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魔法人  作者: ケシゴム
序章
4/69

フィギュア

「あ、これ見て。リリアとヒーの私服バージョンのフィギュア出たんだって」

「えっ!? それホント!?」

「うん」


 ある休日、今日はブラスバンド部の活動も休みで、舞は友達を自宅に招き寛いでいた。


「うわ、可愛い。それいくらするの?」

「二つで一万九千八百円だって」

「え~。欲しいな~……」


 舞は魔導の世界というアニメのファンだった。このアニメは魔法を主題としており、特に舞はそこに登場するリリアとヒーという双子姉妹の魔導士キャラクターが大好きだった。


「またお兄ちゃんに頼んでみれば?」

「駄目だよ。私先月服買ってもらったし。あんまりお兄に迷惑掛けたくないもん」

「あ、そうだったね。でも良いな~。舞のお兄ちゃんは優しくて」


 舞には六つ上の兄がいた。兄は高校卒業後地元の建設会社へ就職し、実家から通勤していた。

 兄とは幼い頃から仲が良く、兄は舞を可愛がっていた。舞も兄を慕っており、ファンタジーが好きになったのも兄の影響が大きかった。


「でもこのフィギュア限定品だよ? すぐ買わないとあっという間に高くなって手に入れづらくなるよ?」

「そうだけど……でも二万だよ? さすがにお兄だって無理だって言うよ」

「でも今買っておけば、後で何万にもなるんだよ? そしたら後で売って返せるじゃん!」

「転売するために買うんじゃないから!」


 友達と話すいつもの些細な談笑だった。舞自身アニメは好きだったもののフィギュアにはそれほど興味はなく、魅力こそ感じていたがこの時は話を盛り上げるため合わせていた。


 それから数日たったある日。


 夕食後、新作のゲームを買うという兄から「ドライブがてら一緒に行かないか?」と声を掛けられた舞は、近くのおもちゃ屋へ来ていた。


「わりぃ、待たせたな舞。ん? それ魔導の世界のリリアとヒーか?」

「え? あ……うん」


 兄が買い物中、一人で店内を歩き回っていた舞は、先日友達から聞いたフィギュアを見つけ眺めていた。


「へぇ~。結構マイナーなアニメだと思ってたけどフィギュアとかあったんだ。でもそんな恰好だったか?」

「私服バージョンなんだって」

「へぇ~」


 仲の良い二人は、興味が無くても真似をするようにソファーで肩を並べてアニメを見る事が多々あった。ただ兄はそれほど魔導の世界には興味はなく、大まかなあらすじやキャラクターは知っていたが舞ほど詳しくはなかった。


「流石に二体並ぶと結構カッコいいな?」

「うん! だって双子だもん。そりゃそうだよ?」


 自分の事では無いが、自分の好きなアニメが慕う兄に褒められるととても嬉しかった。そして兄の反応から、おねだりすればもしかしたら買ってもらえるかもしれないという期待が舞の声色を明るくさせた。

 この時兄も、妹が目を輝かせてフィギュアを見つめる姿に、買ってあげたいと思っていた。が……


「これいくらすんだ? ……うわっ! 高っ! 舞、こりゃちょっと無理だわ。買ってやろうと思ったけど勘弁して?」

「別に買ってなんて言ってないよ? ただこんなのもあるんだって見てただけ」


 幼い頃からずっと近くで妹を見続けて来た兄には、舞のこの言葉の裏にある残念さは言わなくとも伝わった。しかし兄なりに舞を甘やかさないよう月に与える金額は一万円と決めており、心を鬼にした。


「あ、でも……一体だけなら一万か。……どうする舞?」

「えっ!? ……でも」


 いくら心を鬼にしても、舞に対しては鬼になり切れないのは兄の悪い癖だった。そんな兄だからこそ、思春期を迎えた舞でさえ未だによく懐いていた。


「どうする?」


 本心を言えば、出来れば二体一緒に! そう思う舞であったが、兄の懐事情や金額が金額だけに舞は悩んだ。何よりこのフィギュアは二体揃てこその価値があるだけに、なかなか答えが出せずにいた。


「両方はだ……」

「駄目!」

「え~! でもこの二人仲良し姉妹だよ? 一緒じゃなきゃ可哀想だよ?」

「おめ~こいつらは一緒でも、二つ買ったらこっちが破産するわ!」

「え~。でも片方だけ買ったら、お菊人形みたいに夜泣いちゃうかもしれないんだよ?」

「んな気持ちわりぃフィギュアなら誰も買わないだろ!」

「ハハハ、そうだね?」


 二人は仲の良い兄妹でもあり、冗談を言い合える友達でもあるような関係だった。そんな兄を舞は好きで、兄もまた舞を好きだった。


「で、どうする?」

「ん~……やっぱ二つ一緒はだ……」

「駄目! そんなに欲しけりゃ半分出せよ」

「え~! 私三千円しかないよ……」

「じゃあ残りの一体はお前が働くようになってから自分で買えばいいだろ?」

「え~。それまでこの二人バラバラになっちゃうじゃん」

「それで良いんだよ。人間そうやって離れ離れになってお互いの有難み知るんだから。これも勉強だ」

「フィギュアなのに?」

「フィギュアなのに」


 そういうと二人は笑った。


「じゃあ決めた! ヒーの方買って!」

「え~。俺リリアの方が好きなんだけどな~」

「じゃあヒーは私に買って、リリアはお兄が買えばいいじゃん」

「え~! ……まぁ良いか。それより早く帰ろうぜ。ほら店員さん呼んで来いよ」

「うん! じゃあちょっと待ってて!」


 こうして片方だけだが優しい兄からプレゼントされた舞は、フィギュアを手に入れた。しかしこれが舞の欲望のタガを外し出すとは、この時兄も夢にも思わなかった。

 

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