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魔法人  作者: ケシゴム
一章
27/69

素人

 その日、優樹は帰宅するといつものように入浴していた。


「お兄! 霧崎さん来たよ!」

「はぁ?」


 優樹にはある習性があった。それは、一週間を通してルーティーンのように決まった時間に決まった行動を取ることだった。

 平日の朝は六時半に起床し、トイレへ行き、顔を洗い、コップ一杯の水を飲み、着替えてから朝食を摂るというように、細かなものだった。ただ優樹自身は特に意識をしてそうしているわけではなく、まさに身に付いた習性だった。

 そのため、体内時計ではいつもの約束の時間にはまだ余裕があると思っていた優樹には、浴室の外で叫ぶ舞の声には一瞬疑いを感じるほどだった。


「霧崎さん! お兄今日も会う約束してたんでしょ!」

「え? あぁ……今何時だ?」

「五時四十分くらい!」

「えっ⁉」


 感覚がズレていたかと思った優樹だったが、舞の申告する時間と体内時計は二分ほどしか誤差がなく、突然の霧崎の訪問に何かあったのだと直感が走った。


「どうすんの?」

「あ~……約束は六時なんだよ。だからいつものコンビニで待ってろって伝えて。あ、それと、今日はブリトーがいいって言っといて」


 優樹は時間にはうるさかった。というのも、霧崎と会うことは既に優樹のルーティーンの中に組み込まれており、普段とは違う行動を取る霧崎の方が悪いと思っていたからだ。

 

「分かった!」


 結局霧崎は舞に追い返されると、いつもの時間に優樹とコンビニで落ち合う事となった――


「おい! お前何勝手に家来てんだよ! 約束守れよな!」

「あ……あぁ……すまなかった……」


 合流すると、開口一番怒鳴ったのは優樹だった。これには呑気すぎる優樹に腹立っていた霧崎も虚を突かれ、まさかの展開に圧倒されてしまった。


「すまなかったじゃねぇよ全く。で、ブリトーは?」

「あ、あぁ、買っておいた……」

「おぉ! サンキュー! お! 温かいコーヒーって、良く分かってんじゃん! やっぱブリトーは温かいコーヒーが一番合うな!」

「あ、あぁ……そうだな」


 ブリトーを渡すと、先ほどの怒りなどなかったかのように普段の穏やかな優樹へ変わった。それを見て霧崎は、優樹のたまに見せる良く分からない一面に、大きくため息をつくしかなかった。


「で、どうしたんだよ急に? 犯人でも見つかったのか?」


 優樹は怒ってなどいなかった。ただ霧崎がいつもと違う行動を取ったことを注意しただけだった。そのため霧崎からすれば人が変わったように普段通り接する優樹は情緒不安定に感じ、疲れが溜まってきているのだと思った。しかし普段からこうだとも思うと、やっぱり新垣優樹という男は良く分からなかった。


「いや、違う」

「じゃあなんだよ?」

「鎌田が今日帰国した」

「おお! まじか!」


 鎌田が帰国したことは、霧崎にとっては重大な報告だった。当然優樹にとっても最重要情報だと思っていたことから、霧崎は予定より早く優樹の家を訪れていた。そう思っていたのだが、優樹は鎌田が帰国したことを聞いてもブリトーを食べる手を止めることなく、ムシャムシャ口に含んだまま訊く。


「で、事情聴取したのか?」

「あぁ」

「おお! じゃあピストル出てきたのか!」


 これで鎌田から拳銃を押収できれば全てが解決する。そんな期待から優樹のテンションは一気に上がった。

 そんな優樹とは対照的に、暗い表情で霧崎が言う。

 

「いや。拳銃のけの字も出てこなかったらしい」

「えっ⁉」

「それどころか大量のトレーディングカードが出てきて、聞けばアメリカで開催されていた大会を見に行っていたらしい」

「ええっ⁉」

「どうやら奴は最近お前の言う遊戯王にハマったらしく、それが原因で仕事にも支障が出るようになって、遂には職場放棄したらしい」

「え~⁉」

「残念ながら鎌田は犯人じゃない」

「くそっ! 所詮素人の推理! でも仕方ない! だって遊戯王だもん!」


 あまりにも残念な結果だった。しかし遊戯王と聞いて、何故だか優樹は嬉しかった。


「でもあの百八十万の金はどうしたんだ?」

「お前の言う通りあの姉に借りたらしい」

「なんだよそれ。ならあの時あの姉ちゃん言ってくれれば良かったのに」

「まぁそうだな。しかし聞かなかった俺たちも悪い」

「そうだな……そりゃ聞かなきゃ答えないもんな……」


 残念過ぎる結果に意気消沈する二人はネガティブだった。


「坂口さんはなんて言ってんだ?」

「一応マークはしておくが、別の容疑者に的を変えて捜査を続けると言っていた」

「はぁ~……」


 完全に振り出しに戻った状況に、いつもなら切り替えて次へと進む二人だったが、さすがに落胆を隠せなかった。

 それでも霧崎は気力を振り絞るのだが……


「聞くか?」

「いや良い。今日はもうやめにしようぜ?」

「……そうだな」


 素人すぎる故、鎌田以外犯人はいないと思っていた二人には、そのショックは大きすぎた。それは気力を削ぐには十分すぎる程で、翌日二人は初めて情報交換をすることを休んでしまう程だった。


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