第463話・決着はまだ!!
「なっ、なんだ…………!」
即座に銃を構える透。
そういえば、林少佐との戦いに必死でテオドールの様子を見れていなかった。
もし勝っていたなら、即座に援護に来てくれていたはずだ。
最悪の予感が過った瞬間。
「ぐぅッ…………、がはっ…………!」
「テオ!!!」
砂塵が晴れると、そこには床へ激しく叩きつけられた……執行者テオドールが倒れていた。
服も髪もボロボロで、纏う魔力もほぼ消えかけている。
意識が混濁しているのか、嗚咽を漏らしながら床にめり込んで全く動けていない。
「いやー、さすがに執行者……さすがの僕でも危なかったよ」
「ッ!!!」
空いた穴から降りて来たのは、同じく傷ついた大天使ガブリエルだった。
しかし、どちらが戦いの勝者かなど一目でわかる。
床に立ったガブリエルは、力なく倒れる少女を見下ろした。
その手には、1本の槍が握られている。
「特級宝具――――『イグニス・ランス』。これが無かったら、正直やられてたかも」
間違いない、渋谷でエクシリアを殺しかけたあの槍だ。
次の瞬間、透の行動は神速だった。
僅かに残っていた魔力を全て使い、最後の能力を行使した。
――――キィンッ――――
「んッ!?」
次の瞬間には、離れた場所で透が傷ついたテオドールを抱きかかえていた。
足元を見るが、崩落寸前の床があるだけで、今さっき倒れていた少女がいない。
見せられたイメージが、そのまま現在の情景となっていた。
「なるほど、因果の改変か……。ようやく目覚めたらしいね――――”因果の代行者”」
やはり、ガブリエルは全て知っているようだ。
林少佐が推論として語っていたことは、どうにも事実だったらしい。
だが今は――――
「テオ! しっかりしろ!!」
「うっ…………、ゲホッ! とお、る…………」
胸の中で抱かれたテオドールが、弱々しく名前を呼ぶ。
暖かく柔らかい身体は瀕死の状態で、見てないところでどれだけ酷くやられたのかが伝わって来る。
「申し訳……ありません、絶対勝つつもりだったのに……まるで歯が立ちませんでした」
口端から多量の血を流しながら、彼女は弱々しく謝った。
透の中で、愛娘を痛めつけられたことへの激しい怒りが湧く。
「ッ……!!」
ガブリエルは、今現在のテオドールが使える全ての技を開幕で受けた。
にも関わらず、ボロボロなのは表面上だけ。
実際は、技を激しく撃った彼女の方が先に消耗してしまい、最終的に押し負けたらしかった。
アレほどの技のフルコースを食らって、この程度しかダメージにならないあたりタフさが別次元だ。
「うーん、そっちの対決は新海透の勝ちか……まぁ予想通りだったかな。相手が因果の代行者じゃあしょうがないね」
「アンタ、やけに色々詳しいな……。テオの攻撃もあんま効いてないし……一体何者だよ」
透の問いに、ガブリエルは槍を持ちながらアッサリ答える。
「僕はイヴ様に次ぐ”現在”のナンバー2だからね、強さも情報アクセス権もそこらの天界市民や大天使と比較にならないよ。林少佐とウリエルはなんか必死に徹夜で考えてたみたいだけど、僕は最初から全部知ってたんだよね」
ここに来て最悪の開示。
もはや自分は異能を使うだけの体力も残っておらず、テオドールも重傷。
通信機器は最初に破壊されたため、応援の攻撃ヘリも呼べない。
「消耗した林少佐は後で殺すとして、まずは君たちから消そうか……。代行者に執行者」
大天使ガブリエルから、おぞましい程の魔力が溢れ出た。
質、量……共に明らかな別格。
今のテオドールが負けてしまうのも、納得のレベルだった。
だが––––
「テオ、このまま大人しく殺されるほど……俺らは良い子ちゃんじゃねえよな?」
透の発破に、テオドールもすぐさま応える。
「はい、このままでは師匠に笑われます……! 透、わたしはまだ戦えますよ!」
既に限界を超えているであろう両者。
しかし、この2人の闘志と戦意に揺らぎは一切無い。
むしろ、危機的な状況に追い込まれたことで脳内にアドレナリンが大量に分泌。
痛みや不安といった戦闘でのマイナス要素が一気に排除され、2人はフラつくことなく立った。
「テオ、今生1回限りの賭け––––やってみる気は無いか?」
笑みを浮かべた透の問いに、少女は拳を握りながら。
「もちろんです! 私に全部ベットしてください!!」
新海透の眷属、エクシリアの弟子として––––彼女は開幕よりさらに激しく闘志を燃やしていた。




