行動力
「もしもし。お電話替わりました、鎌田友子という者です」
霧崎からスマートフォンを受け取ると、友子は丁寧に挨拶した。
「どのような御用件ですか?」
“え……あ、どうも初めまして、新垣優樹です。あ……よろしくお願いします”
「こちらこそよろしくお願いします」
丁寧な挨拶と、妃美華が出ると思っていた優樹は、思わずたじろいた。それもアリウムで最も危険と噂される友子が相手なだけに、恐れを感じずにはいられなかった。
「それで、御用件は何でしょうか?」
“あ……それがですね……その~……五十嵐妃美華さんとお話がしたくて……その~、可能でしたら、取り次いで頂けませんでしょうか?”
優樹が抱く友子のイメージは、街の名のある不良という感じだった。
とにかく優樹は、不良、というより、都合が悪くなると威圧して頑なに我を通そうとする相手が苦手だった。その上友子が礼儀正しく対応したため、優樹は経験上最も無難と捉えるビジネストークで対応した。
「五十嵐妃美華は、私どもにとって重要な存在です。例えあなたが“政府”からの使者であっても、御用件を伺わなければ取り次ぐことはできません」
“えっ⁉”
警察ではなく政府と友子が言ったのは、こちらは取引には応じるがあくまでも優先権はアリウムにあるという意思を暗に示し、プレッシャーを与えるためだった。しかし既に優樹は、政府どころか警察の監視下の元にもあらず、ただ辛辣なダメージを与えるだけだった。
ちなみにこの時優樹は坂口たちに追われており、超ピンチだった。
“じゃじゃあっ! 用件だけ伝えるので直ぐ折り返して、ももももらえますかっ⁉”
時間的にアリウムにも余裕が無く、直ぐに妃美華と交渉できると計算して動いていた優樹は、これには焦りを隠せなかった。
その焦り声は当然妃美華と霧崎にも聞こえており、演技としてはあまりにも自然すぎて、逆に三人は優樹の身に異変が起きていると気が付いた。
そこで友子は妃美華と確認するように頷き合うと、対応を一変させた。
「何か込み入った理由があるようですね? 何があったか教えてもらえますか? 理由によっては直ぐに五十嵐妃美華に取り次ぎます」
最終的には妃美華が直接交渉するため、友子の焦らしは政府や警察に対するパフォーマンスでしかなかったのだが、このまま対応していればここで優樹との連絡が取れなくなる可能性を感じた友子は、目的だけでも知る方向へシフトした。すると予想以上に予想外な答が返って来た。
“じじ実は! 今俺警察から逃げて来て追われてるんです!”
「はっ⁉」
これには友子も驚いたが、それ以上に妃美華と霧崎が目を丸くして驚いていた。
“そそそそれでですね! 実は俺を人質にとって……あ……”
「もしもし?」
“…………”
「あの……」
“あ、くそっ! なんで分かった⁉”
「もしもし⁉」
電話は繋がったままだが優樹との会話は途切れた。そしてしばらく『いたぞっ!』という声や風を拾う忙しいノイズ音が受話器から響いた。
この事態に、異変を察した妃美華がいち早く動く。
「フィリア、直ぐに全隊員に連絡してください。今から新垣優樹を受け入れると」
「えっ⁉」
間もなく最終段階に入る時間を前に、友子は驚きの声を上げた。
「しかしヒーちゃん、もう時間がありません。さすがにここからの予定変更は不可能です」
「それは大丈夫です。行動は予定通り開始します。その中で“ついで”に彼を保護します」
「ついでに⁉」
「えぇ。予定通り人質を所定の場所に配置して、その中で彼を待ちます。ですので、彼がどの入り口から病院に近づこうとも、各グループに連絡さえ上手く伝わっていれば問題ありません。ただ、それが上手くいくかは彼次第です」
動きの中では本当についでという感じだった。それがここまで予想以上に順調に計画が進んでいる今の状況から、友子にとってもこの先支障を来すほどの障害にはならないと思わせた。
