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魔法人  作者: ケシゴム
一章
58/69

主導権

「何を言ってるんだ⁉」

「え? だから俺と妹たちを人質交換して、妹たちを解放するんですよ」

「自分が何を言っているのか分かってるのか⁉」

「えぇ」


 病院を脱出するため計画を練る桜井たちだったが、ようやく糸口が見えた矢先に放たれた優樹の思わぬ発言に、そこにいた全員が驚いていた。


「良いか、よく聞いてくれ。今ここで起きていることは訓練でも映画の撮影でもない、現実に起きている事件なんだ。実際下では既に何人も殺されてるんだ。もしそんなことをすれば間違いなく殺されるぞ」


 この時桜井は、仕事としてではなく一人の人間として優樹に語り掛けていた。それは優樹が見せる才能や閃き能力の高さなど関係なく、今まで共に過ごしてきた中で感じた人間性からくる尊重の言葉だった。

 その想いに応えつつ、何としてでも押し切りたい優樹は言う。

 

「それは覚悟の上ですよ桜井さん。でも考えても見て下さい。今無理をして……というか元々無理なんですけど、今ここでイチかバチかで妹たちを連れてあそこから降りるのと、最悪俺だけでも外に出て、そこから俺一人と交換で妹たち五人が玄関から外に出れるのだったら、どっちの方が得だと思います? あ、その場合きちんと桜井さんたちも一緒ですから」


 言っていることはかなり無理があるが、その表情、声音は真剣そのもので、とても冗談を言っているようには見えなかった。

 何より言い方は軽いが、この状況では論理的には正当性があり、さらに深い意味を醸し出す言い回しには桜井も絶対とは思わなかった。しかし立場上受け入れるわけにはいかず反論する。


「そういう問題じゃない。良いかよく聞くんだ。新垣君の言いたい事は分かる。だけど君は今の自分の価値を分かっているのか? 命としては確かに犠牲は少ない方が良いのは分かるが、今の君はそんな物じゃないんだぞ?」


 感情をコントロールする術を身に着けているはずの桜井だったが、この状況では完全に抑えることは出来ず、気を付けていても無意識に口調に変化が表れていた。それを敏感に感じ取る優樹は、この勝負を勝ち切るためにさらに慎重に言葉を選ぶ。


「それはインビジブルの方ですよね? だから成功する確率は高いんですよ。それに俺の命なんてあの五人と比べたら間違いなく劣りますよ。安心してくださいよ、桜井さんたちが俺を護るのが仕事なのは分かってますから、坂口さんにはきちんと俺から話しますから」

「……」


 私情と建前が交差する心情を読まれての発言には、桜井も一瞬言葉を濁した。しかし直ぐに立て直すと改めて正面から受けるつもりで言葉を返した。


「坂口の話は後だ。それよりも今は新垣君の話だ。確かに俺たちは新垣君を護衛するよう依頼されている。だけど俺はそれとは別に新垣君にはここで死んでほしくはない。いや、新垣君だけじゃない、妹さんやそのお友達、この病院で人質となっている全員だ。俺たちだって人間だ。それは分かるだろ?」

「はい。俺だって桜井さんたちと長くいたんですよ? 桜井さんたちが普通のおっさんだって事くらい知ってますよ」


 緊迫したこの状況でも軽口を叩く優樹は、それだけで場の空気を緩めた。すると桜井に落ち着きが戻り始め、話は解決へと向かうような雰囲気が漂い始めた。


「そうか。なら分かるだろう? 俺が仕事だから言っているわけではないことくらい」

「はい。じゃあどうします? 妹たち全員を連れてあそこから降ります? それとも俺と桜井さんたちだけで脱出しますか? 俺だけなら脱出確率はかなり上がりますし、別に今急いで全員があそこから逃げなくても、別の経路を使って細かく逃げる方法もありかもしれませんよ?」

「い、いや……それは……それをこれから話し合うんだろう?」


 緩和からの揺さぶり。一度崩れたリズムは直ぐには完全に戻らない事を良く知る優樹が最も得意とするのがこの手法だった。

 そして桜井が曖昧な返答をしたことで土俵に引きずり込んだことを確信した優樹は、ここからさらに追撃を掛ける。

 

「話すって、もう答えは出てるじゃないですか? 俺一人と足手まとい六人を連れての脱出なら、間違いなく俺一人でしょう? 車付けてくれるなら、あの高さなら俺ならいざとなれば途中から飛び降りれるし、坂口さんだって“俺だけ”が無事なら絶対そうすれって言いますよ」


 自分さえ助かれば良い。そう聞こえる傲慢な言葉は、数々の依頼をこなしてきた桜井にはとても甘美に聞こえた。


「いや……それはそうだが……だがその後が問題だ。それからまた新垣君は人質となるんだろう? それでは意味が無い」

「それはインビジブルが絡んでるからですよね?」

「まぁ……それもある。だが……」


 ここが勝負だと思った優樹は、桜井の言葉を遮った。


「妹の舞が、俺以上にインビジブルの情報を持ってると言ったらどうしますか?」

「え?」


 これは妹を助けるために自らが犠牲になるという話だったが、『自分だけが助かれば良い』に続き、『妹の舞を身代わりに差し出す』発言は、複雑な矛盾を生み出し一瞬桜井の思考を混乱させた。


