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魔法人  作者: ケシゴム
一章
55/69

放送用

 “皆さん、こんにちは。アリウムです”


 メンバーの出すカウントダウンがゼロになると、友子は笑顔を見せ、明るい雰囲気で撮影をスタートさせた。撮影メンバーも経験があるのか動きに無駄が無く、それは正にテレビの中継だった。


「今回も前回に続き、全国の皆さんにメッセージを送りたいと思います。今回も放送されるかは分かりませんが、分かりやすくお伝えしたいと思います」


 一回目と打って変わって、明るい雰囲気で話す友子はまるでバラエティー番組のリポーターのようだった。しかし後ろに映るターゲットとなっている二人が、頭から黒い布を被された姿は異様と表現する他なく、見ていた警官の中には吐き気を催す者もいるほどだった。


「今回の私たちアリウムの要求は前回と同じです。先ず、今映っている映像を全国放送で流してもらう事です。現在全国にいるアリウムのメンバーがテレビを見ていて、これが放送されれば連絡が来るようになっています。中継は十分ほどを予定していますので、出来るだけお早くお願い致します」


 この時妃美華たちは、放送される可能性があると踏んでいた。しかし警察は、例え人質が犠牲になっても放送を流すつもりは無かった。既に病院占拠が報道された事で日本だけでなく世界中で注目となる中、政府からの通達もありこれ以上の失態を見せるわけにはいかなかったからだ。そして警察は要求の一つに応えているという点もあり、今回の撮影で人質が犠牲になる可能性は低いと高を括っていた。


 そんな事など知りもしない友子は、どちらに転んでも良いよう続ける。


「次に、警視総監をこの場に呼んでもらう事です。皆さんご存じかもしれませんが、私たちアリウムは、昨年起きた飲酒運転追跡事故が原因で決起した組織です。今ここに居る二名の当事者は確保しましたが、彼らが罰を受けて最高責任者が罰を逃れる道理はありません」


 そう言うと友子は、後ろにいる二名の人質をカメラに移させた。そして次に友子は、銃を持つアリウムのメンバーに囲まれた人質たちにカメラを向けさせた。


「今夜八時まで私たちは待ちます。ここに居る“市民”を想うのなら、午後八時までに警視総監をこの場にお呼び下さい。私たちが望むのはそれだけです」


 二つ目の要求を聞いて、警察は渋い顔を見せた。

 この時、警視総監は万一に備えこちらに向けて移動を開始していた。ただそれは最終的に責任を問われたときと、人質を容赦なく殺害するアリウムへの抑止としてのアピールだったため、病院まで行く予定は無かった。

 それを知ってか知らずか、人質を解放する際に伝えていたのにも関わらず友子が口にした事で、思惑は完全に見抜かれていると悟る警察は、大きく鼻で息を漏らすだけだった。

 そんな警察を友子はさらに落胆させる。


「アリウムからの要求は以上です。次の放送をお待ち下さい」


 友子がそう言うと映像はそこで切れた。これには本来ならこの十分という尺の中で、爆弾を巻かれ解放された人質たちについて詳細を説明すると聞いていた警察は、目を丸くした。

 今分かっていることは七名全てが別の指定された店へ行けというメモのみで、何も分かっていなかったからだ。そして爆発物処理班が解除にあたっているが、プロの目から見ても構造に不明な点が多く、どこから手を付けていいのか分からないままだった。


 そんな絶望的な状況だったが、数秒すると再びモニターに映像が映った。


「警察の皆さん。今のは放送用でした。これからお店に立ち寄ってもらう方たちの説明をします」


 友子たちなりに気を利かせたつもりだったが、笑顔で手を振る姿はまるでバカにしているかのようで、焦った警察は安堵よりも怒りがこみ上げ、中には思い切り机を叩く者もいた。それを嘲笑うように友子は続ける。


「先ほど解放した方には向かってもらうお店を記したメモを渡しております。特に“時間の指定”などはありませんが、そのお店に向かってもらい、そこで爆弾を解除するための鍵を手に入れて下さい。それだけです」


 時間の指定は無いと言ってはいるが、人質たちにつけられたタイマーは何故かカウントアップしており、それぞれが違う時間になっていた。これが何を意味するのかはいまだに分かっていないが、アリウムが午後八時を制限としている以上、タイムアップが無いとはとても思えなかった。


「ちなみに、その爆弾は製作者である人物でさえ絶対に解除できないと言っている物です。強引に解除しようとせず、必ずお店に立ち寄り鍵を見つけて下さい。それと、爆発すれば半径十メートルほどに被害を及ぼす物なので、警察の方は無理をさせず、転ぶことの無いよう、焦らず、慎重に、ガラスを運ぶように気を付けて接してあげて下さい」


 製作者でも解除できないはずなのに鍵が必要という矛盾。バカにしたような忠告。タレント気取りの笑顔。全てが警察を苛立たせた。


「それでは最後にヒントです。鍵は鍵の形をしているとは限りません。それでは皆さん。お店へ向けてスタートしてください」


 その言葉を合図に、人質たちに取り付けられている爆弾から、何かが起動するようなピッという音が聞こえた。そして映像は爽やかな音楽を背に花が靡く固定映像に変わり、アリウムからのメッセージは終わった。


 この事態に警察は爆弾の処理に回らざるを得なくなり、自衛隊と共に多くの人員を割くことになった。そして、それを見計らったようにアリウムがこの地域に繋がる水管橋を爆破したことで、病院を取り囲む警察の数はさらに少なくなっていった。

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