「なるほど。そういう事なら分かりました。ではナンバー陸、今から私は指示を伝えに行きますので、彼が応答したら“今から五分経った後、入り口はどこでも良いので、アリウムが全力でバックアップしますから躊躇せず病院の中へ駆け込むよう伝えて下さい」
それを聞いた霧崎は、『分かりました』と頷きスマートフォンを受け取った。
「ではヒーちゃん行ってきます。私は受け入れに少々人員を引っ張り準備しますので、人質の移動の方はジョニーに任せます」
「分かりました。お願いします」
妃美華から承諾を得ると、友子は霧崎に後は頼んだという意味を込めて目を配り、部屋を出て行った。
友子が部屋を出て行き、扉が完全に締まると霧崎は未だにノイズを発するスマートフォンを耳に当てた。
「おい! 聞こえるか新垣!」
優樹はまだ電話に出られる状況ではないようで、霧崎が話しかけても風を切るノイズが返ってくる。それでも霧崎は呼び続ける。
「おい! 聞こえているなら電話に出ろ!」
“……………”
「おい! 聞こえているのか!」
“……”
「おい!」
“うるせぇよ! もう少し黙ってれや!”
走って移動しているようで、苛立ち交じりにそう叫ぶ優樹の声は激しく息切れをしていた。そこに余裕は無く、傍で聞いている妃美華でさえひっ迫しているのが手に取るように分かった。
それでも霧崎は優樹に向かって語り掛ける。
「良いから良く聞け! 今から五分経ったら病院に向かって走れ! アリウムが全力でサポートするからそのまま中に入れる!」
霧崎が叫んでも直ぐには応答は無く、ノイズだけが先ほどと同じように響いていた。しかし聞こえてはいたようで、間をおいて返答がある。
“五分っ⁉ ……今すぐにしてくれよ!”
「それは無理だ! こっちにも準備がある!」
呼吸も限界なのか、優樹の叫ぶような声は途切れ途切れに返ってくる。そして脳への酸素供給量も限界なのか、あらぬことを言い始める。
“なら……なら今……病院の前……通るから……警察に向けて……適当に……発砲……してくれ!”
「何を言ってるんだお前⁉ そんなこと……」
“俺には当てるなよ!”
そう叫ぶと、再び受話器からはノイズ音だけが響いていた。が……
“あっ! 俺今透明だから!”
最後に早口でそう叫ぶと、受話器からはノイズどころか通話が切れ、遂に不通音になってしまった。
この事態に霧崎と妃美華は顔を見合わせた。
「ど、どうします、ナンバー壱……」
「そ……そうですね……」
ほとんど事故のような電話の切れ方に、さすがの妃美華も言葉を詰まらせた。しかしそれすらも優樹は待たせてはくれないようで、今度は病院内から複数の発砲音が鳴り響き、同時に人質の悲鳴が上がった。そして妃美華たちがその音を聞いて驚き部屋を飛び出すと、それを待っていたかのように正面入り口付近からガラスが砕けるような音がし、ロビーに着いた頃には入り口にアリウムのメンバーが数名人だかりを作っていた。
「何があったんですか」
ロビーに出た妃美華は、人だかりには近づかず、近くにいたメンバーに動揺を悟らねぬよう落ち着いて訊いた。
「そ、それが……警察が突然近づいてきたようで発砲したみたいなんですけど……何か人が突っ込んで来たみたいで……良く分からないです……」
「えっ⁉」
ほとんど声を荒げない妃美華だが、この時ばかりは飛び込んで来た人物が大方予想でき、あまりの行動力に思わず声を漏らしてしまった。
そしてその予想通り飛び込んできたのは優樹だったようで、ギリギリ連絡が間に合っていたメンバーに助けられた優樹は、何とかアリウムに保護された。
最近脳トレをして脳を鍛えています。しかし効果が良く分かりません。文法もそうですが、この後書きでさえ何を書いたらいいのか良く分からないからです。




