第490話・四条家のご令嬢
食堂から出た錠前と四条は、道中で数人の空挺レンジャーを集めた。
筋肉質のいかつい自衛官に囲まれながら、錠前が陽気に口を開く。
「で? 彼の様子に変化は無いか?」
「はい1佐、食事も水も一切与えていませんが……まだそこまで衰弱していないようです」
「オッケー、じゃあ君らは万が一に備えて完全武装で待機。僕らは一足先にお話しとくから」
「了解しました」
取り巻きを一時解散させる。
「錠前1佐、なぜ透さんを呼ばなかったのですか?」
「尋問にそんな人数いらないからね、あとアイツがエナドリをガブ飲みしてる時は限界超えてるサインだ。少し休んでもらおう」
そんな2人がたどり着いたのは、かつて捕虜にした執行者姉妹を閉じ込めていた独房。
鍵を開けて中に入ると、コンクリートで冷えた暗い空気が迎える。
「やぁ”エンデュミオン”くん、調子はいかがかな?」
「…………ッ」
軽い挨拶。
だが言葉の裏に魔の刃が透ける。
壁際には男がいた。
拘束具で両手首を固定され、足元にもチェーン。
例の魔導具と物理の合わせ技で、魔力回路も体の自由も封じられている。
虚ろな目が、錠前を見上げた。
「……随分と丁寧な挨拶だな、錠前勉」
吐き捨てるような声。
唇の端には薄い笑み。
錠前はゴミを見る目で笑った。
「でしょ? 僕って何かを雑に扱うの結構嫌いなんだ。それに――――エンデュミオンくん、君を殺したら情報出なくなるし」
背後で四条が無言で立つ。
扉が閉められ、3人のみの空間となる。
そう、第4エリアで敗北したエンデュミオンを、自衛隊は捕らえることに成功していた。
「さて、単刀直入に聞こうか」
錠前がしゃがみ、エンデュミオンと目線を合わせた。
「第5エリアの入り口に結果が張ってあった。あれを作ったのは君かい?」
空気が一段冷える。
背後で四条が見守る中、それでもエンデュミオンは笑った。
「第5エリアの入り口を見つけたのは褒めてやろう、初めに言っておくが……あの結界は俺が作ったものではない」
「だろうね、”錠前勉だけを入れない結界”。そんなものが君に作れるわけがない」
結界術は複雑だ。
ベルセリオンやそんな彼女のマスターである四条でさえ、今は最低限の結界術しか使えない。
透にいたってはセンスが無かったので使用不可。
空間魔法に分類されるこれは、魔術的な足し引きによって成立する。
外側からの攻撃に強く作れば、内側からの攻撃に脆くなる。
大きさを増やせば、その分だけ崩れやすくなる。
今回――――特級神獣バジリスクを倒して見つけた第5エリアへの入り口は、錠前だけを通さない代わりに、その他全てを通すという条件で成立していた。
こんなハイレベルな結界は、甘く見積もっても……錠前と同じかそれ以上の技量が要求される。
「君は自分が殺されないと思ってるけど、現実は違うよ?」
紅い魔眼を向けた錠前が、冷酷に呟く。
「どんなに特別な存在だろうと、死ぬときってのは呆気ないもんだ。こんな場所で死にたくないだろう? サッサと情報を吐きな」
「はっ、日本人というのはどこまでも道化だな。俺は死なんさ、いくら空腹にしようと無駄だ……そんなくだらない甘言で釣れるのは”バカな執行者”くらいのもんだ」
心底バカにした口調で、嘲笑う。
その言葉は本心であり、挑発ですらない。
だからこそだろう、今まで無言を貫いていた女性の口が開く。
「今……なんと言いましたか?」
黒目を開いた四条が、ゆっくりと前に出る。
「バカな執行者と言ったんだ。お前のような女狐にほだされて眷属契約を結ぶとは、やはりベルセリオンは生まれつきの大馬鹿だったと証明――――」
言えたのはそこまでだった。
真顔の四条が、エンデュミオンの顔を全力で蹴ったのだ。
歯が砕け散り、鮮血が飛び散る。
「…………わお」
思わず一歩引く錠前。
だが四条は全く構わず。
「わたしはともかく……、”娘”のベルさんを馬鹿呼ばわりするのは断じて許しません。撤回してください」
魔力を纏った、すさまじい威力。
状況を神速で悟った錠前は、ニヒルな笑顔で扉まで下がる。
「10分後にまた来るよ、ごゆっくり」
扉が閉められ、四条とエンデュミオン2人きりの空間となる。
錠前が速攻で引いたのは、空気を読んだことともう1つ……。
「四条家の人間を怒らせて、生きて帰れると思わないことですね…………ッ」
あの四条陸将の直系のご令嬢。
四条衿華の本気の怒気を、アノマリーの危機察知能力が感知したからだ。
話数間違えてたので修正中……。
既に頂いた感想はありがたく読ませていただいてます(土下座)




