火事
「おい! 今度はゴミステーションで爆発があったらしいぞ!」
優樹がテレビを見ながら叫ぶ。それを聞いて窓の外を覗いていた霧崎が駆け寄る。
「どこのだ!」
「五丁目のコンビニの裏の通りあるだろ! 多分あそこから少し市立病院に行ったとこだ!」
駅前で爆発があってから一時間が経った。この頃には三発の爆弾が爆発しており、街中にはパトカーのサイレンが鳴り響き、上空には局のヘリコプターが飛び回っていた。
「坂口さんと連絡はまだつかないのか霧崎!」
「ダメだ。藤原さんにも掛けているが全く繋がらん」
「くそっ! 警察は何やってんだよ!」
一回目の爆発で報告したとき以降、既に霧崎たちには連絡の一つも無かった。そのため霧崎たちはテレビで情報を得ることしかできず、一般人と同じ状態だった。
「おい霧崎! もう直接警察署に行くしかないぞ!」
「それは駄目だ! 待機しろと指示されてる! 勝手に動いていざ指示が来たらどうする気だ!」
「んなこと言ったってよ! これじゃあどうにもなんねぇよ!」
目の前の駅で爆発があったが、これも罠かもしれないと、坂口は霧崎たちに一歩も外へ出てはならないと指示をしていた。
「どのみち俺たちが行ってもどうにもならん。それどころか俺たちが行って二次災害にでもあってみろ、それこそ迷惑だろ」
「そりゃそうだけどよ……」
未だ爆発は続くものの、電車は止められ、駅前には既に警察が到着しており安全は確保されていた。
「でもこの勢いじゃまだまだ爆発するぞ? せめてあっちのホテルに移って警護しようぜ?」
「何を言ってるんだお前? 俺たちがあっちに行ってどうする?」
「いやだってよ、鎌田たち来たらどうすんだよ?」
「来るわけないだろ! 駅前の警察の数を見ろ! 何故わざわざ今来るんだ⁉」
突拍子もない優樹の言葉に、霧崎は何を考えているのか分からなかった。
「だからだよ。今こそチャンスだと思わないか?」
「思うわけないだろ! 今頃ホテルの中は厳戒態勢だ! それともそれは俺たちがホテルに入るという意味か⁉」
「ちげぇよ! 元々俺はあのホテルに泊まってたんだぞ? 鎌田たちに決まってるだろ!」
「鎌田たちがそんな間抜けのはずないだろ!」
そこには深い意味が込められているのだとは感じていたが、優樹が何をしたいのかが霧崎には全く分からなかった。しかしそれは仕方が無かった。優樹は何か発見があるかもしれないという前提はあったが、騒ぐ街を見つつ、ついでに家の様子も確認したいという考えの方が大きかったからだ。
そんな状態の二人は意見が合わず、しばらく押し問答をしていた。そんな中、優樹の携帯電話が鳴った。まだ霧崎との話が終わっていない優樹は出る気は無かったが、着信相手が妹の舞だったことに通話ボタンを押した。
「おう、どうした?」
“お父帰って来たよ”
「そうか」
“うん。お兄の方は大丈夫なの?”
「あぁ。俺の方も外出んなって言われてるから」
“そうなんだ”
妹の声は落ち着いており、父が帰宅したことも聞いて優樹は一安心した。
“それでお兄はいつ帰ってくるの?”
