休校
“ジリリリリッ!”
いつもと同じ時間に目覚まし時計が鳴る。
“カチッ!”
いつものように少し乱暴に舞は目覚ましを止める。そしていつものようにスマホを開き、メールが来ていないかを確認する。
朝日の差し込む窓辺には、そよ風がカーテンをフワつかせ、だいぶ秋に近づいたはずなのに夏を感じさせた。
今年は、例年に比べ夏が長居をしていた。いつもなら制服を衣替えする生徒が増える時期だが、日中はまだまだ暑く舞もまだ半袖のブラウスだった。
朝は弱く、寒がりの舞にはタオルケット一つで眠れる日々は過ごしやすく、今日も朝からすっきりとした目覚めに、伸び一つでベッドから軽やかに抜け出した。そして登校する身支度を整え、朝食を終えても時間的余裕は十分あり、今日は何か良い事がありそうな予感がした。そう思っていた。
「舞、今学校から電話あって、今日は臨時休校にするから自宅待機して家から出ないでくれって」
「えっ⁉」
後は今日の占いを見て、登校するだけだった。そんな中、母からの言伝には、舞だけでなく父も驚いていた。
「どうして急に⁉ 昨日先生何も言ってなかったよ⁉」
「また爆弾が仕掛けられたんだって」
「えっ⁉ 今度はうちの学校に仕掛けられたの⁉」
「ううん、それは分からないみたい。どこかの公共機関だって言われたらしいから、一応安全のために学校お休みにするって先生言ってたわよ」
突然の事に、舞は呆然とした。そんな舞を他所に、母はちょっとした用事のように父に訊く。
「お父さんの会社は何も言ってこないの?」
「あぁ。今連絡してみる」
「危ないようだったら今日お休みしたら?」
「あぁ、分かってる」
父はそう言い残すと、携帯片手にリビングを出て行った。その普段とは違う日常に不安を感じ、舞もスマホを手に取ると母の事など忘れ、直ぐに順子たちへ連絡を取った。
“ブルルル、プルルル……もしもし”
「あっ、順子!」
“うん、おはよう舞”
「おはよう。それより順子んちにも学校から連絡あった?」
“うん、あったよ。今日学校休みなんだってね。どうする? 一応家から出るなって言われてるけど、誰んちで遊ぶ? 皆で集まって一緒にテレビ見ようよ!”
殺人犯がうろついていることに関しては恐れを感じていた順子だったが、至る所にマスコミの姿があり、テレビでは毎日自分たちが知る風景が流れる状況には、お祭りのような気分だった。
「何言ってんの順子! 爆弾が仕掛けられてるんだよ! 危ないからダメに決まってるじゃない!」
“落ち着きなよ舞。どうせまた嘘だよ。きっとどこかのDQNだよ。大体どこかの公共施設っておかしいじゃない?”
数日前の事件では爆発物は発見されなかった。そして妃美華たちは公には指名手配されてはいなかった。しかしマスメディアやネットで広がる昨年の事故について、不満を抱えた人間が警察に対し抗議や嫌がらせをするようになった。
そのことから順子は、今回もまた誰かの嫌がらせだと思っていた。
「道路だって公共施設! だから今日は危ないから外出たらダメだよ順子!」
舞は本気で怒っていた。それほど順子たちを心配していた。
“ハハハハッ! 確かにそうだね? 道路も公共のものだよね? でも施設かどうかは分からないけど”
「そ、そうだね……でも分かった? だから今日は大人しく家に居てよ?」
“分かったよ。じゃあ会話くらいはLINEでしよう?”
「う、うん、分かった。一応佳代たちにも連絡するから、後はLINEでね」
“分かった”
「じゃあね」
“うん。じゃあね”
多少気まずい空気になっても構わず順子を叱りつけ外出を避けるよう促すつもりだった舞は、思わぬところで空気が和んだことにホッとし電話を切った。そしてすぐさま佳代、瞳へと連絡を取り、二人にも外出しないよう注意した。
順子たちは、妃美華が以前の事故で姉の理利愛を亡くしたことを知っていたが、犯人であるということは知らなかった。妃美華は今回の事件に巻き込まれないようどこか遠い祖父の家にでも避難していると思っており、舞だけが全てを知っていた。それゆえに順子たちが、今自分たちの住んでいる街で殺人事件が起きていても、祭り事のように楽しんでいることを責められなかった。
それは舞にとっては良い事でもあり悪い事でもあり、ずっと一人でどうしようもないストレスを抱えていた。
電話を終え、ソファーに深く腰を下ろすと、そんな蟠りで舞には大きなため息しか出なかった。
「あれ?」
一息つくと、テレビではいつも見ている占いが終わり、今流行りのスウィーツに付いて番組が流れていた。普段は見ることができない画面は、とても新鮮で休みという感じがしたが、ふと気付くと父の姿は無かった。
「お父どうなったの?」
「一応会社に来てくれって言われたみたいで、仕事に行ったよ」
「ええっ⁉ 大丈夫なの⁉」
「大丈夫よ。お父さん車だし、危ないと思ったら会社だって休みになるはずだから」
「はずだからって……」
母も順子同様、今起きている事は自分たちには関係ないと思っているようで、落ち着いた様子で食器を洗っていた。
そんな姿が舞の不安を大きくさせた。
「それより舞。今日は休みなんだから早く制服着替えてきなさい」
「分かってるよ」
そう言い舞は自室へと戻ったのだが、部屋に入っても着替えることはせず、電話を掛け始めた。
“プルルル、プルルル……あん? なんだよ舞?”
