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魔法人  作者: ケシゴム
一章
20/69

コレクター

「なぁ?」

「…………」

「なぁ?」

「なんだ?」

「なんだじゃねぇよ。今日俺休みだぞ? なのになんでこんな格好までさせられて人ん家行かなきゃなんねぇんだよ!」


 ある日曜日。坂口からの依頼で、霧崎は優樹と共に行方不明者の自宅を目指していた。


「もしかしたら貴重な情報を得られるかもしれないんだぞ?」

「だったら本職行けや! なんで俺まで警察の格好させられなきゃなんねぇんだよ! わざわざ手帳まで作って、税金の無駄遣いだろ!」

「仕方ないだろ。そうでもしなきゃお前が一般人だとバレるだろ? あくまで失踪者の家族に普通の交番勤務が事情を聴きに行くという風にした方がいいだろ?」

「そっちかよ! なんで俺を連れていくが外れないんだよ! 完全にパシリだろこれ!」

「まぁそう言うな? やっと事件の真相に近づけるんだ」

「近づけるかよ! ただの失踪者だよ!」


 これは最近連絡係ばかりさせている霧崎に、モチベーションを下げさせないための、坂口が考えた“重要な”お使いだった。

 

「鎌田健次郎。二十八歳。職業は小学校教師だ。真面目で……」

「おいおい! 何勝手に話進めてんだよ! 俺行くとは言ってないぞ!」

「何を言ってんだ。お前それ着るのは喜んでたじゃないか?」

「おめぇがわざわざ注文したから着てやったの! なのになんで『ドライブ行くぞ』ってミニパト乗ったら急に行方不明者の家行くって、パチンコ行けや!」

「なんでこの格好でパチンコ行くんだよ! とにかくわがまま言うな! もうあっちでは行方不明者のお姉さん待ってるんだ」

「それはそっちの都合だろ! 知るかよ!」


 それを聞くと霧崎は埒が明かないと思いスイッチを入れた。


”ウゥゥゥ~ン!“


「分かった! 分かったよ! だからサイレン鳴らすな!」


 最近霧崎は、少し優樹の扱いに慣れてきていた。


 ――山沿いの細道からさらに山へ向かう町道。急な法面には蛇かごが詰まれ、街の景色は木々が隠す。そんな道を進むと教員住宅が並ぶ地区へと繋がる。


「着いたぞ。ここの東側二階だ」

「え? あ、あぁ……こんな所あったんだな」


 隣町と言えど、地元なら知らない道は無いと思っていた優樹だったが、初めて来る場所に少し驚いていた。


「あぁ。行き止まりだから地元の人くらいしかここには来ないからな、お前が知らなくても無理もない」

「そうだろうな。こんな場所用がなけりゃ来ないもんな。それにしても一ついいか?」

「なんだ?」

「なんでお前わざわざこの車の横に停めた? もうちょっと離せよ!」


 駐車した場所はトラックが旋回できるほど広いスペースがあり、そこに一台青いスポーツカーが停まっていた。優樹としてはその厳ついボディーに怖い所有者を連想し、真横に停めた霧崎にストレスを感じていた。


「いや、カッコ良いと思って」

「カッコ良いじゃねぇよ! 後で傷付けたとか言われたらどうすんだよ!」

「何を言っている。こっちはパトカーだぞ? いくらでも相手をしてやる!」


 それを聞いて優樹は、今は警察車両に乗っていることを思い出し、同時に霧崎は意外と悪徳警官だったのだと知った。


「とにかく行くぞ。これ以上邪魔するならお前を公務執行妨害で逮捕するぞ」

「あぁいいぞ。その代わり俺はもう手伝わないから……おいサイレンを入れようとするな! 分かったよ行くよ!」


 サイレンが効果的だと知った霧崎には勝てず、結局優樹は渋々ながら鎌田健次郎の自宅を訪れる事となる。


「――いいか。くれぐれも今お前は警察官だということを忘れるなよ。別に手帳は見せなくてもいいから、それっぽいふりをしてろ」


 玄関先に着くと、霧崎が念を押すように言った。


「分かってるよ、んなこと。さっさと話聞いて帰るぞ」


 優樹自身、この訪問がほとんど意味を無さない事くらい承知していた。寧ろせっかくの日曜日に何故自分が駆り出されたのかさえ疑問に思うほどだった。そんな苛立ちから、霧崎の言葉を遮るように勝手に呼び鈴を押した。


“ピンポ~ン”


「は~い。今行きます」


 呼び鈴を押すとほとんど間を置かず中から返答があり、長い黒髪の女性が出てきた。

 

「あ、お忙しいところありがとうございます。どうぞ上がってください」


 少し歳上の女性は美しく、まっすぐ伸びた黒髪には艶があり、漂う甘い香りに優樹と霧崎は思わず目を丸くした。そして豊満な胸は優樹“だけ”視線を釘付けにされた。


「どうも、○○交番の霧崎と新垣です。ではさっそく上がらせてもらいます」

「はい、どうぞ」


 勤務中の霧崎の集中力は高く、豊満な胸を持つ美人なお姉さんを目の前にしても普段通りの律儀な対応を見せた。それに対し優樹は、自分たちのためにスリッパまで用意してくれていた彼女に“こんな田舎にこんな良くできた美人がいたとは……”などとばかり考え、ずっと胸ばかり見ていた。


