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魔法人  作者: ケシゴム
序章
3/69

コンビニ

「お~。なんか空気が美味しい」


 高校生である舞は深夜の外出は禁止されていた。そんな舞にとって深夜一時を回る外出は魅惑の果実のようだった。

 夜空には星が瞬き、天の川が透き通る空気を運ぶ。新月なのかはたまた今夜はここには顔を出してはいないのか月は無い。それでも晴天の夜空はとても明るく、生まれて初めてとも言える一人の空は舞には神聖に見えた。


 昼間とは違う気温、誰もいない道、静かな街。初体験に緊張しつつ舞は歩き慣れた道を恐る恐る進んだ。


「お~。コンビニってこんなに眩しいんだ……」


 辿り着いたのは近所のコンビニだった。舞はここで色々な実験をするつもりだった。しかし初めて一人で訪れた深夜のコンビニは、今まで何気なく入っていた建物とはまるで別物に見え、透明化しているのも忘れ舞は電柱の陰に身を潜めていた。


 ガランと開けた無人の駐車場、店内から眩しいくらいに溢れる光。青黒い夜空を背景に佇むコンビニはまるでオアシスのようだった。そしていくら探しても店内に一人しかいない店員の姿に驚きを覚えた。


“あ、今日はやっぱり止めとこうかな……でも……”


 財布も持ち、インビジブルが見破られる事は絶対にないと自負はしていた舞だったが、しばらく電柱の陰から葛藤する。

 そんな中、一台の車がコンビニに止まり、若い夫婦がまだよちよち歩きの子供を連れて店内に入って行った。そしてその親子が普段と変らず買い物を済ませ去り行くのを見ると、舞は意を決した。


“あんな小さい子でも普通には入れたんだから私だって大丈夫”


 こんな時間に小さな子供を連れてコンビニに来る親もどうなんだ? とは思った舞だったが、小さな子供が恐れも無く入店する姿に負けてはいられないと奮起した。


「ふ~」


 扉の前へ来ると舞は不安を取り除くように大きく息を吐き、一歩を踏み出した。


“ピンポ~ン ピンポ~ン”


 舞が扉の前へ立つと、センサーが反応して扉が開き、入店音が鳴り響く。


「いらっしゃいませ~」

「ひっ!」


 インビジブルの性質上センサーが反応する事は分かっていた舞だったが、悪い事をしているという自覚が思わず声を零した。しかし店員は棚の陳列でもしているのか、声を発したもののこちらへ様子を見に来るような素振りはなく、恐る恐るではあるが舞は店内へと歩を進める事ができた。


 深夜の店内は外の闇とは無縁のように明るく、何も変わらないはずの音楽が心地良く感じる。並ぶ商品も疲労を知らないかのようにいつもとは変わらない活力がある。自分と店員しかいない空間はとても解放感があり全てが新鮮だった。

 そんな店内で最初こそビクビクしていた舞だったが、直ぐに順応すると早速動き出す。


 まず舞が目を付けたのは、普段は人目を気にして手に取る事が出来なかったアダルト雑誌だった。


“あ、中見れないんだ……でもなんかエッチ。あ、こっちはパンツ見えてる!”


 テープがしてあり開くことは出来ないが、本を手に取り表紙を見ているだけでもドキドキした気持ちになった。


“うわっ! 高っ! 男の人ってこんなに高くても買うんだ……”


 自分が知らない世界を知るのは楽しかった。その楽しさが行動を大胆にさせる。


“あ、そうだ! 男子トイレ見て見よう!”


 特別舞は性への興味が強いわけではなかった。透明化と深夜のコンビニの解放感が興味を素直に受け入れていた。


“なんだ。女子と一緒か……でもなんかちょっと臭い!”


 良く知っているコンビニだが、今の舞にとっては遊園地にでも来たような気分だった。


“店員さんは何してるのかな? 見に行こう!”


 物陰から覗くと男性店員は商品棚を整理していた。それを見て舞はますます調子づく。


「あの、すみません」

「あっはい! 今行きます……あれ?」


 舞の元へ来た店員は声の主を探すように素通りしていった。そしてしばらく店内を駆け回ると足を止め首を傾げた。それを見て舞は口を押えて微笑んだ。しかし客を探す店員が再び声を出すと舞はハッとする。


「あの、お客さん、何処にいますか?」


 これを聞いた途端舞は一気に恐怖に襲われた。


「お客さん?」


 自分と店員しかいない店内。出口から遠い自分の位置。もし見つかれば大変な事になると思った舞はその場から動けなくなってしまう。

 それでも店員は声の主を探そうと店内を歩き回る。


「お客さん~」


 いくら店員が探そうとも舞しかいない店内では返事はない。それがまた舞の恐怖心を煽った。


「こ……ここです……」

「はい。今行きます」


 恐怖に耐えかねた舞は、店員が入り口付近にいるのを見計らいとても小さく返事をした。そして店員が駆け寄ってくるタイミングと合わせ逃げるように静かに入口へと進んだ。


「あれ? お客さん? どこにいます? お客さん?」


 この時舞は手が震えるほど恐怖していた。それでもなお返事をしてしまったため店員はまだ客がいると思い探し始める。

 そして扉を開ければセンサーが反応して入店音が鳴り響いてしまうせいで、舞は逃げ場を失ってしまった。


 その時間は舞にとって地獄だった。しかしそのタイミングで運良く車が駐車場に停車すると若い男性が降りて来た。

 生きた心地のしない舞は、男性が入店すると入れ替わりで店を飛び出した。九死に一生を得た舞は、心細さを抱え暗い家路を急いだ。


 この経験は舞にとって大きな影響を与えた。しかしそれは良い影響では無かった。これを機に舞はより慎重な行動を心掛けるようになり、悪戯はますますエスカレートしていく。


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