電話の相手は優樹だった。
「あっ、お兄! いま話ししても大丈夫!」
“あぁ。それよりなんだよ?”
面と向かって会話するときは優しい口調の優樹だったが、こちらから電話を掛けた時は何故か淡白で言葉遣いが悪かった。それは舞が慌てているこんな時でも変わらなかった。
「爆弾が仕掛けられたって聞いて、それで私今日休みになったの」
“あぁ、それで?”
「それでお兄、どこに仕掛けられたとか分かんないの!」
“あぁ。俺たちの方にも連絡あったけど、どこかとしか聞いてない”
「お父仕事行ったけど大丈夫かな?」
“多分大丈夫だろ? 車だし。それに今警察もパトカーで爆弾が仕掛けられたみたいな事言って走り始めたし、会社に行くくらいなら大丈夫だと思うぞ?”
今回の脅迫は、宣言通りマスコミも通して送られた。そして『今回は嘘ではない』という言葉と、曖昧な場所という脅迫に警察も大々的に動かないわけにはいかなかった。
「でも公共の施設って聞いたよ! もしお父巻き込まれたらどうしよう!」
“大丈夫だよ。大体鎌田たちは無差別に人を殺す奴らじゃないから、今回もどうせハッタリだよ”
この時優樹は、嘘ではない可能性は十分あると思っていた。しかし鎌田たちが信念をもって無差別攻撃はしないと認めており、例え爆発しても誰も傷つかないよう考え、威嚇として爆発させると思っていた。
それを口に出さなかったため、舞には真意は伝わらなかった。
「そんないい加減なこと言って、もしお父が死んだらどうするの! ねぇお兄から警察に頼んでお父家に帰すよう言って!」
“ん~……分かった。頼むだけ頼んでみる。だからお前は絶対家出んなよ? お父帰ってきたら電話すれ”
「分かった!」
舞の思い過ごしだとは分かっていた優樹だったが、このままでは舞までもが家を出そうな雰囲気に承諾した。
「じゃあ電話切るね?」
“あっ! ちょっと待って舞!”
「何?」
“今日か明日かは分かんねぇけど、近い内に霧崎が家行くからさ、そん時switch渡して欲しいんだよ”
「はぁ?」
今この時においては、舞にとって本当にどうでも良い話だった。それでも懇願するかのような兄の声には、断ることができなかった。
「カセットは?」
“カセットは良い、全部入ってるから。だからそのまま渡してくれればいい。それと、もし舞がいない時に行くかもしれないから……”
その時だった。突然電話の向こうから爆発するような音が聞こえ、会話が中断した。
「どうしたのお兄!」
電話口からはすぐそこという感じではなかったが、問い掛けても返事はなく、『何が起きた!』という騒ぐ声が聞こえ、まさかと思った。
「お兄! まさか爆弾が爆発したの! ねぇお兄返事して!」
叫んでもパニックが起きているのか、優樹は直ぐに返答しなかった。それでも少し待つとガサガサというスマホを乱暴に扱う音が聞こえ、慌てた声が返って来た。
「ねぇお兄! 何があったの!」
“爆弾だ! 爆弾が爆発した! 多分鎌田たちが仕掛けたやつだ! 自動販売機に仕掛けられてた!”
電話の向こうは相当慌てているのか、優樹が叫ぶように応える声で話していても、騒然としているのが分かるくらい雑音が酷かった。
「大丈夫なのお兄!」
“ああ! 俺たちは大丈夫だ! それより舞! お前は絶対家出るな! 今お父に家に帰るよう連絡するから家に居ろ!”
「爆弾の方はどうなったの! お兄本当に大丈夫なの!」
“ああ! 大丈夫だ! とにかく今忙しいから電話切るぞ!”
「あっ!ちょっと待って! お兄……」
“とにかくお前は家に居ろ! そんでお父が帰ってきたら電話しろ! 分かったな!”
「うん、分かっ……」
そこまで言うと、電話は向こうから切れた。舞としてはまだまだ聞きたいことがあったのだが、電話が切れる間際にパトカーのサイレンが聞こえ、向こうは今それどころではないのだと分かると、折り返し電話を掛けることができなかった。
それが舞には不安しか与えず落ち着かなかったのだが、今自分に出来ることなど兄の言いつけを守ることくらいしかできず、父が無事に帰宅するのを祈り待つだけだった。
その間テレビでは今起きた爆発が緊急報道され、第二第三と起きる爆発に、テレビの向こうの街は舞が知る世界とは別の物になっていた。
この話を書いていると、小説を書くのを辞めてしまう人の気持ちが良く分かります。もうプロットは役に立たないし、長いし、優樹やる気ないし。この先どうなるんですか?
この先、妃美華たちの動きをメインにしながら、優樹目線で話を書くつもりですが、絶対優樹負ける感が凄いです。神よ降りてこい!