「では、改めまして。私は○○交番の霧崎です。そしてこちらが新垣です」

「私は鎌田友子と申します。今日はよろしくお願いします」

「では……」


 リビングに通されると霧崎は早速情報収集を始めた。そんな霧崎に対し、ほとんど意味を成さないと感じていた優樹は、話など上の空で部屋の中をキョロキョロ見回していた。


「……ですか?」

「はい、学校から電話があって、それで知ったんです。車も置きっぱなしで……」


 綺麗に整頓されたリビングはフローリングに艶があり、黄ばみのない壁紙と、空気清浄機が潔癖に近い几帳面さを伝える。カーテンもきちんと束ねられ、漂う甘い香りから、優樹はまるで友子の部屋を訪れているかのように錯覚する。そして友子の胸に目が行く。

 

「……は独り暮らしなんですよね?」

「はい、結婚もしていないですし、恋人がいるとも聞いていません」


 キッチンには食器洗浄機もあり、きちんと中は片付けられている。そしてテレビもなく不必要な物が見当たらない配置に、優樹は一人感心し、友子の胸を見る。


「あの、一ついいですか?」

「あ、はい。なんですか?」


 一通り部屋を見渡した優樹は、あまり胸ばかり見ていても怪しまれると思い、適当に質問をする。


「弟さん、誰かに恨まれてるとか借金があるとか、そんな話はしてませんでしたか?」

「いえ、そんな話は聞いていませんし、誰からもそんな話は聞いたことがありません」


 本当に適当だった。ただ何となく、ドラマや映画で見るような刑事がするような質問だった。

 しかしそんなことなど知りもしない霧崎には、先ほどから鋭い目つきで部屋と友子を見つめる姿に、何かを見つけたのかと期待を膨らませた。


「最近パチンコとか競馬とかギャンブル始めたとか、酒が好きだったとか、そんなのもありませんか?」


 一つ目の質問で違うと言われたとき、このまますんなり黙り込むのは空気を悪くすると焦った優樹は、さらに無駄な質問を続ける。そして霧崎はさらに期待を膨らませる。


「そういうのは無いと思います。ただ、弟はコレクターって言うんですか? カードだったりフィギュアだったり集めていたみたいで、そういうのにお金を掛けていたのはあります。でもそれはあくまで趣味の範囲だと思います」

「コレクターですか?」

「はい。あっちの部屋にあるので、見ますか?」

「はい、お願いします!」


 そろそろ帰りたくなっていた優樹には嬉しい知らせだった。何より優樹自身コレクターだったため、これには胸が躍った。

 それを見て、霧崎はやはりこいつは天才だと勘違いをした。


「ここが弟の趣味部屋です」

「おおっ!」


 友子に案内され向かった部屋に入ると、ずらりと並ぶショーケースに優樹は歓喜の声を上げた。


 六畳ほどの日当たりの良い部屋にはガラス張りのケースが並び、中にはカード、有名アニメキャラクターや美少女のフィギュア、モデルガンなどなど、凡その男子が収集するような物が商品のように飾られ、壁にはポスターが並ぶ。

 そこはもはや店のようで、優樹も集めている物まである光景に、今自分が警察官である事などすっかり忘れるほどだった。


「おおっ! これ何万もするやつじゃん! おおっ! これ欲しかったやつ! あっ! まじかっ! これ限定のやつじゃん!」


 優樹にとってそこは夢の国だった。


「おおっ! こんなのまで持ってるのか! まじすげぇな!」

「おい」

「お、霧崎これ見ろよ! これなんて二十年前くらいに出た初期のやつで、今じゃ絶版でこれだけで二十万はするんだぜ! それも未開封! まじで……」

「おい、今は勤務中だぞ新垣“巡査”」


 そう言うと霧崎は、友子からは見えないように優樹の裏太腿を抓った。


「おわっ! す、すみません霧崎“少佐”……」

「誰が少佐だ。お前はどこの軍所属だ? ちゃんとしないとしょっ引くぞ」

「さーせんでした。警部補」

「警部補でもない」


 優樹の閃きに期待していた霧崎だったが、やはりただのバカであることを悟ると一気に肩が落ちた。

 それでもただでは転ばない優樹は何かに気づいたようで、真顔で友子に声を掛ける。


「あの、押し入れの中とか見せてもらっても構いませんか?」

「え? えぇ構いませんよ?」

「ありがとうございます。では……」


 突然の優樹の変わりように、今度こそ何かを発見したのだと確信した霧崎は、期待を超えた信頼を感じた。


 その期待を背に押し入れを開けた優樹は、綺麗に収納された衣類や夏場は使わないファンヒーターを見て言う。


「なんだ……ただの押し入れか……」

「お前は何をしたいんだ!」

「え、いや……ほら、通帳とか貴重品とか無くなってないかなって……思って……」

「お前さっき鎌田さんが言った話聞いてなかったのか!」

「えっ⁉ いやいや聞いてたよ! 車は停めっぱなしだったとかちゃんと聞いてたよ! いやだから、もしかしたらお姉さんが見落としている物とかないかな~って思って」


 優樹はただ、押し入れにもコレクションがあるのではないのかと期待していただけだった。

 そんな適当なことばかりしている優樹にはさすがに霧崎も業を煮やしたのだが、それを察した友子が庇うように割って入る。


「あ、あの、弟は貴重品や通帳はきちんと金庫に入れてあるんです。隣の部屋にそれがあるんで、見ますか?」


 この時友子は、優樹の事を全く仕事ができない男だと思った。そしてあまり頭も良くないせいで普段から霧崎にいじめのような扱いを受けているのだと勝手に思い、可哀想になっていた。


「ぜひ!」


 その後金庫を見た霧崎だったが、コレクションばかりを探し回る優樹のせいで、何も得ぬまま鎌田家を去ることになる。


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