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魔法人  作者: ケシゴム
一章
16/69

要請

「なぁ?」

「…………」

「なぁ?」

「……なんだ?」

「パトランプ消してくんない?」

「……駄目だ。今は重要人物を護送中だ」

「何が護送中だ! これじゃあ連行されてるように見えるだろ! パトランプ止めろよ!」


 遺体発見から数日が経ったある日。優樹は捜査に協力するため霧崎が運転するミニパトカーに乗せられ警察署へと向かっていた。


「駄目だ。お前は重要人物だからな」

「何が重要人物だよ! ならもっと良い車で来いや! それになんでおめぇ一人なんだよ! こういうのって普通二人とかで迎え来るんじゃねぇのかよ!」

「仕方ないだろ、最近の行方不明者の件でこっちだって忙しんだ。扱いが悪いのは謝るが我慢してくれ」

「おめぇ完全にパシリにされてんじゃねぇか!」


 優樹たちが遺体を発見して以降、まるでそれを待っていたかのように行方不明者が続出していた。

 当然警察もインビジブルとの関係を視野に入れ捜査を開始しているが、まだ何も手がかりを掴めていなかった。


「それなら迎えに来なくっても良いんだよ! どこで犯人が見てるかも知れねぇのになんでわざわざパトカーで警察署入んなきゃなんねぇんだよ!」


 それを聞くと霧崎は無言でスイッチを押した。


”ウゥゥゥイィィィ~ン!”


「てめぇなんでサイレン鳴らした!? 止めろ!」

「こうすればどっからどう見てもお前が連行されてるように見えるだろ? これなら誰もお前が捜査に協力しているとは思わない」

「分かった! 分かったよ! 俺が悪かったからサイレン止めてくれ!」


”ウゥゥゥ~ン!”


 パチンコ屋で発見された遺体は、不思議な遺棄方法により警察内部で大きな波紋を呼んだ。そして優樹が提出したインビジブルと同じものが使用されたことも判明した。

 その力は警察だけでなく国までもが欲し、小さな街には千人を超える異例の特別捜査本部が設置され、それを聞きつけたマスコミが真相を探りながら世間を賑わせる事となった。


”パチンコ店強盗殺人事件特別捜査本部”


「ねぇちょっと。警察って馬鹿なの?」


 警察署に着くと、入り口に大々的に掲げられた看板を見て、優樹が言った。


「何がだ?」

「何がだじゃねぇだろ! これじゃ犯人に逃げられちまうだろ!」

「何を言っている。逃がさないためにこうしているんだ。あっちが見えないからって……」

「おい待て! それは口に出すな!」


 犯人が透明になれる以上、不用意にインビジブルを示唆するような事を口にした霧崎に慌てた優樹は、咄嗟に霧崎の口を塞いだ。


「あ、あぁ、すまなかった。助かった」

「気を付けろよ。俺これ以上巻き込まれんの勘弁して欲しんだから」


 警察はパチンコ店での事件は、売り上げの一千万円がなくなっていた事で表向きは強盗殺人事件としていた。インビジブルについては警察の中でもごく一部の人間が知る重要機密事項扱いとなり、マスコミにさえ知られていなかった。


「とにかく中へ入ろう。ほら新垣、手を後ろに組め」

「は? 何でだよ?」

「お前は下着を盗んで現行犯で連行されたという風にした方が安全だろ?」

「もうおせぇよ! ここで今さら演技してもおせぇんだよ! それにその設定やめろ! マスコミだって来てるんだぞ! 安全どころか破綻するわ!」

「そうか? ……まぁ良い。とにかく行くぞ。余り遅れたら遅刻罪で書類送検されるぞ?」

「そんな罪あんのかよ!?」

「とにかく行くぞ」


 優樹と霧崎はあれから協力者として調書を受けていた。しかしそれはインビジブルの情報を欲しがる警察の建前上の物で、協力者と呼ぶには程遠かった。

 特に霧崎に対しては、優樹の機嫌を取る丁度良い"係り"として扱うほどだった。


「お待たせしました。ではこちらへ」


 受付でしばらく待たされると、優樹たちの元に女性警官が迎えに来た。指定された時間に到着したにも関わらず、待たされた優樹たちはかなり不満を抱えていたが、案内されるまま進むとそれは不信感へと変わっていった。

