表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祝福の魔導公 ―転生した天才は魔法で世界を導く―  作者: branche_noir
第1章 祝福の子

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/33

第8話 祝福の子

<カクヨムで先行配信してます>

帝都神殿に光の柱が立ち上ったその日――

大理石の床に残された魔素の余韻は、儀式が終わってからも長く消えなかった。


祭壇にいた若い神官のひとりが、呆然と呟いた。


「……神の名のもとに、あれが“祝福”だというのなら、

 かつて祝福された者たちは……何を受けてきたのだ……?」


光と魔素が交錯した奇跡の瞬間は、神殿という閉じられた空間を超え、帝都そのものに波紋のように広がっていった。


その中心にいたのは、まだ言葉も話さぬ幼子――アルヴィス・エルンスト。


かの神童がもたらした奇跡は、若い神官の人生に鮮明に刻まれた。


__________


翌朝。帝都の空は晴れ渡っていた。


中央通りの市では、早くも噂が飛び交っていた。


「昨日の祝福の儀……見たのか?」


「いや、貴族でもなけりゃ神殿に入れないだろ。だがな――」

「空に、見えたんだ。光がさ。まるで……昼間に星が立ったような……」


「まさか、神の子が生まれたってのか?」


「違う、“公爵の子”だ。エルンスト家の……あの家の嫡男だよ」


「……あの家か……」


帝都の民であれば、エルンスト家の名を知らぬ者などいない。

中庸を掲げ、政治の最奥に静かに君臨する“均衡の要”。

その家から、すべての魔法属性に共鳴する子が生まれたとあれば、民の心はざわめかずにはいられない。


神殿の奥、控えの間。


リシェルティアは、祭壇で起きたあの光景を見つめていた。

彼女は第三皇女として、父である皇帝に連れられて参列していた。

その隣には、帝国を支える聖女・クラウディア。


だが幼きリシェルティアの視線は、儀式の終盤、じっと――アルヴィスへと向けられていた。


彼女の小さな胸の奥に、ふわりと灯るものがあった。

恐れではない。

けれど、まだ名のつけられぬ“なにか”が、確かに心に残っていた。


アルヴィスが放った魔素が、まるで春の陽だまりのように優しくて、

その瞬間、彼の目が自分を捉えた気がした。


そして――笑った。


リシェルティアは、小さな指先で自分の胸元をきゅっと握る。

柔らかく、でも強く。


(……この気持ちは、なんだろう?)


言葉はなかった。

けれどその感情だけは、確かに彼女の中で形になり始めていた。


それは、いつか“想い”と呼ばれるものになる、小さな光だった。


__________


一方、邸へ戻ったエルンスト家では、静かな昼食の席が設けられていた。


父・ジークフリートは神殿での出来事について一言も語らなかった。

だがその横顔には、わずかな緊張と覚悟の影があった。


母・セシリアもまた、いつものように穏やかな笑みを浮かべてはいたが、

ふとした拍子に、遠くを見るような目をしていた。


私は、テーブルの上に置かれたスープ皿の縁を指でなぞっていた。

言葉はまだ発せられない。

だが、胸の中にはなにか、くすぶるような感情が残っていた。


――私は、祝福された。

けれど、それは喜びだけではない。

誰かの期待と視線が、これからずっと自分を追い続ける。


私は魔素をそっと揺らした。

“私は、ここにいる”――

そう伝えたかったのかもしれない。


その瞬間、母セシリアがふっと笑った。


「大丈夫よ、アルヴィス。誰よりもあなた自身が、自分の力をわかっているのだから」


夕方、邸の中庭。


騎士団の訓練場の片隅に、団長レオナールが一人立っていた。


彼は天を仰ぎ、小さく息を吐いた。


「……坊ちゃまの祝福の儀、見たか?」


隣にいた副団長が苦笑する。


「ええ、見ましたとも。魔素の奔流で一瞬耳が聞こえなくなったくらいです。

 あれは……もはや魔法というより、“存在”ですね」


レオナールは頷く。


「剣で守れるものではない、という実感があった。

 けれど、我々は剣を抜かなければならない。

 ――“帝国そのもの”を背負う坊ちゃまの盾として」


その言葉に、騎士たちが静かに剣を振るう音だけが響いた。


その夜、帝国議会の一角では、すでに“会合”が始まっていた。


「すべての属性に加え、高位四属性との共鳴……」

「神殿は“奇跡”と評していたそうだ」

「第三皇女殿下と目を交わしたと……噂に過ぎぬが、民は“啓示”とすら呼んでいる」


ジークフリートが黙して語らぬことを逆手に取り、各派閥は動き始めていた。


だが、その動きを読みながら、静かに杯を傾ける老貴族がいた。


「焦るな。あの家は沈黙をもって国を動かす。

 そしてあの子は――その名を持って、“未来”を変える者だ」


__________


夜。


私は、書斎の窓辺に座っていた。


言葉を知らず、外の世界もわからない。

けれど、この胸の奥で、確かに何かが生まれていた。


まだ形のない意志。

けれど確かに、心の奥底で燻る熱。


(私は、祝福された。

 ならば――その意味を、証明してみせる)


手を空に掲げる。

魔素がふわりと灯り、空間に小さな渦を生む。


母が「灯火の精」と呼ぶ、私の小さな感情の結晶。


私はまだ言葉を持たない。

けれど、想いを伝えることはできる。

この魔法と、この存在で――


祝福の儀から一日が経ち、

帝都には“祝福の子”の名が広がっていた。


けれど、それはただの始まりにすぎない。

彼の周囲で、いくつもの歯車が音を立て始めていた。


その音は、帝都の石畳の下から、

世界の境界を揺らすほどに静かに、確かに――鳴り響いていた。


ここまで読んでいただきありがとうございました。

もし面白いと思ったら、評価とフォローをしてくれると、作者のモチベーションがとても上がります!!

感想やレビューなどもしてくれると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