樹が、突然思い出したかのように明るい表情を見せ質問したことで、霧崎は一瞬違和感がした。しかしそこからはいつもの能天気な優樹に戻ったため、ただの世間話程度に返した。


「へぇ~。根暗って感じは無いのか?」

「どうだかな? 坂口さんたちの話に比べればそうでもない。相手にもよるだろうが、鎌田姉弟と喋っているときは笑顔を見せる事もあるし、こちらから話しかけなければ話しかけてこないが、話せば普通に応える。確かに表情はそれほど動かさないイメージはあるが、それでも俺は普通の女子高生とは変わらないと思う」

「そうなんだ。笑う事とかあるのか?」

「鎌田姉弟に対しては笑みは見せるが、笑うというのは見た事が無い。というか、おそらく人見知りするタイプで、指示する時くらいにしか他のメンバーと会話しているのは見た事が無い」

「ふ~ん」


 これだけの罪を犯している以上精神状態はまともではない事を考慮しても、得ていた五十嵐妃美華の情報はほぼ間違いなかった。しかし優樹が感じた別人という感覚は直感に似た閃きに近く、やはり直接自分の目で確かめた方が良いと思った。


 そんな優樹の心中でも察したのか、このタイミングでいよいよ五十嵐妃美華が姿を現した。

 最近煮詰まってきた感じがあり、自分の投稿した小説を読み返してみたのですが、凄くおもしろかったです。夜更かしして読んだり、次の日の帰宅の時には続きが読みたくてワクワクするほどです。文章の拙さや訂正をしたい場所はたくさんありましたが、それでもハマりました。

 これはあるあるなのでしょうか? それとも自分が読みたいような小説を書いたのが原因でしょうか? 


 最後に、もし自分も同じ経験があると思った方、あなたは小説家になれます。でなければただの変人です。

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