  

「こちらです」


 案内された優樹たちが辿り着いた先は、地下駐車場に停めてある車だった。

 これにはさすがに二人は顔を見合わせ訝し気に女性警官を見た。

 

 黒い高級ワゴン車は貧乏人を寄せ付けない風格があり、後部座席が全く見えないスモークフィルムは正義の味方とは釣り合わない。そして薄暗い地下駐車場という場所が、霧崎にさえ逮捕以上に恐ろしい末路を想像させる。

 しかしそんな二人を他所に女性警官はお伺いを立てるとドアを開いてしまったため、優樹たちは渋々ながらも車に乗り込むしかなかった。


「やぁ、どうもこんにちは。お待たせしてすまなかった。どうぞ座って」


 優樹たちが車に乗り込むと、中は向かい合わせで席が向けられており、眼鏡を掛けた弱弱しそうな中年の優男が出迎えた。そしてその横には天然パーマが掛った気の強そうな若い男性もおり、優樹は歪な組み合わせに少し驚いた。


「初めまして。私は警視庁の坂口です。よろしく。そしてこっちは藤原です」

「どうも。よろしく」

「よ、よろしくお願いします……」


 優樹たちが席に着くと坂口は手帳をチラリと見せ、自己紹介を始めた。するとその後ろの座席からパソコンを叩く音が聞こえ、全ての会話は記録されていると知った優樹はより緊張した。

 そして霧崎もまた、警視庁と聞いてこの二人が捜査本部の指揮官だという可能性を察し緊張した。


「それじゃあ早速だけど、今回二人に来てもらったのは、正式に捜査協力をお願いしようと思って来てもらったんだ」

「え? それって……」


 ここ数日の放置で、優樹は協力者としては呼ばれても、警察はインビジブルの情報だけを欲しているのはなんとなく気付いていた。それをわざわざこんな所に呼び出してまで改めてお願いされた事に疑問を感じた。

 しかしそれを確認する間もなく霧崎が声を上げる。


「是非! 喜んでお受けいたします!」

「え?」


 霧崎は常々大きな事件に関わりたいと願っていた。日々の交番勤務での市民とのふれあいや小さな街を守るという使命感は満たされていたが、いずれはドラマや映画のような活躍をしたいと思っていた。

 そんなチャンスが自分の身に訪れた事で、もはや優樹の方がおまけに過ぎなかった。


「新垣さんは?」

「い、いや……それは……」


 正直優樹としては警察に深く関わると自分の身だけでなく妹の身にも危険が迫る恐れがある為、独自に調査をするつもりだった。何より優樹にとって規則などで拘束されるのはとても面倒だった。

 そこで上手く言って誤魔化すつもりだったのだが……


「もちろん協力します! そうだろ新垣? お前が作った魔法陣でこれ以上犠牲者が出るのは許せないんだろ?」

「い、いや……それはそうだけど……」


 警察や霧崎には、インビジブルは妹と発見したという事にしていた。当然舞とも口裏を合わせており、優樹がインビジブルの第一人者となっていた。


「なら断る理由は無いだろ? これなら情報だって貰えるし、人でも借りられる。決まりだな!」

「あ……あぁ……そうだな……」

「じゃあ決まりだ! それではこれからよろしくお願い致します!」


 例えここで正式に捜査協力者となっても、インビジブルの情報だけ奪われ、霧崎の言うような待遇は受けられないのは優樹は知っていた。しかし情報を得るにはやはり協力する方が効率が良かった。というより、既に霧崎が勝手に決めてしまったため、こうして優樹は正式に捜査に協力する事となった。

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