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魔法人  作者: ケシゴム
一章
52/69

煙草

「いや~参ったね」


 捜査本部が置かれる警察署のある一室。そこは騒々しさが溢れる署内とは無縁のように落ち着きがあった。


「いや~参ったね」

「……坂口さん、それ二回目です」

「いや~参った」


 飛び込んでくる情報と、何度も響く電話。そして幾度となく呼び出される嵐のような時間が去り、ようやく普段の落ち着きを取り戻すと、坂口が独り言のように繰り返す。それを見て藤原は関わりたくないと思いつつも、仕事上無視するわけにもいかず会話をつないだ。


「新垣君の件ですか?」

「うん」


 即座に自分が求めている答えをくれる藤原に、坂口は嬉しそうに返事をする。


「いや~参った。どうしたもんかね~?」


 現場から入った“新垣優樹はアリウムの幹部”という情報は、捜査本部でこねくり回されてからやっと確認のために坂口たちの元へと降りてきた。そのころには優樹は既に犯罪者のレッテルを貼られており、事件解決を機にインビジブルの全てを得ようと考えていた坂口たちは、優樹を極秘扱いにしていた事が仇となり大きな痛手を受けていた。


「発電所といい病院占拠といい、こればっかりは完全に相手が一枚上手だったとしか言いようがないですよ、坂口さん」

「そうだね~。いや~参った」


 坂口たちは、優樹がアリウムと関わり合いがあるとは微塵も思っていなかった。ただ、こうなってしまった以上優樹は一度警察へ引き渡さなければならなくなり、早く仕事を切り上げたい坂口たちとしては、五十嵐妃美華に一本取られたという感じだった。


「まぁでも、お陰で新垣君が彼らに殺される確率は減りましたから、良しとしましょう。それに上手くいけば桜井たちが情報を引き出してくれるかもしれませんから、そう悩まなくてもいいじゃないですか?」


 現在優樹は、こちらの作戦に伴い協力するよう銘打ち、桜井たちの監視の下軟禁していた。

 これに対し、元より協力的だった優樹は疑念の一つも抱かず指示に従っていたが、下手に現実を伝えれば優樹が先行きに不安を覚え、インビジブルを交渉材料に守りに入られる可能性があった。


「いや~、後の手続きが面倒でね」

「あ、そっちですか……」

「うん」


 仮に事件が丸く収まっても、身の潔白を証明し優樹を解放するにはかなりの手続きと時間が必要だった。そこからさらにインビジブルについての情報取得は手間のかかる仕事だった。

 そんな先の長い仕事に少しうんざりしていた坂口だったのだが、間もなく事態はさらに不穏さを増し、理解に苦しむことになる。


 ――午後三時二分。

 

 優樹の早期解放を目指し、黙々と作業を続けていた坂口の下に、本社より一通のメールが届いた。それを見た坂口はすぐさま藤原を呼び、メールに記載されていた内容を確認するため、添付されていた動画を開いた。


“全てを透明にする魔法陣”


 そうアイキャッチに書かれたある動画は、投稿者名がアリウムと表示されており、描かれる魔法陣は坂口たちが良く知る形をしていた。


 これを見た坂口と藤原は、目を丸めるほど驚いたが、言葉を交わすことなく静かに視聴を続けた。


 動画は三分ほどで構成されており、前半で魔法陣の説明と作り方が流れ、後半は実際に物を透明化して仕掛けが無い事を証明していた。

 動画は軽やかな音楽に合わせ説明文が流れ、音声は入ってはおらず誰が投稿したのかは不明だったが、動画内で“インビジブル”と呼称しており、“一部が欠けると効力を失う”や“実在するため間接的に当たる水などには注意”など、魔法陣は坂口たちが知るインビジブルそのものだった。そして真偽は不明だが、自分たちが追い求めている作成方法まで説明されており、このタイミングと合わせてもただの悪戯とは思えなかった。


 これには坂口だけでなく藤原までもが頭を悩ませた。


「いや~、これは参りましたね坂口さん」

「いや~、本当だね~」


 既に動画は削除され非公開となっていたが、それまでにどれほど世間に広まったのか不明だった。しかしそれ以上に坂口たちの頭を悩ませたのは、何故今鎌田たちアリウムがインビジブルを公開しようとしていたのかだった。


「どうします坂口さん?」

「う~ん……そうだね~……」


 頭の回転が速い二人は、回転が速すぎるが故に、インビジブルが広がり新たな問題が発生してしまう事態の対策と、これを利用して鎌田たちは一体何を求めているのかという考えが入り混じってしまい、直ぐに答えは出なかった。しかしそこは頭の回転が速い坂口、珍しい事を口にした。


「ねぇ藤原君」

「はい」

「ちょっと煙草とライター買って来てくれる」

「…………」


 これに藤原は逡巡したが、それは悪い物ではなかった。


「……分かりました。銘柄はなんでも良いですか?」

「うん。一番軽いやつなら何でも良いよ」

「分かりました。行ってきます」

「うん。お願い」


 藤原は二十代前半頃まで。坂口は遊び程度にしか煙草は吸ったことが無かった。

 現在の二人にとって、煙草は時間と金と寿命を無駄にする趣向品という考えだった。だが常に忙しく無駄な時間が存在しない二人だからこそ、煮詰まったときは頭をリセットできる最高のアイテムだった。


 坂口がここで煙草を要求したのは、今まで知性を感じさせていた鎌田たちが、まるで別人のように短絡的な行動を取り始めた事に対して違和感を覚えたからであり、そこから見えてくるものが一切思いつかなかったからだった。藤原も同様に、インビジブルからくる凶悪性というよりも、子供の悪戯のような行動に疑問を感じ、何も考えず真っ白な時間を設ける必要があると思っていた。


 藤原が煙草を買ってくると、敷地内は禁煙であったことを思い出し、二人は灰皿を求め喫煙できる場所を探した。しかし今のご時世あらゆる場所が禁煙区域だと勘違いしている二人には見当も付かず、最後は煙草を諦め近くの公園で缶コーヒーを飲みながら、まだ青い街路樹を眺め静かな時間を過ごした。


 試験が終わり、時間と頭に余裕ができたはずなのに、全く執筆ペースが上がりません。そこで気分転換にガンダムのプラモデルの盾だけ塗装してみたり、五百円玉をピカピカに磨いてみたりしているのですが、完全に病んでいます。五百円玉はいくら磨いても五百円です!

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