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魔法人  作者: ケシゴム
一章
15/69

変人

「はいこれ。持って来たよお兄」

「ありがとう舞! 助かった!」


 ますます不利になる状況に焦りを感じる中、やっと到着した妹に巻き込むまいとしていた優樹だったが、殺人罪には勝てず安堵した。


「何したの?」

「何もしてねぇよ。こいつが裏切るからこうなったんだ」


 そう言い優樹は親指で霧崎を指した。


「裏切るって、結局犯罪したって事?」

「ちげぇよ。とにかく先ずインビジブルを貸してくれ?」

「う、うん……分かった」


 警察としてはもちろん情報漏洩は認められず、妹を巻き込むわけにはいかない優樹も詳細は伝えられなかった。

 舞としても詳細を伝えられず突然インビジブルを持って来るよう言われ不安はあったが、状況からインビジブルを見せなければ兄が逮捕される可能性を理解しているだけに、背に腹は代えられなかった。


「舞、この折り目のあるページか?」

「うん……で、でも、本当にそれ見せるの?」


 万引きの件は兄が金額を肩代わりしてくれ、佐藤の件も自分がブラスバンド部を全国へと導くという約束で上手く収まった。しかしそれは法の下での話ではなかった。

 もしここでインビジブルを警察に見せれば全てが暴かれ裁かれる。そんな思いが舞にはあった。


「あぁ。なんで俺がお前にコレを持って来させたのか、今の状況を考えればお前なら分かるだろ?」


 兄の目には『察しろ』というメッセージが込められていた。それを見て舞は今何が起きているのか大凡の見当が付き、また兄のケジメを付けろという意思も理解した。


「……うん、分かった」


 自分が落としたポンチョ。それが原因で誰かが大きな不幸に見舞われた。「真っすぐ生きろ」と兄に言われて育った舞には、避けては通れぬ道だった。


 妹が小さいがしっかりと首を縦に振ったのを確認した優樹は、覚悟を決め大きく息を吐いた。


「ではこのノートをよく見ていて下さい」


 そう言うと優樹は部屋中にいる警官に視線を集めさせた。


「これは普通のノートです。中もこの通り普通の付箋のノートで、捲っても同じです」

「何だい? 手品かい? そこにさっき新垣”君”が言ったように消える魔法陣があるのかい?」

「はい」


 完全に見下されていた事に優樹は怒りを感じていた。そこで敢えて馬鹿にするように親切丁寧に説明し、鼻を折ってやろうと思っていた。


「では問題の魔法陣があるページを開きます。よく見ていて下さい」


 ゆっくり、もったいぶるように優樹は折り目のあるページを捲った。すると舞が急遽描いた大きな魔法陣が徐々に姿を現した。


「それがそうかい?」

「えぇ」


 三分の一ほど見えた所で苛立ちを感じた警官が馬鹿にするように口を開いた。しかしこれも優樹の計算の内で、これには心の中でほくそ笑んだ。ただ、優樹を良く知る霧崎だけが「こいつ何やってんの?」と呆れていたのを口にするのは、しばらく後の事である。


「じゃあ行きます」

「!?」


 優樹が一気にページを捲ると、ノートは一瞬のうちに消失した。それを見て、警官はおろか霧崎までもがあまりの驚きに声も出なかった。


「でも……はいっ! はいっ! はいっ!」

「!?」   


 警官が驚くのを確認した優樹は、さっきの仕返しとばかりにページを捲ったり閉じたりを繰り返し、ノートを出現させた。


”へっへっへっ! どうだこのくそ眼鏡!”


 この時優樹は違う意味でインビジブルの魔性に憑りつかれていた。


「はいっ! はいっ!」

「お兄」

「はいっ! はいっ!」

「お兄ってばっ!」

「な、なんだよ急に……いきなり大きな声出すと驚くだろ?」

「もうそれは良いよ。お兄何したいの? 怒られるよ?」

「あ、あぁわりぃ……」

「謝るんなら警察の人に謝りなよ」

「あ、あぁ……すみませんでした……」

「あ……うん。あまりふざけないように」

「はい、すみません……」


 緊張感漂う警察署内であっても、兄の奇行は舞をリラックスさせた。そして舞のお陰で呆気に取られていた警官たちも我に返り、不毛な時間はやっと終わった。


「でもこれで、俺の言った事が本当だって信じて貰えましたか?」

「ま、まぁ……そうだね……ちょっとそのノート見せて貰えるかい?」

「えぇどうぞ」


 優樹が見せた不可思議な現象は、手品などという物では無い事は警察も本能的に理解していた。それほど目の前で起きた現象は現実味を帯びていて、まるで未発見の新たな科学と呼ぶに相応しいほどだった。

 だがノートを手に取ると警官はさらに驚く。


「おぉ……本当だ。確かに消えるがここにある。どうなっているんだこ……!?」


 ページを開いたまま裏を確認するようにノートの表紙を確認した警官は、表紙がしっかり見える事に驚き硬直した。


「その魔法陣は、視界から外れると効果がなくなるんです。大体半分くらいかな? それくらいです。だからちょっとノート良いですか?」


 そう言い警官からノートを奪うと、優樹は魔法陣を隠すようにページを被せた。すると約半分隠れた所で再びノートがはっきりと出現した。

 それを見て警官が驚くと、優樹はさらに続けた。


「そしてこうすると……」

「わっ!?」


 優樹が魔法陣が描かれたページを見せるように胸に張り付けると、警官からは優樹の姿は一瞬にして消えた。


「ど、何処へ行った!?」

「ここにいますよ。ほら」

「はっ!?」


 そして優樹がノートを閉じると再び姿を現し、警官は驚く。それを見て優樹はほくそ笑む。


「ほらっ! ほらっ! ほらっ!」

「お兄、だからそれはもういいって!」


 消えたり現れたり、再びの兄の奇行に舞は少し苛立ちを覚え、警官はただ呆気に取られるだけで、ほぼ優樹の独壇場だった。ただこの時、横にいた霧崎には優樹の姿は消えておらず「この国は本当に大丈夫なのか?」と思ったのを口にするのはしばらく後の事である。


「そういう訳です! だから俺はただの第一発見者です! これは提供しますからお泊りだけは勘弁してくだせぇ!」


 土俵際ギリギリ一杯の場面に、優樹は思わず心の声が出てしまった。だからこそその思いは届いたのか、警官は優樹を見る目を変えた。


「分かった。新垣さんの事は信じよう」

「本当ですか!」

「あぁ。だからこの魔法陣についてもっと詳しく教えて欲しい」

「はい! 自分で分かる範囲で良いのならいくらでも協力します!」

「ありがとう。なら今日は長くなるからやっぱり泊って行ってくれ。お母さんも来ているようだから必要な物は用意してもらおう」

「え~! そりゃないっすよ!」


 こうして優樹と霧崎は、第一発見者として捜査に協力する事になる。


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