脱出口
午後五時十分。
偵察を終えた桜井の部下と合流した優樹は、三階にいた。
「いや~、ここはさすがに無理じゃないっすか?」
経路を探し何とか脱出できそうな場所を見つけたという報告を受け、優樹は桜井と共にその場所へ確認に来ていたのだが、予想以上に困難な脱出方法に難色を示していた。
「しかしここくらいしか降りる場所が無い。これ以上は下の階には降りられる状況じゃないからな」
「それはそうですけど……妹たちもいるんですよ?」
「それは分かっている。だが状況が状況だ。今はこれくらいでもしなければ命の保証はない」
「そうですけど……でもこれ、映画クラスっすよ?」
「分かっている」
桜井の部下たちが見つけてきた場所は、病院裏側に面した三階廊下の窓から別の場所から持ってきた避難梯子を使い、一階に設けられた僅かな庇の上へと降り、そこから地上へと向かうという経路だった。
「それに奴らのドローンもいるんですよ? 今覗き込んでいたのだって見られただろうし、下のあれって職員用の扉ですよね? そんな状況で降りてもすぐ奴らに捕まりますよ?」
上空を飛び回るドローンは優樹のいる面からでも二台が見えており、庇の下は造りからして関係者の出入り口だと推測できた。
「それは問題ない。降りる際は坂口に連絡し、扉の前には装甲車を付けてもらい出入り口付近を警護してもらう。ドローンに関してもSATが潜入する際には何かしらの対策をするはずだ。それに合わせれば何とかなるだろう」
「何とかなるって……本当に言ってます? この高さですよ? 土方やってる俺ですら足すくむ高さなんですよ? 妹たちには無理ですよ?」
高さは十メートルほどあり、地上にはコンクリート製の花壇や縁石が並び、歩道はアスファルトで舗装されていた。そこを不安定な非常梯子で降りるのは、アリウムの存在無しでも正に命がけだった。
「それも分かっている。ただ勘違いしないでくれ、これはあくまで候補の一つだ。他に良い場所が見つかればそちらを選ぶし、ここも一度坂口と確認してから決めるつもりだ」
「そ、そうですか……」
「だけど、恐らくここが最有力候補になる。やはり二階には番兵がいる以上無理だし、エレベーターピット内から一階のエレベーターの上に降りるのは、それこそ映画のようで賛成できないだろう?」
「えぇ。落ちても危ないし、奴らに捕まるのはもっとヤバイですからね……」
二階の階段にはアリウムがバリケードを張っており、その全てに数名の一味が見張りに立っていた。そしてエレベーターは地下二階まであったが一階で止められており、仮にシャフト内を上手く降りられてもアリウムが占拠する一階を通過する必要があり、脱出経路としては不十分だった。
それでもやはり舞たちを連れここから降りるのは難しく、優樹としては脱出そのものを再検討する必要があると思っていた。
それは表情からも滲み出ており、それを見た桜井はこのまま押し通すには難しいと感じた。
「とにかく一度戻ろう。ここはあくまで一つの案だ。時間はそれほどある訳じゃないが、他にも良い策があるかもしれない。だからここに拘らず他の方法も考えてみてくれ?」
依頼である以上雇用主の指示には従うつもりでいた桜井ではあったが、優樹だけならいざ知らず、未成年数名を連れここから無傷での脱出は不可能に近い事は分かっていた。
それでも何とかして脱出する必要があり、そのためには優樹の協力は絶対不可欠だった。そこで桜井は優樹が自発的に動くよう働きかけた。
「え? ……あ、はい。分かりました」
優樹はこの時、桜井も迷っているのだと感じた。それは妹たちがいるという事が大きい事は直ぐに分かった。優樹もまたそれが原因で足踏みをしている状態であり、そこを解決する事が糸口だと思った。
そこから二人は作戦本部へ戻ると、直ぐに合流した部下二名と情報交換を始めた。
「……という感じです。やはりあの場所が一番可能性があります。そちらの方は?」
「こっちは坂口次第だ。向こうのバックアップ次第で脱出できる人数が限られてくる」
「そうですか……」
新たな脱出口を探しに行った二人だったが、その報告は芳しいものではなかった。優樹たちの方も、桜井が言う通りバックアップ無しでの突破は難しく、進展は無かった。そこで桜井は先ほどの場所を脱出口と決めるため、優樹に最終確認を取ることにした。
「新垣君の方は何か良い策は見つかったか? なければやはりあの場所を利用するしかない」
「えぇ、構いません」
先ほどの渋りから優樹は口を濁すと思っていた桜井は、すんなり承諾したことに少し驚いた。しかし情報交換中もずっと難しい顔をしていただけに、そう簡単に話はまとまらないとも思った。
「でも一つ良いですか?」
「なんだ?」
「あの場所を利用するのは構わないんですけど、脱出するのは俺たちだけに出来ませんか?」
「えっ?」
条件を付けてきたときやはりと思った桜井だったが、あれだけ大切に想っていた妹を犠牲にするという選択は無いと確信していただけに、この言葉には心底驚いた。
「ど、どいう事だ? 妹さんたちを見殺しにするつもりか?」
本来なら任務成功が優先されればプロとして喜ばしいはずなのだが、長い時間行動を共にする中で情が移ってしまった桜井は、人として優樹の今の言葉には苛立ちを感じた。
しかし言葉には感情は出ておらず、優樹は平然と理由を述べる。
「いえ、そんなわけないじゃないですか? 妹たちは必ず家に帰します。だけどやっぱりあそこから逃がすのは無理です。だから先ず俺たちだけ外に出て、そこから今度は外から入って妹たちを連れだすんです」
「ええっ⁉ な、何を言ってるんだ新垣君⁉ それこそ無理だろう⁉」
他の人間とは違う思考をする青年だとは思っていたが、ここにきて常識外れな事を言い出した優樹には、さすがの桜井も言葉を荒げてしまった。
「そうでもないと思いますよ?」
「いや無理だろ⁉」
「そうですか?」
「そうだ!」
「落ち着いて下さいよ桜井さん。先ず俺の話を聞いて下さい。これも案の一つですよ」
「わ、分かってる。それでもやはり無理だろう?」
優樹が時々見せる諦めたかのようなケロッとした雰囲気。今の桜井は動揺していたが、その雰囲気が場を混沌とさせなかった。
「交換条件ですよ」
「交換条件?」
「はい。俺と妹たちを交換します」
「はぁ⁉」
大分遅くなりました。しかし久しぶりのため小説の書き方がわからなかったり、パソコンがウンチになって初期化したり、初期化したら今度はネット通信がウンチになって、更にSwitchのマイクラがウンチ化し始めて、しばらく投稿はかなり遅くなります。
この後書きが気に入ったら、ウンチしてくれると何となく……ウンチです。