「え?」
ある程度事件が落ち着かなければ帰れない事を知っている舞の質問に驚きはしたが、直ぐにそれが本音だと分かると、舞も本当は心配で仕方がないのだと優樹は悟った。
「あぁそれか。まだしばらくは無理だ」
“そうなんだ……”
少し寂しそうな妹の声に、優樹は家が恋しくなった。そんな気持ちが窓から見える空に視線を送ったのだが、そこで異変に気が付いた。
ふと見た窓の下から昇る少し黄ばんだ煙。最初は電話に集中し、懐かしい家を思い出していてどこかの家の薪ストーブの煙か何かだとよく考えもせず見つめていたが、次第に煤臭さを感じ、その臭いにつられておもむろに下を覗くと電話も忘れ叫んだ。
「火事だ!」
その声に部屋の中どころか、駅前に居た警察までもが反応し、至る所で『火事だ!』という声が上がった。
火は家の裏側に放置されていた木製の梯子や漬物樽から上がっており、高さはそれほど出ていないが既に真っ赤になるほど燃え上がっていた。
優樹は叫ぶとすぐさま消火するため階段を駆け下り、台所へ向かった。そしてバケツを取り出すと水を全開で貯め、それを持って外へ飛び出した。しかし到着したときには既に火は優樹の身長ほどの大きさになっており、バケツの水一杯掛けたところで雀の涙ほどの効果しかなかった。
そこへ桜井たちが風呂場からホースを引っ張りながら出て来た。だがホースは短く、水は虚しく空を切るだけだった。
こうなると優樹たちはパニックになるしかなく、家中の蛇口という蛇口を捻り水を出し、駅前の警察官たちが駆け付けても火は大きくなる一方で、結局霧崎が呼んだ消防が駆け付け鎮火したときには壁一面を焦がす大惨事となった。
「――どうすんだよこれ? 家の周りには燃えるものを置かないのが基本だろ?」
鎮火し、消防隊員が安全確認をする様子を見ながら、優樹は言う。
「そんなことは分かってる! 大体お前が煙草を吸うからいけないんだろ!」
「なんで俺のポイ捨てが原因みたいに言ってんだよ! 俺たちはちゃんと台所行って、換気扇回しながらルール守ってたんだぞ!」
優樹以外にも煙草を吸う者は数名いた。彼らは身分をわきまえ、きちんと分煙を心掛け、台所以外では喫煙せず、吸い殻も水に浸して消火し、オアシスを常に清潔に管理していた。そのため霧崎自身も彼らの煙草が原因だとは思っていなかった。
「じゃあ何が原因だ?」
「っんなのあいつらがやったに決まってんだろ!」
「何のためにだ⁉ お前証拠もなしに人を疑ったらダメだろ!」
「何庇ってんだよ!」
草臥れた梯子や樽を放置していたことは事実だが、そこから突然火の手が上がるにはあまりにも不自然だった。そして気付いた時にはかなりの大きさだったことから、霧崎も薄々鎌田たちが火を放ったのではないかと思っていた。しかし理由が分からなかった。
「でもそれ以外考えられないだろ? それともあれか? 自然発火って言うのか?」
「いや、そうは言っていない。でも鎌田たちがここに火を付ける理由が分からん」
「爆弾騒ぎのついでかなんかだろ? 俺たちが見張ってるの知ってますって」
「そんなわけないだろ! 俺たちが張り込みしているのをどうやって知ったんだ⁉」
「バレバレじゃねぇか! 窓全開でぼ~っとしてるし、桜井さんたちなんてスーツ着て家の前とか掃除してんだぞ!」
「そんな理由でか⁉」
「十分な理由だよ!」
最初はきちんとカーテンを閉め、望遠鏡でドラマのように張り込みをしていた。しかし何も起こらない日々が続くと次第に適当になり、本日に至っては普通に秋の風を楽しむかのように窓は全開だった。何より桜井たちは意外と綺麗好きだった。そして近所づきあいも上手く、極めつけが普通に黒塗りの車を家の脇に駐車していた。
「まぁでも、多分本命はこの騒ぎに乗じてホテルにでも侵入しようとでもしたんだろ」
「そういう事か」
ホテルを見つめ言う優樹の言葉に、霧崎は納得だった。
「まぁそれも失敗だろうな。全然ホテルの奴は助けに来なかったからな」
「……だろうな」
これにも霧崎は納得だった。
「しかしこれどうするよ? 坂口さんになんて報告するんだ?」
「……鎌田たちにやられたと報告する」
「お前、証拠もなしに人を疑っちゃダメなんだぞ?」
「…………」
結局この火事は、怪我人もなく優樹のスマホも無事だったことから、放火の可能性がある不審火として処理された。だがこの日一番メディアを騒がせた事にはお叱りを受けた優樹たちだった。
しばらく投稿は中止します。なかなか次が書けないとか、試験勉強しなければいけないとか、日曜日まで出勤させられるとか、遊戯王の何のカード買おうか考えて風呂で体洗ったか忘れ二回洗うとか、そういった邪な理由ではありません。
本日帰宅すると突然家の猫が真っ直ぐ歩けなくなりました。病院に電話すると『今日はもう終わりだから無理です』と言われ、『明日も休みだから自分で何とかすれ』と言われ、実際投稿なんてしてる場合ではありません。しかし幸いそれ以外の症状はなく、痛がる様子も、口呼吸したり呼吸が荒いということは無く、今は香箱座りしながらウトウトしているので何とか大丈夫です。何より奴はこっちが気を使っても非協力的で、奴のペースに合わせ様子を見るしかありません。ですので、少し休養します。よろしくお願い致します。




