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魔法人  作者: ケシゴム
一章
39/69

脅迫

「なぁ?」

「…………」

「なぁ?」

「なんだ?」

「なんだじゃねぇよ! もう三日目だぞ! 本当にここに居んのかよ!」


 張り込みを開始して三日が過ぎた。この頃には皆家にも慣れ、生活基準も安定し始めていた。特に桜井たち警護班は、優樹と同じ屋根の下で寝食を共にすることで負担が軽減され、快適な生活を送っていた。


「あぁ、間違いない。だから気を抜くな」


 真剣なまなざしでホテルを睨みながら霧崎は言う。


 朝から晩まで交代でひたすらホテルを見続ける。協力的な桜井たちの助けもあり、担当する時間は短かったが、警察でも何でもない優樹にとっては地獄のような毎日だった。それこそ時折、何故自分はこんな事をしているのか分からなくなるほどで、妹の発見を汚した鎌田たちを懲らしめてやろうという気概は形骸も残っていなかった。


 本日もお日柄は良く、駅前には電車が停車する時には人の出入りがあり、それ以外は暇を持て余すタクシーが行ったり来たりしている。そこには大きな変化などなく、気概の失くした優樹にとっては一日中空を見上げている廃人がする行為と変わらなかった。


「お、もうこんな時間か。悪いが俺はそろそろ用事があって出る。新垣、後は任せたぞ」

「え~! お前ばっかズリィーよ! 俺も連れてってくれよ!」

「ダメだ。お前が行けば桜井さんたちも行かなければならないだろ」

「くっそ~!」


 霧崎には、坂口や新垣家への連絡などの雑務が与えられていた。そのため日に何度も出入りし、時に自宅で寝泊りすることもあった。優樹もそれを知っているのだが、霧崎がいないと買い物にも出られなくなるため、お留守番する小学生と変わらなかった。


「まぁいいや。帰りに遊戯王買って来て」

「ガキかお前は!」


 そんな状態が五日続いた――


「やいやいやいやい……」


 五日も経つと、晴れた日は外で遊びたい優樹は廃人と化していた。壁に寄りかかり、天井を見つめる時間が増え、遂には独り言のように奇声を上げるようになっていた。しかし優樹の事を良く知る桜井たちは特に気にする様子はなく、こうやって人は廃れていくのかと感心するほどだった。

 そこへ霧崎が帰って来た。


「お疲れ様……おい、何をしている新垣?」

「やいやいやい……何って、本能の赴くまま体を預けてた」

「何を言ってるんだお前?」


 普通の人間なら末期だと分かる言動だったが、優樹の事を変人だと思っている霧崎にはいつもの奇行に見え、とても健康的だと思った。


「まぁいい。それより皆さん集まって下さい。鎌田たちに動きがありましたので報告します」


 同じことを繰り返す毎日で嫌気がさしていた優樹は、これを聞くと目を輝かせて飛びついた。


「本当かそれ!」

「あぁ。だからそのやいやいを止めろ」

「あぁ、大丈夫だ! 早く話せよ!」

「それは桜井さんたちも集まってからだ」


 桜井たちはあくまで優樹の警護が仕事であり、捜査とは無関係だった。だが警護の面で鎌田たちの動きは非常に重要だった。何より優樹同様、暇を持て余していた桜井たちにとっても新たな刺激は喜ばしく、声を聞くとあっという間に霧崎を中心に円陣ができた。


「それで、動きっていうのはなんなんだ?」


 桜井たちが集まると、催促するように優樹が訊く。


「今朝、鎌田たちから小学校に爆弾を仕掛けたという脅迫電話があったらしいです」

「爆弾⁉ どこの学校だよそれ⁉」

「南小と○○小、それと中央小だ」

「マジかそれ⁉ で、その爆弾は見つかったのかよ⁉」

「少し落ち着け新垣。まだ話の途中だ」

「あ、あぁ……すまん」


 五日も外界から隔離された状態にいた優樹には他人の庭の話に聞こえ、ほとんど野次馬だった。霧崎はその感情には気付いていたが、奇行に走り出した優樹の気持ちを察すると咎めるようなことはしなかった。


「今警察が犬も使って捜査しているらしいですが、今のところ爆弾が仕掛けられているような形跡はないそうです。ただ相手はインビジブルを使いますから何とも言えない状況です。生徒や教師たちは避難しているようですから、万が一爆発しても怪我人が出るようなことは無いと言っていました」


 それを聞くと、全員の表情から緊張が取れた。そして“一部”の人間は少し残念そうな表情に変わった。それを霧崎は不謹慎だと思ったが、優樹だけではなかったため何も言えなかった。

 そんな霧崎を他所に、優樹が訊く。


「でもなんで鎌田たちはそんな事したんだ? いよいよ手あたり次第やり始めたのか?」

「いや、これも計画的だ。今仕掛けたと言っている爆弾が本当かどうかは分からないが、爆弾のありかを知りたければ“匿っている人に記者会見を開かせ、そこで昨年の事故について真実を述べろ”という要求をして来たらしい。その上要求を拒めば“次は別の場所に仕掛け、マスコミを通す”とまで言ってきたらしい」

「マジか。もうほとんどテロだな」

「あぁ。記者会見に立たせる人間も名指ししているところを見ると、かなり情報収集能力も高いようで、お前の言っていた殺し屋と言い、下手をすれば大きな組織も絡んでいるかもしれん」

「それは~……もう俺たちの手には負えないな~」


 自分たちでさえ誰が匿われているのか知らされていないのに、それを探り当てた鎌田たちの後ろに大きな組織がいると聞いてマフィアを想像してしまった優樹は、一気に恐怖に襲われた。そして、できれば自分とは関係ない他所でやって欲しいと思った。


「で、どうするんだよ俺たちは? まさか警察と一緒に行動すれとか言われてないだろうな?」

「それは無いから安心しろ。特に坂口さんからの指示は無い。今まで通りあのホテルを監視していればいい」

「そうか……」


 それを聞いてホッとする優樹だったが、また何もない日常が続くのかと思うと複雑な気持ちになった。


「報告は以上だ。何か質問はありますか?」


 報告が報告だけに、誰も手をあげなかった。ただため息だけが聞こえるだけで、霧崎がまた出ると言うとそれぞれが静かに持ち場へと戻って行った。


「じゃあ俺は戻る。今日はもう戻ってこないかもしれないから、任せたぞ新垣」

「え~! 戻って来いよ~! お前いないと暇なんだもん!」

「ガキかお前は! とにかく、ちゃんと見張っておけよ。何かあったらお前のせいだぞ」

「へいへい、分かりました。じゃあ明日来るとき、遊戯王買って来いよ」

「お前どれだけ遊戯王買えば気が済むんだ⁉ 破産するぞ!」

「まだ当たってねぇシークレットがあんだよ!」


 こうして優樹たちの任務は続く。


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