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魔法人  作者: ケシゴム
一章
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正午

 平日の午前、総合病院は普段と変わらず大勢の患者が診察を受けに来ていた。そんな中で緊急搬送される患者が加わり、ロビーはいつになく緊張感が溢れていた。しかしエレベーターで佐藤が入院する階へ上がると、雰囲気はいつもの穏やかなものと変わらず、佐藤の誕生日を祝い一時間が経った頃には、舞たちは入り口の混雑をすっかり忘れていたほどだった。


「あ、もうお昼か」


 誕生日会が始まり暫く経つと、正午を告げるサイレンが鳴り響いた。


「もうそんな時間か……私は病院のご飯あるけど、皆はどうするの?」


 楽しい時間に水を差すタイミングに、佐藤はこのままお開きになるのでないかと残念な気持ちになったが、先輩として後輩たちにどうするかを尋ねた。


「どうする皆? ケーキとかお菓子食べたし、私は別にこのままでも良いけど」

「私も別にお腹すいてないよ」

「うん、私もこのままで良いよ。あ、でも、お茶は欲しいかも」

「じゃあ売店に行く?」

「え~、めんどくさいよ~。自販機ならそこにあったじゃん。わざわざ一階まで降りるのめんどくさいよ~」 


 会話の内容から、後輩たちは自分に気を使っている様子もなく、純粋にこの時間を楽しんでくれていると分かると、佐藤は嬉しくなった。


「じゃあどうする皆? 私もケーキとか食べちゃったからお腹すいてないし、私のご飯皆で食べる?」


 それを聞くと順子たちはそれでも構わないという感じで頷いた。しかし舞だけは違った。


「すみません部長。私ノート欲しかったからついでに行ってきます。皆何か欲しいものある?」

「私プリン欲しい!」

「じゃあ私はお茶とおにぎり買って来て。具は梅ぼし!」

「じゃあ私もコーラ欲しい!」

「え~! 結局皆欲しい物あったんじゃん! 最初から売店行けば良かったじゃん!」

「え~、でもわざわざ売店行くほど欲しいわけじゃなかったから。舞が行くならついでにだよ」

「も~分かったよ」


 予想外の展開には驚いたが、三人の性格をよく知る舞は、やっぱりと落胆した。するとそれに加わるように佐藤もお使いを頼み始める。


「じゃあ新垣さん、私もお願いして良い?」

「え? 良いですよ? 部長は何が欲しいんですか?」

「トランプかUNO買って来て。それで皆で遊ぼう」

「はい! 良いですよ!」


 佐藤からのお使いには何か日用品を頼まれると思っていた舞は、この提案には大いに喜んだ。するとあまり気乗りしなかった気持ちが晴れ、舞は全員からお金を預かると陽気に一階の売店を目指した――


「UNOって意外と高いんだ……ん?」

「ん?」


 売店での買い物を終え、思っていたよりも高かったUNOに驚きながら来た道を戻っていると、長椅子に腰かけている見た事のある姿に舞は足を止めた。


「お兄?」

「お~、舞か? お前こんなとこで何やってんだ?」

「それはこっちのセリフよ! お兄こそ何やってんの⁉ その首どうしたの⁉」


 椅子に腰かけていたのは、首に大きなコルセットを巻く兄の優樹だった。

 

「あ~これか。車溝に落ちてむち打ちになった」

「えっ⁉ お兄車壊したの⁉」

「いやいや俺の車じゃない。霧崎が運転する車」

「ええっ⁉」


 久しぶりの兄に思わぬ所で出くわした舞だったが、思わぬ状況に喜ぶ間もなく驚くだけだった。


「大丈夫なのお兄⁉ 首の骨折れたんじゃないの⁉」

「んなわけねぇだろ? ただのむち打ちだ。ちょっと痛いって言ったらこれ付けられただけだ」

「そ、そうなんだ……」


 見た目はかなり痛々しいが、普段以上に落ち着く優樹に、舞は胸をなでおろした。


「それよりお前は何してんだ? 調子悪いのか?」

「ううん、違うよ。入院してる先輩のお見舞いに来ただけ」

「あ~、さと……部活の部長だっけ?」

「え? ……あ、あぁ……うん。そう」


 何故か言い直した優樹を疑問に思った舞だったが、チラリとサイドに目配せをする視線に、両脇に座る男性が警護だと気付き言葉を合わせた。

 