「実はインビジブルは俺が見つけたけど、舞の方が詳しいんですよ。というか、やっぱり怖いじゃないですか、どんな副作用あるか分かんないし。だから舞に無理矢理協力させて、実験台になってもらったんです。だから俺、実は一度も透明になったことなくって」

「え……そ、そうなのか?」

「えぇ。それに俺以上に興味持ってて、他にも何かできないか研究してるみたいなんですよ」

「そ、そうか……」


 今の桜井にとってはインビジブルの情報はそれほど重要ではなかった。ただ優樹が突然妹の売り込みのような事を言い始めた事で、矛盾の矛盾が脳内で生じ付いていけなくなっていた。

 それを敏感に感じ取った優樹は、ここでさらに桜井を置き去りにするため次のステップへと進む。

 

「それに、俺と妹たちの取引は結構成功すると思うんですよ」

「え?」


 また話の流れが変わった事で、整理のまとまっていない桜井は聞き直すように声を発した。しかし優樹はそれを無視して、まるで桜井が付いて来ているかのような雰囲気を出し言葉を続ける。


「いやだって坂口さんも言ってましたけど、霧崎が俺たちを逃がしたじゃないですか? あれって最初は霧崎の情けなのかと思いましたけど、病院に俺たちを連れてきたのもアイツじゃないですか? なのにそこで俺を逃がすって、多分鎌田たちは俺を殺す必要も仲間にする必要もないけど、居場所だけは掴んでおきたいって感じだと思うんですよ」

「え? ……ま、まぁそうかもしれないな」


 この時点で桜井は完全に話にはついてはいけなくなっていた。ただ優樹が何か重要なメッセージを放っているとだけは認識しており、下手に中断させることができなくなっていた。


「それにまだ確証はありませんけど、多分五十嵐妃美華は別人なんだと思います」

「え? ……えっ?」


 直接坂口と交渉するため、出せるだけ情報を出し桜井を混乱させるつもりだった優樹は、この桜井の驚き方に勝利を確信した。


「あ、いや、これはまだ決まったわけじゃないですよ。今それを坂口さんたちが調べてるみたいなんで、あくまで憶測です。でも多分間違いないと思いますよ」

「えっ⁉ ちょっと待ってくれ新垣君⁉ じゃあ彼女はいったい誰なんだ⁉」


 もう話には付いていけなくなった桜井は、無意識に途中で引っ掛かった大きなワードに食いつくしかなかった。そうなるともうこの話の発端が何だったのかは覚えておらず、後は優樹の成すがままだった。


「恐らく姉の五十嵐理利愛です」

「はぁ⁉ 五十嵐理利愛は死んだはずじゃないのか⁉」

「えぇ。でも何故生きているのかは分かりませんし、何故妹の妃美華の振りをしているのかは分かりません」

「いや待ってくれ! でもそれは無いだろ⁉ 死亡届だってあるし、いくら双子だからといっても親が気付く……まさか親もこの事件に関係しているのか⁉」

「え? あ、いや、それはちょっと分かりません……」


 優樹にとって重要なのは、リーダー格の考え方をどう捉え対応するかであって、五十嵐姉妹の親が犯行に絡んでいるかなど、今は一切どうでも良い事だった。そのため逆にそこを掘り下げようとしている桜井に戸惑ってしまった。


「そうなると今この状況も危ないかもしれないな」

「え? なんでですか?」

「まだ俺たちは五十嵐姉妹の親族についてはそれほど情報を持っていない。もしかしたらこの病棟にもその関係者がいるかもしれない」

「そ、そうなんですか?」

「あぁ」


 桜井たちは鎌田たちの両親や親族については情報を得ていた。しかし五十嵐妃美華に対しては面が割れるのが遅く、警察もそこまで重要視していなかったため両親、祖父母以外の情報は乏しかった。


「これは大変だ。直ぐに坂口に連絡する」


 そう言うと桜井は、話の途中にも関わらず携帯電話を取り出し耳に当てた。


「あ、ちょっと落ち着いて下さい桜井さん。まだ決まったわけじゃないですよ?」

「……あぁ、桜井だ」


 何か重要な話をしていたからの、五十嵐妃美華は別人という流れは、桜井に途轍もなくひっ迫しているという錯覚を与えていた。それが予定とは異なる動きを桜井にさせ、優樹は内心焦りを感じた。

 優樹の計画では、話に付いていけなくなった桜井を混乱させ、最終的には坂口に助けを求めるように電話を替わってもらうつもりだったからだ。しかし特ダネを掴んだかのような勢いの桜井は、坂口も知っているという事など忘れ電話に集中していた。


 その勢いは、このまま当初の話など忘れ脱出までを実行してしまう勢いで、最悪命をも落とす危険に妹たちを巻き込むと思うと優樹は愕然としたのだが、今更の話に坂口も困惑したのか、最終的には計画通り優樹は直接坂口と話す機会を得るのだった。


 ゴールデンウィークという連休は正に甘美です。小説なんて書いているのが勿体ないです。そしてプロテインを始めました。最近寒気がして眠気に襲われ病気かと思っていたのですが、どうやらタンパク質が足りないと同じような症状が出るようです。体が健康になると頭の回転も上がり、さらにやる気も出るようです。

 これを機に筋肉に付いて学び、いずれ民想いで清く正しく真面目だが、体が弱く貧弱な王子様がプロテインと出会い、強くなり立派な王となる物語を書きたいと思います。ちなみに愛馬は、白く美しい牝馬で名をキンニクイチバンと言います。

 あ、それと、次の投稿は不定期です。

 

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