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魔法人  作者: ケシゴム
一章
44/69

ピンチ

「うわっ! 何あれ!」


 その日、舞はブラスバンド部元部長の佐藤の誕生日を祝うため、順子たちと共に佐藤が入院する病院を訪れていた。


「やっぱり今日はマズかったんじゃないの舞?」


 この日、再び学校に爆弾が仕掛けられる可能性があるとして、舞たちの学校は臨時休校となっており、学校からも今日一日は外出してはいけないと言われていた。


「で、でも、ここまで来ちゃったし、それに部長の誕生日今日だし……」


 舞たちはこの日のために、佐藤を喜ばせようとプレゼントまで用意して準備をしていた。しかし病院の前に着くと、そこには救急車やパトカーが並び、体調の悪そうな人々が次々運ばれていた。そしてそれをカメラに収めようとマスコミまで集まり、病院の前は大勢の人で溢れていた。


「どうする舞……?」

「う~……ん」


 学校からの外出自粛を無視している罪悪感と、病院前の騒然としている状況に、舞たちは気圧された。


「明日に、する? 先生とかいたらヤバいし……」

「でもケーキってあんまり賞味期限長くないんじゃないの?」

「そうだけど……一日くらい冷蔵庫に入れとけば大丈夫だよ」

「でも折角買ったケーキだよ? 部長の誕生日だし美味しい方が良いよ」

「そうだけど……あんなにマスコミとかいたら声とか掛けられるんじゃないの?」

「……じゃあ一人ずつこっそり入る?」

「う~ん……どうする舞?」


 引っ込み思案な三人だけあって、マイナス思考でなかなか踏ん切りがつかなかった。当然舞も同じような思考が頭の中をぐるぐる回っていた。しかし三人の会話を聞いているうち、このままではいけないと思った。


「行こう。多分運ばれてる人たちは事件のせいで怪我したんだと思うけど、それが原因で部長の誕生日お祝いしないなんてやっぱり駄目だよ。それじゃ私たちまで犯人に負けたことになるもん」


 学校の先生がいたら、入り口でマスコミに声を掛けられたらなど、臆病な舞には諦めるに十分すぎる理由だった。しかし順子たち三人に託された事で、ここで逃げていてはいつまでたっても自分たちは駄目なのだと思った。

 それは順子たちも自覚していた弱さだっただけに、リーダーである舞がそう言うと嬉しさに似た感情が沸き上がり、三人は分かったと力強く頷いた。


「じゃ、じゃあどうする舞? 一人ずつ行く? こっそり行けば声掛けられないで入れるかもしれないよ?」


 覚悟を決めた順子だったが、そうそう強くはなれるものではなく、力を与えてもらうように舞に訊く。


「ううん。全員で堂々と行こう。別に私たち悪い事してるわけじゃないから。行こう」


 胸を張り言う舞は、順子たち三人の顔を確認すると答えも聞かず引っ張るように歩き出した。

 その威風堂々とした背中に、順子たちは心強さを感じ、そしてまたやはり舞は頼れるリーダーなのだと嬉しくなった。


 舞を先頭に歩く四人は、佐藤へ渡すプレゼントやケーキを持ち、自分たちは見舞い客なのだと言わんばかりに恐れることなくマスコミが犇き合う入り口を目指す。すると次第に四人には自信が沸き上がり、人垣の前に来たときにはまるで自分たちは大人の女性になったかのような気分にさせていた。


 そんな自信が舞に力を与えた。


「あ、すみません。通ります」


 強く成長した舞は、人垣を前にしても足を止めず、手を切りながら通してくれと先陣を切る。声を掛けられた女性は「あ、すみません」と道を譲る。


 その姿はさながら敏腕秘書のようで、後ろを歩く順子たちはその背中に憧れすら抱いた。

 そんな中だった。舞たちがもう間もなく人垣を抜けるというところまで来ると、スーツを着た女性が「ご家族の方ですか?」と声を掛けてきた。これに舞は驚きはしたが「違います」とはっきりと答えた。

 それを見て順子たちは、流石は舞だと感心した。すると女性は「少しインタビューしても良いですか?」とマイクのような物を向け尋ねた。

 

 順子たちは当然舞は「無理です」と一蹴しカッコ良く去るのだと思っていた。いや、この時には既に“舞がいれば人混みなんて大した事なかった”と中に入ったくらいの気持ちだったはずだった。ところが……


「え……」


 舞はマイクを向けられると突然硬直してしまった。そして追跡ミサイルのようにマイクを追ってカメラが向くとオロオロし始めた。その姿は順子たちに口を開けてしまうほどの衝撃を与え、突然のリーダーの動揺に順子たちはもうどうする事も出来ず、捲し立てられるように質問され戦々恐々とするリーダーを眺めるしかなかった。


「高校生ですか? 今日は誰のお見舞いにいらしたのですか?」

「え……え……」


 今この場での画が欲しい女性リポーターは、舞が足を止めたチャンスを逃さぬよう畳みかけるように答えやすい質問をぶつける。


「最近頻発する爆発物予告事件についてどう思いますか?」

「え……」

「生活などに何か影響はありましたか? 困っている事とかありませんか?」

「え……」


 舞の動揺する姿に、女性リポーターはまともな答えは返ってこない事など分かっていた。それでも何かひと言が欲しかった。そんな女性の圧に舞はどんどん委縮していった。しかし順子たちはここまで自分たちを引っ張ってきてくれた舞なら、必ずこの窮地を脱してくれると信じていた。そう思っていたのだが……


「学校からは今起きている事件について何か注意はありましたか?」

「ぁ……」

「部活が休みになったり、授業が早く終わったりしたり、そういう事でも良いですよ?」

「あ……その……」

「先生は何か言っていましたか?」

「……わぁっ! 逃げるよみんな!」

「えっ⁉」


 女性の質問攻めに一体どう答えるのかと順子たちが見つめていると、舞は突然そう叫び自分たちを置いて一人で病院内へと走り去っていった。その光景はまさに衝撃で、女性リポーターさえも数秒間呆然としていた。

 このピンチにいち早く反応したのが最後尾を歩く瞳だった。瞳は誰よりも早く自分たちの危機を察すると「わー!」と声を上げ順子と佳代の背中を強引に押し、二人を盾にして突破を図った。すると二人は瞳のお陰で即座に危機を理解し「わー!」と奇声を上げ舞を追いかけた。

 これにより順子たちは辛くも危機を脱し、無事病院内にいる舞と合流する事が出来た。

 

 これを機に、順子たちの中で頼れるリーダーの舞は、少し降格してしまった。

 趣味になってしまったためこの二週間は遊び惚けていました。その結果が今話です。最後は強引にねじ込みました。


 小説を書くのに必要なことは、何でもいいからとにかく埋める。そうおっしゃっていた方がいます。とにかく埋めたらこうなりました。これって正しい名言なんですか?

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