†chapter13 殺人鬼の正体07
魔窟大楼の階段を駆け下りた上条と拓人の2人は、1階の商店跡地を通り抜けると戸口を潜り中庭に躍り出た。
その1000メートル四方の中庭は一切の植物も生えておらず、ただ乾燥した焦げ茶色の土がむき出しで広がっている。中央にはギャングハットにロング丈の黒スーツを着た男が、片腕で若い女の首を押さえつけている姿が確認できる。そしてその傍らには初老の女性が横たわっていた。
「何だ小僧ども。お前たちもこの娘の仲間か?」
ギャングハットの男が睨みつけた。離れているのに威圧感が尋常ではない。
上条の背中に一筋の汗が流れた。あの倒れている女性が琴音の母親だろうか? ということは、ギャングハットの男に捕らえられているの金髪の若い女がALICEの瀬戸口なのだろう。彼女は能力の使い過ぎで疲労しているのか、抵抗する様子もない。
上条はゆっくり目を左右に動かした。天野雫と中島和三郎と思われる人物は見当たらない。
「とっとと質問に答えろっ!! お前らはこの娘の仲間か!?」
ギャングハットの男は大声で叫ぶと、右手を瀬戸口の頭に押し付けた。よく見るとその右手には拳銃が握られている。
「お、お前こそ何もんや」
銃に怯えた上条が震える声でそう聞いた。だがあの男、どこかで見た覚えがある。
「私が何者かわからないと言うのなら、この娘の仲間ではないな……」
ギャングハットの男は右手に持つオート拳銃、コルト・ガバメントを上条に向けた。「仲間でないのなら用はない。死んで貰うぞ」
辺りに緊張感が拡がると、横にいた拓人が左手を前に構えた。
「そんな物騒なもんしまっとけ、撃っても弾の無駄遣いになるだけだぞ」
ギャングハットの男が頬を歪めた。「亜種か? だが、拳銃には敵うまい……」
引き金に掛かる指に力が入ると同時に、拓人を中心に突風が舞い上がった。
「パンッ! パンッ!」
銃声が鳴った。しかし銃弾は当たらない。強風に呑まれどこかに吹き飛ばされたようだ。
「言っただろ。俺らに銃は通用しねえって」
拓人にそう言われると、ギャングハットの男は怒りで顔が紅潮していった。
「私を怒らせるとは愚かな小僧だ。風を操るようだが、そんな能力は距離さえ詰めれば何の意味もなくなる。例えばこんな風に……」そう言って左腕で押さえつける瀬戸口の頭に、コルト・ガバメントの銃口を突き付けた。
「これはこれは、どこかで耳にした声だと思ったら、もしかして物部先生ではないですか?」
その時、不意に後方から声が聞こえてきた。顎を上げ何か匂いを嗅ぐように鼻をひくひくとさせ現れたのは、遅れてやってきた貞清であった。
「貞清ぉ……。また、性懲りもなく現れよったか」
物部と呼ばれた男は、手にしていたコルト・ガバメントを今度は貞清に向けた。
「物部先生。いくらここが法律の及ばないところとはいえ、拳銃とは良からぬ了見ですよ」
「黙れ貞清っ!! どうせ貴様もグルなのだろう。悪魔の能力者をどうするつもりだ!!」
叫ぶ物部がちらりと倒れている竹村亜樹を見やる。それに合わせ、目の見えぬ貞清も一瞬だけ竹村に顔を向けた。
「さあ? 特にどうするつもりもありませんけどね」
「とぼけるなっ!! 1度ならず2度までも我らの邪魔をするとは、警察はデーンシングと敵対するというのだな!」
貞清は面倒だと言わんばかりに、白髪頭をポリポリと掻いた。
「お聞きしたいのですが、警察はいつからあなたたちの仲間になったというのでしょうか?」
「戯言を……。世界中の捜査機関は我々と友好関係にある。日本の警察とて例外ではない。理解したのなら悪魔の能力者を置いて、とっとと立ち去れ!」
物部が不気味に口を開き威嚇する。その先にいる貞清も見えない目で睨みつけているようだ。
「物部先生。私は残念ながら、誘拐された人間や困った人を助けたいなどという高尚な気持ちがあってこの仕事をやってるわけじゃないんですよ。私が正したいのはこの世の正義ではなく、警察内部の腐敗。それを正すには、デーンシングという組織が非常に邪魔だったりするわけですよ」
貞清が前に歩を進める。狼狽した物部は拳銃を瀬戸口の頭に突きつけた。
「待て! これ以上近づいたらこの娘の命はないぞ」
テレビドラマにありがちなその月並みな台詞を耳にすると、貞清は残念そうな顔で嘆息を漏らした。
「大丈夫ですか? その女性も亜種のようですが……」
そう言われ、物部が「あ?」と口にすると、その腕に捕まっていた瀬戸口の目の奥に光が宿った。
「ジャンプッ!!」
その瀬戸口の声と共に、物部と瀬戸口は一瞬にしてその場から姿を消した。




