桃太郎
これまでの童話もそうですが、昔から桃太郎には疑問を感じておりました。
多くはそうだと思いますが、私の読んだ桃太郎は、婆さんが川から流れて来た桃を持ち帰ります。
デカい桃がスムーズに、とは限りませんが、傷みやすいソレが、食べようと思える状態で流れてくる。それなりの幅と深さがある川で、婆さんは泳いで取りに行ったのでしょうか。桃の他に洗濯物も一度に持って帰ったのでしょうか。どちらかを置いて帰ったら、置き引きにあったりはしないのでしょうか。……しないか。桃を置いて行く選択肢はありませんね。野生生物に食べられてしまう可能性大です。
他にも、桃を切ったら桃太郎まで切れてしまうのでは……これは後に中から割れたという話もあるのを知ったのですが、果たしてそんなにスカッと割れるのか。ぐちょぐちょと桃塗れになって穴を開け、這い出てくるのが正解なのではないか。噂一つで鬼退治に行こうとはどういう了見なのか。冤罪の可能性はないのか。キビ団子一つの対価で家来になり、命懸けであろう鬼退治に向かう犬猿雉……もっと強い動物は居なかったのか。投げ飛ばしたらあっさり降参する鬼に、やはりあっさり許し宝を奪って行く盗賊紛いな桃太郎一行。
変な話ですよね。名作らしいのに。
諸説あって(細部は)バリエーションも豊富な桃太郎ですが、最近手にした、代田昇さんの方言で書かれた桃太郎の絵本は、これらの疑問の多くを解消するものでした。
衝撃的だったのは、最初からこの絵本で育った人達もいるという事実です。だって圧倒的に整合性が取れているような気がするのです(気がするだけなので、実際はどうか知りません)。その人達にとっては桃太郎はちゃんとした名作なのです! 人間味があって面白い、というか、もしやこちら主流なのでしょうか。……これを書く意味がほぼゼロになってしまうので、出来れば少数派であって欲しいものです。
ここでは少数派であるとして、では何処が違うのか。
婆さんが桃を拾う過程から違います。なんと『自分の桃ならこっちに来い』てな感じの事を言うと桃が近づいてくるのです。ん? 呪い?
この言葉があるお陰で、婆さんが桃を得る事に必然性が生まれ……たような気がします、なんとなく。
爺さんが桃を切ろうとすると「や、やべえ斬られる」と言わんばかりに内側から割れます。ここは一緒でした。
で、婆さんが用意した食べ物を食べると、ずくんずくんと大きくなるのです。ん? 呪い?
どう考えても婆さんが只者ではあり得ません。
桃を呼び寄せ、重量もあるであろうソレを持ち帰り、怪しげな食物で、これまた怪しい赤子を育てるのです。
そして桃太郎ですが、こいつが怠け者でした。仕事に誘われても、何だかんだ言い訳して寝転んでいるのです。一つ一つ言い訳を潰されて、仕方なく怪力を利用して、サクッと済ませるのですが、昔話に出てくる大人物といえば大抵こんな人ではないでしょうか。
善良さ全開の主人公ならば、小さな事をコツコツとこなし、大きな幸運を得ますが、桃太郎のように一芸に秀でた問題児の主人公は、結果はどうあれ、なんかデカい事しちゃう(※適当な事言ってます)。
子供の頃に読んだ物では、鬼が悪さをしているという噂話だったのですが、この本では、桃太郎の住む村が襲われていました。出先から戻ると、既に鬼は去った後で、村の米や塩、娘さん達が拐われているのです。大事件です。ちなみに婆さん達は出かけていて無事でした(婆さんも娘のくくりって事?)。で、桃太郎は怒るのですが、一週間くらい寝転んだまま考え込みます。え、意外と理性ある、でも早く助けに行けよと、やきもきさせられます。そもそも鬼退治の方法を考えているのか、単に面倒なだけなのかが不明です。
散々ゴロゴロしてから重い腰を上げて、漸く出発です。婆さんに大きいキビ団子を三つ要求します。
そうです。あの婆さんの手によるキビ団子です。
赤子に一口食べさせただけで異常に成長させる、あの食事を作った婆さんの団子です。……一週間考えた結果の婆さん頼み。
動物に奴隷契約のようなものを結ばせたのも、鬼をやっつける程の力を与えたのも、この団子の影響である事は間違いないでしょう。そのキビ団子も桃太郎は丸ごとはやりません。「一つください」という言葉を拒否し、半分コにして食べるのです。
桃園の誓い!!!! 兄弟の盃を交わすでも同じ釜の飯を食うでも何でも良いのですが、とにかくここで何らかの絆を結んだ事が強調されております。婆さんパワーも加わって無敵状態に! 勿論婆さんパワーが九割です。
鬼退治は割愛します。鬼は多分人間だったのでしょう。
帰る時には財宝と娘さん達を乗せて船で帰るのですが、この時一番気に入った娘さんを嫁にします。女性の立場の低さも感じますが、鬼に拐われた後ですし、恩人で力のある桃太郎なので喜んで嫁いでいてもおかしくありませんね。
う〜ん、ドラマチック。
唯の絵本の紹介になってしまいましたが、皆様、気になる人物がいたのではないでしょうか。うんうん、分かります。爺さんですよね、影の薄過ぎる。
あの婆さんの作ったものを毎日食べている爺さんが普通の人物の訳がないのですが、包丁を持って登場した途端に桃太郎に出番を奪われてしまう悲しさ。
そもそも超人婆さんの手に掛かれば、大きいだけの桃なんてアッサリぶった切られるはずですが、敢えて爺さんに任せるのです。そこには「女の私よりも力のあるお爺さんに」なあんて会話があったのでは。爺さん、愛されてる!! 出番はありませんでしたが。
超人婆さんに愛されている爺さんは、普通の人間なのでしょうか。婆さんによって、何らかの異能を授かっているとは思うのです。そうでなくても喋る動物が出てくるくらいです。この爺さんも最初から異能者の可能性があります。――魅了とか?
ハーレムも目指せたのに最初に超人婆さんを捕まえた為に、囲われてしまった……。誰も困りません。婆さん良い仕事した。うっかりコレで短編書こうかと思ってしまいました。
また、桃太郎の異常を周囲が受け入れている事から、村全体が異能者で構成されている可能性も否定出来ません。いや、爺さんが唯一の一般人で、可愛がられているというのも有りなのでは。
あ、それだと娘さん達も異能者になってしまいますね。でも鬼に対抗出来ていない時点で結構弱いという事に。
なんと言う事でしょう。過去最高にこじ付け難いです。
婆さんが実力者で不自由がない為、爺さんは顔で選んだ――これが一番しっくりくるかもしれませんね。
うーん、なんかフツーですね。現代の恋愛ドラマにもあり そ う 、 つまり普遍的な人間模様が描かれているという訳ですね!
YES! ポジティブシンキング!!
結論としては、『沢山の種類が出版されている名作には当たり外れがある』でしょうか。
桃太郎に限らない結論が出ましたが、皆様が良い名作に出会えます事を願ってやみません――――
「良い名作」って変……。