 舞と優樹は、佐藤を階段から転落させた事件については、知られることは無くとも互いの胸の内に秘めておくという約束をしていた。そのため、優樹は佐藤の事は妹の部活の部長くらいしか知らないという立ち位置だった。しかし突然強張り、歯切れが悪くなった妹を桜井たちに勘ぐられるのを嫌がった優樹は、咄嗟に話題を変えることにした。


「あれ? でもお前今日学校は?」

「え? あ、うん、今日は爆弾が学校に仕掛けられてるかもしれないから、休みになった」

「へぇ~、そうなんだ。良いな~学生は。あれ? でもお前家出ても良いのかよ? 普通そうなったら家にいろって言われないのか?」

「え……う、うん。本当は駄目だって言われてる……」

「やべぇなお前。不良だな」

「だって先輩の誕生日今日だったから仕方ないじゃん!」

「いや別に怒ってるわけじゃねぇから」


 優樹の機転で舞からは緊張が消えた。すると舞の頭の回転が戻り、聞きたいことがたくさん出てきた。


「そういえば霧崎さんは? 霧崎さんが事故起こしたんでしょう?」

「あぁ。病院着くまで大丈夫だったけど、診察受けたら急に首が痛いだの背中が痛いだの言い出して、今検査受けてる」

「えっ! それ大丈夫なの?」

「あぁ。あいつ丈夫だからほとんど病院行ったことないらしいんだよ。だから多分注射とか消毒液の臭いとかで、大怪我したと思ったんじゃね?」

「そ、そんな子供みたいな理由で……?」

「そう。歯医者の音とかが嫌いな小学生みたいな感じ。だから特に何ともないと思うぞ」

「そ、そうなんだ……」


 優樹の言っていることが本当かどうかは分からないが、霧崎の意外な一面に舞は少しあっけにとられた。


「でもなんで事故にあったの? まさか今日の爆弾騒ぎのせい? なんかいっぱいパトカー走ってたし」

「いや違う、って言うか事故ではない。普通にバックしたら落ちた。あいつ運転下手くそだから」

「そ、そうなんだ……」


 犯人を追跡したなどと言えば舞に余計な心配が掛かると思った優樹は、冗談を話すように軽く答えた。それを知らない舞は、ただただ霧崎へ抱いていたイメージが悪化していくだけだった。


「それでお兄。お兄はいつ帰ってくるの?」

「え? あぁ……それはちょっと分かんない。だけど後一か月もしないと思うぞ」

「……そう」


 舞としてはやはり兄には家に帰ってきてほしかった。兄がいない家はまるでゲーム機がなくなったかのように退屈で、時折除く兄の部屋を見るたび寂しさがあった。

 それに対し優樹も、早く自宅へ戻りたかった。そしてあの後鎌田たちがどうなったかは不明だが、動きから事件は終盤を迎えていると考えており、この発言だった。


「うん、分かった。じゃあ私そろそろ行くね」

「あぁ。お前ら何階に居るんだ?」

「え? 四階の東棟だけど?」

「一応帰るとき連絡寄こせ。もし帰るときまだ俺たちがいたら一緒に家まで送って行ってやる」

「え? でも車溝に落ちたんじゃないの?」

「落ちたのは霧崎のだけだ。桜井さんたちの車あるから」

「え、でも私一人だけじゃないよ?」

「分かってる。どうせ佳代たちもいるんだろ?」

「うん」


 佳代は恋心から接触が多かった。そのため気持ちに気付かなくとも、優樹にとっては三人の中で最も強く佳代の印象が残っていた。


「ワゴン車があるから大丈夫だ。構わないっすよね桜井さん?」

「あぁ。多分この調子じゃ今日は夜まで掛かるだろうからな」


 桜井はそう言うと優しい表情を舞に見せた。それを見て舞は、あの一件以降体つきの良い男性に対し少なからずとも抱いていた恐怖が和らぎ、桜井に対し少しだけ親近感を覚えた。


「まぁそういう事だから、帰るとき一応電話してくれ」

「分かった! じゃあ行くね」

「あぁ」


 桜井の笑顔のお陰で気持ちが和らいだ舞は、久しぶりの兄との再会に喜び、軽い足取りで去って行った。そして病室へ戻ると兄に再開したこと、帰りに送ってもらえる可能性を皆に打ち明け誕生日会を楽しんだのだが、その時間はそう長くは続かなかった。


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