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祝福の魔導公 ―転生した天才は魔法で世界を導く―  作者: branche_noir
第1章 祝福の子

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第4話 帝都への道

<カクヨムで先行配信してます>

帝都アウストリア――

この大陸の心臓とも呼ばれるその都市に向けて、エルンスト家の馬車列が出立したのは、春を迎えた穏やかな朝だった。


屋敷の石畳を静かに離れた六頭立ての馬車は、周囲に並ぶ騎士団の規律ある動きと共に、荘厳な旅の空気をまとっていた。


私は、その中心の馬車の中にいた。


黒漆塗りの内装に銀細工の装飾が施された広い車内。

幼子である私が三人分は座れるほどの椅子に、母セシリアと父ジークフリートが向かい合うように腰かけている。


その間に挟まれる形で、私は小さく体を揺らしながら外を眺めていた。


__________


「アルヴィス、馬の音が気になるかしら?」


母が柔らかな声でそう言うと、私は小さく頷いた。


外からは蹄のリズムと、鎧の鳴る金属音が絶え間なく響いていた。

それは私にとって心地よい“鼓動”のようでもあり、この家の“守り”を感じさせる音でもあった。


「ふふ。あの騎士たちは、エルンスト家の“静かなる盾”よ。帝国の中でも、最も訓練された近衛部隊」


父が低く穏やかな声で続けた。


「その者たちは誰ひとり声を荒げず、命令なくして動かず。だがひとたび動けば、百の剣を断つ」


私は外の騎士団に目をやった。


銀の兜、統一された黒と青の外套、魔力を帯びた騎槍と盾。

そのどれもが磨き抜かれ、迷いのない動きを見せている。


彼らの間をすり抜ける風が、私に向けて“安心しろ”と語りかけてくるようだった。


「アルヴィス」


父がふいに呼びかけた。


私はその声にゆるく魔力を漂わせ、“聞いている”と伝えた。


「お前はまだ幼い。だが、そろそろ知っておいてもよいだろう。

 ――エルンスト家が中庸を掲げる意味を」


母が静かに頷いた。


「私たちは、どの派閥にも組せず、争いにも首を突っ込まない。

 でも、それは“傍観”を意味しないの」


「帝国は広く、多くの声がある。

 我らが口を開くとき、それは静寂の中にある“道理”を照らすため」


私は、母と父の言葉を胸に刻むように耳を傾けた。


言葉ではまだ返せない。

けれど、私は理解していた。


中庸とは、曖昧ではない。

どちらにも偏らない“意志の中心”なのだと。


しばらく沈黙が続いた。

馬車の揺れが、心を落ち着かせる。


すると、母が口を開いた。


「アルヴィス。あなたの祝福の儀は、きっと帝都に風を起こすわ。

 でも、それを恐れないで。あなたはただ、あなたらしくいればいい」


私は母の手に触れ、魔力を送った。


(ありがとう)


温かく、柔らかく――それは光のように母の心を撫でた。


母の瞳が、ほんの少し潤んだように見えた。


「……ああ、ほんとうに、あなたは……」


父もまた、微笑を浮かべて私の肩に手を置いた。


「帝国が望んでいた“祝福”は、きっと――お前のような存在なのだろうな」


__________


その頃。

馬車列の最前線を守る騎士たちの中に、ひときわ異彩を放つ者が一人いた。


漆黒のマントをなびかせ、全身を銀甲冑で覆ったその騎士は、

“エルンスト騎士団の団長”たるレオナール・ヴァルステル。


その目は常に周囲を見据え、魔力の揺らぎ一つ見逃さない。


「異常なし。馬車周囲の魔素も安定。……坊ちゃまの制御力は、日増しに高まっています。」


副官が小声で報告すると、レオナールは無言で頷いた。


その背中が語っていた。


この旅路に敵はない――

あらゆる敵意は、その双剣の前にて凍りつくだろうと。


やがて日が傾き、馬車は峠を越える。


私の視界に、遥か先に霞む白い都市の影が映った。


(あれが、帝都……)


私は胸の内で魔素を振るわせた。

それは“期待”とも“緊張”とも言えぬ、混ざり合った何かだった。


父がそっと言った。


「アルヴィス。帝都は広く、美しいが――目に見えるものだけがすべてではない」


「人の声、街の匂い、空の流れ。すべてに“意志”があるわ。

 あなたのように、魔法を通して見つめるなら、きっと見えるはず」


私は頷いた。


私はこの旅の意味を理解している。

それは、単なる“儀式”のためではない。


――私が、この世界に何を伝え、どう生きていくのかを見出すための、一歩なのだ。


__________


馬車が坂を下り、道が帝都へと続く。


帝国最強の一族――エルンスト家の名を冠した一行が、ついに帝都の門前に姿を見せる時が近づいていた。


そしてその中心には、言葉を持たぬまま、

魔法という“心の声”で世界を語ろうとする幼き祝福の子が、静かに座っていた。


ここまで読んでいただきありがとうございました。

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